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Workshop: Pre-Raphaelitism, Aestheticism and Japan (II)

2014-01-26 17:28:44 | 企画(講演会)
[続き]


(画像はこちらより)

Workshop: Pre-Raphaelitism, Aestheticism and Japan
(ワークショップ「ラファエル前派主義と唯美主義」)
筑波大学東京キャンパス文京校舎 2014年1月25日

1. Alison Smith (Lead Curator, British Art to 1900, Tate Britain)
―― Pre-Raphaelite Technique
2. Ayako Ono (Associate Professor, Shinshu University)
―― Whistler, Japonisme and Japan
3. Kazuyoshi Oishi (Associate Professor, The University of Tokyo)
―― Romanticism, Pre-Raphaelites, and Japan
4. Yasuo Kawabata (Professor, Japan Women’s University)
―― Ruskin, Morris and Japan in the 1930s
5. Tim Barringer (Paul Mellon Professor, Department of the History of Art, Yale University)
―― Politics and the Pre-Raphaelites
6. Jason Rosenfeld (Distinguished Chair and Professor of Art History, Marymount Manhattan College)
―― Pre–Raphaelites in Pop-Culture

[関連美術展]
・「ラファエル前派展」(2014年1月25日~4月6日、森アーツセンターギャラリー )
・「ザ・ビューティフル(唯美主義)展」(2014年1月30日~5月6日、三菱一号館美術館)
・「ホイッスラー展」(2014年9月13日~11月16日、京都国立近代美術館/2014年12月6日~2015年3月1日、横浜美術館)

――――――――――――――――――

昨日は前半の三名の発表に関してその内容をまとめた(→ 1月25日の記事)。
今日は後半の三名に関して。

まずはYasuo Kawabata氏。
Wikipediaの著者ページのリンクを貼り付けておいたが、モリスやラスキンの著作をはじめとして、ラファエル前派の活動に関わった人物の著作を多数翻訳されている方である。
近訳には岩波文庫から昨年の夏に刊行されたモリスの『ユートピアだより』がある。

今回のワークショップ(注:タイトルは"Pre-Raphaelitism, Aestheticism and Japan")で発表された六名のなかで、最も"Japan"すなわち、日本における19世紀英国美術の「受容」の側面に重点を置いた発表であった。

発表のなかで主に言及されていたのは次の二名。
御木本隆三氏と大槻憲二氏である。

御木本氏はラスキン文庫の立ち上げに携わったことで有名だ。
私も(特に会員というわけではないが)ラスキン文庫主催の講演会には何度か行ったことがある。

一方で大槻氏は精神分析学者である。
モリスに関する著作や訳書も出しておられる。

二人とPRBの周辺人物との交流について紹介されていた。
ちなみに発表タイトル("Ruskin, Morris and Japan in the 1930s")にある「1930年代」というのは、1834年に生まれたモリスの生誕100周年にあたる時期に、日本でモリス受容が盛んになったことと関連がある。

続いて五番目に発表されたのは、Tim Barringer氏。
タイトルは"Politics and the Pre-Raphaelites"。

氏も発表冒頭で述べていたが、頭韻(alliteration)が踏まれている両語(Politics/Pre-Raphaelites)は、通常、なかなか結びつくものではない。
マルクスの影響を受けて社会主義へと傾倒していったモリスは措くとしても、他のラファエル前派の画家たちは、特別何らかの政治性をむき出しにした作品を遺しているわけではない。

しかし歴史を振り返れば、ラファエル前派兄弟団が結成された1848年は、英国でいわゆる「チャーティスト運動」が最後の高揚をみせた年でもある。
氏の発表によると、(少なくとも)初期のPRBはこうした運動に共鳴し、実際に数名が、いま貼り付けたページのトップの絵画で描かれているような集会に参加していたという。

PRBの面々を駆り立てたのは、特別な政治的志向の問題というよりは、アカデミズムに代表されるいわゆる「エスタブリッシュメント」への反抗の思いが強いのだろう。

また、氏は発表のなかで様々な絵画作品に触れていたが、なかでも中心的に取り上げられていたものが、フォード・マドックス・ブラウンの描いた"Work"である。
画家自体は日本で決して一般的に有名とはいえないが、彼の作品のうちで最も完成度の高いもののひとつがこの"Work"である。

氏の指摘によると、中央左の背筋の良い男性像(労働者)は、有名な彫刻作品"Apollo Belvedere"の優美さを受けたものであるという。
この作品には他にもホガースの《ビール街》(cf. "Beer Street and Gin Lane")へのオマージュがみられ、細部まで凝った、大変興味深い作品となっている。

モリスほど極端ではないにせよ、ひとことでいうならば〈労働賛美〉ということだろう。
こうした政治性に関しては、氏自身による著作Reading the Pre-Raphaelitesに詳しく書かれているという。
また機会があれば読んでみたい。

では最後の発表者に移りたい。
ラファエル前派と現代の「大衆文化」との関連を紹介されていたJason Rosenfeld氏である。

確かに「ラファエル前派兄弟団」の実質的な活動は数年で終わった。
しかし彼らの精神は、今でもなお息づいている。

氏は現代の様々なメディア表象におけるPRB的要素(とりわけその強烈な女性像との関連)を挙げておられた。
例えば、ディズニー映画"Brave"(2012)における印象的な女性像、またKirsten Dunst主演のハリウッド映画"Melancholia"(2011)におけるミレイの《オフィーリア》へのオマージュ。

PRBの面々が"Stunner"といって讃えた彼らのミューズたちは、今でも我々を「打ち負かす」。

このように、発表者各六名は実に多面的にPRBをはじめとする19世紀英国美術の諸相を捉えたのだった。

ここからは講演全体を通しての雑感を述べる。

・ラファエル前派にしても唯美主義にしても、共通していたのは、インスピレーションを「ピュア」なところに求めたということではなかったか。
PRBにとってはアカデミズムの手垢に染まる前の「純粋な」絵画様式であり、唯美主義の二大源流「古代ギリシア」と「日本」に関しては、いずれも(少なくとも)当時の大陸の人々にとって、「聖性」さえももちうるほどに自分たちとは異なる文脈で完成された、新鮮でかつ色あせぬ美であった。

・ラファエル前派展のキャッチコピーに「それは懐古か、反逆か?」というのがある。
個人的には「反逆」的側面が強いのだろうなとは感じていたが、一方で「懐古」的側面も否定しきれずにいた。

しかし今回各発表を聞いていて、やはり「反逆」の方が大きいのだろうなとの確信が強くなった。
発表者のひとりが最後の質疑応答のときにモリスの『ユートピアだより』を引き合いに出して言っていたが、PRBの活動は単なる"looking-back"ではない。

モリスの著書にあらわれているように、彼らが志向したのはむしろ、〈未来〉の方である。
保守的なアカデミズムに〈未来〉はないとも感じたのであろう。

彼らは保守的な画壇の体制を〈変えてゆく〉ことに意義を感じていたのである。

最後の雑感に関してはまったくとりとめのないものになってしまったが、ワークショップ全体としては、極めて刺激的で、有益なものだったように思う。

各関連展覧会の盛り上がりを祈念したい。

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