今回は、「伊万里 染付牡丹文火入れ」の紹介です。
この火入れは、昭和53年に、古伊万里コレクションのための教材用として、4,500円で手に入れたものです。
前に、このブログで紹介しましたように、私が古伊万里第1号の「伊万里 染付草花文油壷」を手に入れたのが昭和49年ですから、それからまだ4年ほどしか経過していませんでした。
従いまして、私は、その頃は、まだ、よく、古伊万里のことが分からず、勉強中というところだったわけですね。
今ですと、若い古伊万里コレクターの方が、初期伊万里の陶片を購入して、初期伊万里の勉強をしているのと同じようなものですね。
ところで、この火入れを購入した頃は、元禄・享保くらいまでの物を「古伊万里」と言い、その後の物は、十把ひとからげで「幕末物」とされ、ほとんど相手にされないような状況でした。
でも、古伊万里をよく分からないなりにも、「元禄・享保」に近い物と「明治」に近い物との間には、かなりの相違があるように感じました。それを十把ひとからげで「幕末物」とひとくくりにしてしまうのも乱暴な話ですよね(-_-;)
それで、少し勉強する必要があるなと思ったわけです。そこで、勉強に取り掛かったわけですが、「元禄・享保」に近い物は、やはり、高額になるんですよね。それならばということで、今度は逆に、「明治」に近い物を購入して勉強しようと思ったわけです。それよりも古そうなものほど「元禄・享保」に近い物になるわけですものね。単純で安易な方法です(笑)。
そんな折に出会ったのがこの火入れなんです。
この火入れには口縁付近に大きな疵がありますし、いかにも幕末物という風格(?)なので、幕末物の陶片の値段でもいいくらいですから、4,500円は高いように感じますよね。
ただ、この火入れには、高台内に「安政年製」の銘が入っているんです。教材用としてはピッタリですよね。そんなことで、陶片の値段にはならなかったわけです。
またまた、前置きが長くなりましたが、次に、この火入れの写真を紹介します。
正面
正面から左に90度回転させた面
正面から右に90度回転させた面
口縁から胴にかけて大きな疵が見られます。
見込み面
底面
高台内 「安政年製」銘
この火入れの最大の取り柄です(笑)。
製作年代: 江戸時代後期(安政年間)
サ イ ズ : 口径;10.7cm 高さ;9.5cm
なお、この火入れにつきましては、今では止めてしまいました拙ホームページの「古伊万里への誘い」でも取り上げていますので、参考までに、それも、次に紹介いたします。
「古伊万里への誘い」
<古伊万里ギャラリー77 「古伊万里様式染付牡丹文火入れ」>(平成16年6月1日登載)
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いかにも幕末伊万里という風体である。
しかも、高台内に「安政年製」と書いてあり、戸籍謄本が添付されているようなものだ。
そういう意味では、「幕末伊万里とはこういうものをいうんだ! これで勉強しろ!」とでも言ってるみたいである。
その時代の生き証人というところだろう。
もっとも、骨董の場合、年号をそのまま信ずることは危険である。
安政時代に、安政より前の、たとえば元禄の年号を入れることは可能であるから、「元禄年製」と書いてあるからといって、本気で元禄時代に作られたのだろうなどと思ったら誤りである。
その物の作られた時代とその物に書かれた年号とが一致するかどうかを判定出来なければならないのである。
そういうところが骨董である。この火入れのような、その物の作られた時代とその物に書かれた年号とが一致するような物で勉強していって覚えていくほかないのである。その点では、この火入れは教材でもある。
江戸時代後期 口径:10.7cm 高さ:9.5cm
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<古伊万里バカ日誌19 「古伊万里との対話(火入れ)」>平成16年5月筆
登場人物
主 人 (田舎の平凡なサラリーマン)
伊 助 (古伊万里様式染付牡丹文火入れ)
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伊助 口径:10.7cm,高さ:9.5cm | (高台内) |
・・・・・プロローグ・・・・・
