旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

自己アピール

2013年04月25日 | 旅行一般
 今は事業規模を縮小したので求人を行っていませんが、以前求人を行っていた頃の話。

 面接の際にいつも聞いていた質問の一つは、”どうして旅行の仕事に就きたいのか?”という質問でした。正解があるわけでなく、むしろ答えの辻褄が合っているかとか、あるいは適度にあがっているいるかどうかなどを漠然と観察しているわけなのです。妙に胆が据わっている求職者も少し気味が悪いですから。

 答えには年によってトレンドがあり、おそらく就活がらみのマニュアルのトレンドとリンクしているのでしょうが、次から次へと”人と接するのが好きなので外回りの営業ができる仕事を”と奇妙な答えが返ってくる年もありました。こちらも面接のプロではありませんし小規模な会社なので大人数の面接をこなすわけではありませんが、それでも数人が同じ答えをしたらすぐに”マニュアル通り”なのだと想像は付きます。これから就活の皆さん。このあたりは注意した方が良いかもしれませんね。マニュアル通り動いてくれる人を探している会社もありますが、割合は少ないと思います。

 少し話がそれました。”どうして旅行の仕事に就きたいのか”という質問に対してもっとも多く返ってきた”自分の旅行経験を生かして皆さんに楽しんでいただける企画を作っていける仕事がしたい”という答えでした。私自身、旅行の仕事についたときの思いは同じでしたから、この答えは比較的模範解答なのですが、それに続けて必ず聞き返す第二の質問は”あなたの旅行経験を教えてください”になります。

 これに対して、”友達3人とシンガポールへ4泊5日のパッケージツアーで行きました”とか、”修学旅行でハワイに行きました”とか、"家族旅行で香港に3泊4日行きました”というのが唯一の旅行体験という人がとても多かったのです。いや、本当は全員がこのレベル。

 ”うちのお客さんは、あなたの旅行経験程度のものを生かしてもらっても困るという人ばっかりですよ。”と心の中で思いながら”連絡します”と面接を切り上げざるを得ませんでした。就活のポイントは自己アピールなのかもしれませんが、背伸びした自己アピールは滑稽にしか映りません。

 まるで相手に精一杯大きく見せようと体中の毛を逆立てて”フーッ”と威嚇している猫みたいですね。

 旅行中も同じような姿を目にすることがあります。”自分は何でも知っているんだ”とばかりに周囲に高い壁を築き上げて、事前に調べた情報やガイドブックの情報をただひたすら無言でトレースし続けている旅行者。誰の世話にもならない事こそ一人旅と頑張っているのかもしれません。自分で何でもできると思い込んで行動しているけれど、実態は周囲の人に結構迷惑をかけてしまっている事に気が付いていないだけ。周囲の人は”旅行者だからしょうがないね”と大目に見てくれている事にも気が付いていない人もいますね。

 正直、私もそんな頃がありました。客引きや、その辺にたむろしているタクシーのドライバーなどとは目を合わせないようにして、あるいは他の日本人旅行者とも目を合わせないようにしていた事もありました。

 同じ自己アピールでも、”私は旅行者なんでなーんにもわかりません”という態度で旅行していて損をする可能性があるのは、”コイツ、カモにできる”と思われる可能性。これを恐れていた頃、やっぱり周囲に壁を気づいていました。でも、逆の視点に立てば、”なーんにもわかりません”という態度で旅行していれば”相手が自分をカモにしようとしているかどうか”も見極め易いです。やり方次第では”カモにしようとしている相手とカモにされない程度に付き合う”事もできるようになります。

 私の今までの経験から言えば、カモにされてしまうよりもむしろ、何もわかっていない自分を本気で心配してくれたり、全力で助けようとしてくれたりする心優しい人と出会える事の方が圧倒的に多いのです。第一、”何もわかってません”という自己アピールを軸にしておけば少々間違ったことをしても笑って済ませられますから気が楽です。

 他の旅行者に”初心者”だと見られるんではないかという”見得”もあります。初心者だと見られないように懸命に何でも知っているような態度で自己アピール。これは自分が他の旅行者を”初心者かどうか”とう尺度で測っている事の証。自分が旅行経験を積んで、そういう尺度が消えていくとともにこういう見得も消滅していきます。

 せっかく自由な旅に出るのであれば、良い人にも悪い人にも沢山出会って、人のいろいろな側面を実体験してみる機会をみすみす失う事はもったいないと思います。もちろん酷い目には合わない程度のバランスをうまく工夫することを忘れてはなりませんが、肩ひじ張った自己アピールは忘れて、声をかけてくる人がいたら立ち止まって少し話を聞いてみてください。

.....ヤバそうだったら不意を衝いて走って逃げましょう。

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