海辺の町から

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冬山の一日

2021-01-02 16:48:10 | 日記

  鬼ヶ城は雪です


  闘牛が盛んな宇和島です


昔のその又昔初めて冬の赤岳に挑戦したときでした。

テントを叩く風音が不思議にも快適に聞こえ始める。 眠い
何度も何度も時計を見るが進んでくれない 時計が止まって
いるのではないかと思う。ウトウトして又時計を見る。この
動作の繰り返しである。最後にはいったい自分が起きている
のか眠っているのか境が分からない 眠気は定期便の如く大
海の波のように押し寄せる 足を縮こませ僅かな隙間を残し
て寝袋を被り寒さに耐えていたが 其れも暫くすると息苦し
くなり自分の吐く息が何時しか水滴となり顔を伝う。もてあ
ましていた身体にも朝はやって来た。時計は壊れてはいなか
った。思えば今日は一月一日。
1978年の幕開けを山の中で迎えていたのだ 狭苦しいテント
の中にも新しい年が「あけましておめでとう」と一同に配ら
れたお屠蘇と雑煮でささやかな新年の真似事を味わい新しい
年に酔っていた。そして今合宿中のメインである赤岳へ条件
さえ許せば全員が登頂できるという 昨日硫黄岳を目前にし
て引き返した心惜しさも手伝ってか新米一年生の怖さ知らず
か 不安よりも好奇心の方が先立って嬉しくてしょうが無い
八時半 視界は決して良いとは言えないが風は凪いでいる。
気温も七時で0.5度と暖かく少し不気味さを感じる。行者小屋
のテント場をあとに小屋を右に折れ急登の地蔵尾根に取り付く
と暫くはダケカンバの樹林帯をラッセルの苦労も無くトレース
のついた思ったよりも楽な登高が続いた一昨日の過重に比べ空
身に近い状態で歩いているせいか至極快調である。しかし樹林
帯を抜けひとたび稜線に出るとさすが凪いでいた風も雪を伴っ
て容赦なく身体に降りかかってくる 風に舞った雪が顔に当た
って痛い 鼻をグズグズ言わせ前髪に氷柱のカーテンを作りな
がら二度と踏めぬかも知れない岩稜を一歩一歩確実に足を運ん
でいた 視界の効かない稜線は雲上の散歩よろしく魅惑的な幻
想の世界へと誘ってくれる。晴れた日には雪を頂いたアルプス
を欲しいままに出来るだろうに 
アイゼンの手応えが面白いほど伝わってくる岩稜を過ぎるともう
惰性で下る振り返ることも無くズボッズボッと加速をつけて降り
る中岳と阿弥陀のコル 中山乗越での雪上トレーニングを終えテ
ント場にたどり着いた時はもう夕暮れも近かった。

以来アルプスの山を登る機会も無く海辺の町に嫁いできた。
良かったのかどうだったのか未だに答えを出せずにいます。