どうやら最近主人のところの所蔵品が底をついてきたようである。もともとたいした量を所蔵していないのだから、当たり前といえば当たり前だが・・・・・。
今までのように3~4点ずつ登場させるというようなことを続けていては、まもなく行き詰ることは火を見るより明らかであった。
そこで主人は、出し惜しみすることを思いついた。1点程を押入から引っ張り出してきて対話をすることにしたのである。
主人: 今回からは少数に出てもらうことにした。1対1でゆっくり四方山話が出来るというものだ。ありがたいだろう。
伊助: はい、それは大変にありがたいことです。じっと押入の中で待っていた甲斐があったというものです。(「所蔵品が底をついてきたので出し惜しみをはじめたにすぎないのに、よく言うよ!」と独白。)
主人: それにしても暫くぶりだな。お前が我が家に来たのが昭和53年だから、もう26年になるよ。来てから少しの間は飾り棚の上などにいたが、まもなく押入れ入りをしたので、ほぼ四半世紀ぶりというところだ。
伊助: 殿堂入りでもしたのでしたら名誉あることなのですが、押入れ入りではね・・・・・。
それにしても、もう、押入れ入りしてから25年にもなるんですか。このぶんですと、百年なんかあっという間ですね。いったん押入れ入りしたり、お蔵入りしたりすると、「骨董品」に変身することなんかわけないですね。
そうはいいましても、25年に1回しか日の目を見ませんから、百年たっても4回しか日の目を見ないことになります。それは淋しいことです・・・・・。
主人: 悪かった。そう言うな。
でもな、その間に世の中変わった。今ではインターネットとかいう時代になったんだ。いったんこうして登場すると、一年中、日の目を見ているんだよ。世界中の人々に四六時中見られているんだ。衆人監視というやつだな。もっとも、誰も見に来てくれなければ野晒しということにもなるがな。
伊助: また年数の話に戻りますが、私は安政時代(1854~59)に生まれていますから、約150歳になります。そのうちの6分の1をここで過ごさせてもらいました。思えば、暗い辛い日々でございました。でも、今の話を聞いて、これからは、明るい楽しい日々を過ごせるんだなーと思うと嬉しくなりました。
主人: そうそう、お前は安政生まれだったな。
お前を買った当時、私は、まだ古伊万里のコレクションをはじめてから日が浅かった。いうなれば初心者というところだった。古伊万里初心者としては、どうしても幕末物に目が行く。幕末物は値段が手頃だからね。それに、仮に偽物を掴んでも、傷口が浅くて済む。高価な元禄古伊万里なんかには、容易に近付けなかった。骨董には偽物がつきものだからね。今はやりの言葉で言うと「自己責任」の世界だよ。だまされないためには、少しずつ勉強し、だんだんステップを上げていくほかはないね。
そうした時にお前に出会ったんだ。一目見て、「あっ、幕末の伊万里だ!」と思ったね。そして裏を見たら、高台内に「安政年製」と書いてあるじゃないの。嬉しかったね。
「私も、ちゃんと、幕末伊万里の判定をすることが出来るようになったんだ!」
と思うとね。
もっとも、幕末伊万里の偽物なんぞ作っても採算が合わないから、幕末伊万里などには偽物は少ないだろうが、それにしても、現代の伊万里なのか幕末の伊万里なのかを判定出来るようになるかならないかは、古伊万里コレクターにとっては大きな意味を持つと思うんだよね。
伊助: 私は、古伊万里初級クラス卒業のための試験問題だったわけですか?
主人: そうだ。合格祝いの記念として大切にしてきたんだ。
伊助: でも、あまりにも大切にされすぎました。押入れの奥の奥へと・・・・・。
主人: 悪かった。またそれを言う・・・・・。
伊助: それはそうとして、私は何の目的で作られたのでしょうか?
主人: 「火入れ」だろう。昔は煙草盆の中に「火入れ」と「灰吹き(灰落とし)」が入っていた。今のようにライターなどというものはなかったから、「火入れ」の中に炭火を入れておいて、いつでも煙草に火を付けられるようにしておいたわけだな。
伊助: なるほどそうですか。
ちなみに、価値としてはどうなんですか?
主人: お前には悪いが、はっきり言って、それ程の価値はないよ。幕末は幕末の価値しかないし、火入れは火入れとしての価値しかない。
でも、「安政年製」と書いてあるところは希少価値だろう。
こんなところで今日は終わりにしよう。