旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

250ccと砂漠のラリー2

2017年04月27日 | その他
 メーカーさんにご協力いただいたから言うわけではありませんがDjebel250XCはとても良いバイクで、250ccとはいえ、硬い路面ならトップスピードは130km/h位は出ますし、燃費も良くてビッグタンクを付けなくても(最初から18リットルタンクがついているわけですが)レギュレーションで要求される航続距離はカバーできそうです。

 カナダやオーストラリアのバイクツアーで散々乗ったDR350Sと比べると、パワーやトップスピードは同等、車両はずっと軽量。サスペンションは大幅に進化しているのです。10年の進化を感じます。

 とはいっても小排気量はラリーが始まると仏門に入ったような修行の世界。強い自制心を要求されるので速く走れるテクニックを持った人だとストレスで精神が破綻するかもしれません。幸い、私はたいして自制心はありませんが、元来怖がりなのでバイクが遅くてもストレスはありません。

 昨年の650ccは少し変な扱いをするとあっという間にスイングアームが埋まるまでスタックしたものですが、250ccとなるとそこまでスタックするパワーもありません。ライダーの失敗には優しいバイクです。

 とはいえ、30HPしかないバイクでは大きな砂丘を越えるのは難しいのです。深い砂だと平地でも2速までしか使えず、全開で80km/hが限界となると、砂丘を走ったことがある方なら絶対的に助走不足になることが想像していただけると思います。

 コースが砂丘地帯に入ると困難の連続です。前年の経験でスタックさせると体力も時間も大きくロスすることを学んでいた私はスタックする前に折り返しては再トライを繰り返すのですが、登りきれずに何度も行ったり来たりを繰り返すばかり。

 何年も前に見たダカールラリーの映像が頭に蘇ります。4輪部門に2輪駆動車、カローラレビンで挑戦した日本のチームACP。砂丘を越える時に一度Uターンして手前の砂丘に登って、再びターン。下り坂を利用して助走速度を稼いでいたのを思い出したのです。

 ”あんな風にやってみよう”

 コース脇の高い砂丘を使ってみることに。まずは目指す砂丘を限界まで登って折り返し、下る勢いで手前の砂丘に限界まで登って折り返し、下る勢いで目指す砂丘を....なんとか越えることができました。映像で見ただけですが、チームACPの皆さんに感謝。

 さて、やり方が見えてくると幾つか別のテクニックも見えてきました。いつも極力高い位置を維持して、いつでも下り坂を利用して加速できる場所を走る事とか、砂丘のコブを上手く使って、登ったり下ったりを繰り返しながら砂丘を越えていくとか。まるでパズルを解くようでいつも頭をフル回転。だから、とっても頭が疲れてしまいます。

 大きな砂丘で判断がつかない時は手前にバイクを停めて作戦を練ります。コース脇でバイクに跨ってじっと砂丘を眺める私を後続してきたオフィシャルカーが心配して”大丈夫か?乗って行くか?”と尋ねられたりもしたものです。前に書いたように、追い越しざまに水を落としていってくれる4輪出場車もありました。

 ピストやダートを気持ちよく走っているときも注意が必要。後続してくる4輪とは100km/h近い速度差があるので、多分相手にとってはものすごく迷惑な障害物。だからバックミラーから目が離せません。バックミラーに映ったら次の瞬間にはぶつかる位の距離までせまっているのですから、早めにコースを譲ります。

 他の人達は全員レースをしています。私は単に”走っている”ものですから邪魔はできません。

 ラリー用に改造したバイクは申し訳程度にバックミラーを付けている車両が多いのですが、私は左右ともちゃんとしたバックミラーを付けていたのです。

 さて、色々な事がありながらも、どうにか最終日のスタートを切った私、ディープサンドのピストを走っていく前方にドンと大きな砂丘が立ちはだかりました。砂丘群の中にあるわけではなくてちょうど富士山のように単独でそびえているのです。見えた瞬間からアクセル全開で斜面へ挑むのですが1/3も登れず折り返します。同じく登り直すために折り返そうと押して下りているヤマハWR400が1台。

 コースをずっと引き返して助走距離を稼いで登り直すこと数度、やっぱり半分も登れません。助走に使えそうな斜面が無いので万事休すです。

 ”これは無理だ。根本的に考えを変えよう。もしかしたらここで終わったかも”

 砂丘全体が見えるところまでルートを引き返してバイクを停めて考えます。すると当たり前な回答が見えました。

 この1個しか砂丘は無いのだから迂回すれば良い。
 オンコースを塞いでいる砂丘を越える事に夢中になってこんな簡単な答えが出せなかった自分の頭の悪さに呆れます。1人で苦笑い。

 完全に迂回すると大きなロスになりそうなので斜面が緩やかになっている右肩を抜けてピークを通らずに回避することに決めました。

 ちょうど昼時。太陽の光がトップライトになってギャップがほとんど見えない時間帯でした。

 幸い、砂丘の暖斜面は誰も走っていないので砂も崩れておらず走りやすい状態。これでなんとかなりそうと思って気が緩んだ瞬間、見落とした溝に飛ばされて転倒。右足がバイクの下敷きになりました。

 バイクから抜け出そうともがいている私。そこへ後続してきたカミオン(トラック)が視界に入ってきたのです。

 オンコースを走っていたカミオンは突如ハンドルを右へ切って私と全く同じ迂回ルートを選択したのです。まっすぐこちらへ向かってくるカミオンに恐怖を覚えるのですがバイクからなかなか抜け出せず焦るばかり。

 なんとかバイクから抜け出した私はこちらへまっすぐ向かってくるカミオンに向かって猛ダッシュ。必死に両手を振り回して存在を知らせるのですが、こんなところに人がいるわけないと思っているのか見えないのかまっすぐこちらへ向かってきます。

 レーシングカミオンが凄まじい砂埃を巻き上げながら、まっすぐ自分に向かってくる迫力は凄まじいものです。

 私が転倒するきっかけになった溝の手前でようやく気がついてくれてハンドルを切ったカミオンは溝で大きくバウンドして、転倒したままになっている私のバイクのすぐ横に着地して走り去っていきました。

 ちょっと怖かったけれど、一つ特典つき。彼らはダカールラリーの常連。プロ中のプロ。多分、最良のコースを選んで走っていったはずです。砂漠には見間違いのようのない轍を刻んでいってくれました。

 呼吸が収まるのを待ってカミオン独特の轍を目印にその砂丘を越えることに成功。

 砂丘の向こう側へ抜けてようやく下りに差し掛かると、先程のカミオンが砂埃をあげながら走っている姿が見えます。

 ”ちょうどいいや。ナビゲーションするのはやめてあのカミオンを追いかけよう”

 ところがアクセルを開け続ける私を軽く置き去りにしてカミオンもその砂埃もあっという間に視界から消えていきました。カミオンは見た目よりずっと速い。当然、250ccのバイクより速い。

私が250ccで走った砂漠のラリーはこんな感じ。出場車両全ての中で一番遅い乗り物。テクニックより速さより忍耐力が試されます。

 スーパーカブで旅するタイ北部でチェンマイからチェンライへ向けて走る度に思い出すのがこの”誰より遅い乗り物で走ってる”感覚。乗用車はもちろん、トラックや観光バスや地元のバイクなどなど、色々な乗り物が結構な速度差で追い越していきます。ちゃんとバックミラーを見ていないと危ないのです。後続車両を見ながらお客様にも手信号で注意を促したり、忍耐力が試されます。


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