けが人が出なかったこと、奇跡的に機械本体の損傷が皆無だったこと、落ちたパネル自体の損傷も軽微だったことは、まさに奇跡的な『不幸中の幸い』だった。
「新垣さん、こっちのパネルはそのまま入れちゃって大丈夫?」
佐野が下部のパネルの被害を確認している新垣に声を掛ける。しゃがみ込んでいた新垣は立ち上がると天井を見上げ、薄い筋のようなパネルの凹みを見て考えている。
「まあ、特に修理が必要って部分では無いですからね」
「かかりの部分はどうだ?」
佐野が赤城に問い質す。
「ああ、今プライヤーで挟んで直したよ、塗料もほとんど剥げてないし」
赤城が手でオッケーサインを出す。
「じゃあこのまま吊り直して入れ込んで構わないですか?」
「それは構わないけど、今やっちゃいます?」
新垣が軽く驚いた顔をする。
「ええ、こいつを入れ込んで午前の作業は終了ですよ」
そう言うと佐野は天井クレーンのペンダントスイッチを手に取り、新垣に機械の外に出るように促す。
「ウハハハ、木田君、新品の機械なのにいきなり傷物になっちゃったね」
「…ええ、まぁ…」
天井パネルの上で赤城が無神経なことを口にして私に同意を求めるが、とても笑って答えられる気分ではなかった。
「いやぁ、またB社さんには嫌がられちゃうなぁ…、俺、前も天井パネルを落としちゃってさ、その時は身体を張ってパネルを受け止めようとしてね、指を骨折しちゃったんだよね」
「・・・」
私は赤城の言葉に耳を疑った。落ち込んでいる私を慰めようとしているのかもしれないが、今は素直にそう受け取れる気分では無い。
「(それで今回もこの有様?だったらもっと慎重に作業しろよ!)」
心の中で叫んだが、それを口に出すことは出来なかった。私も明らかに同罪だからだ。
仕切りなおしの作業が始まる。
「準備はいいかぁ?先にそっち側から平行に落とせよ」
今回は至近距離で、佐野が細かく指示を出す。
「そっちのフックを外せ!」
三人で慎重に作業を進める。
「よし、降ろして!」
パネルは、
「ゴトン…」
という音と軽い振動と一緒に、ようやく所定の位置に収まった。
「ふぅううう…」
変な緊張感から解放され、一瞬放心する。
「よし、昼飯にするべ…」
佐野の言葉で我に返り、私と赤城は機械の天井から地上に下りた。
「いやぁ、佐野君、悪い悪い、平行にして落とし込もうと思ったんだけど、予想以上にパネルが回転しちゃってね、あっと思った時には下に落ちちゃってたんだよ」
赤城が佐野に釈明をする。暗に私のせいだと言っているのか、それとも私を庇っているのか、どちらにも取れるような中途半端な言い方だ。
「だからパネルを平行にしろってあれほど言ったべ、ま、けが人が出なかったのが救いだよ、パネルは直すか交換すればイイ話だからな」
佐野は淡々と答えると、食堂に向かって歩き出した。
私は筋肉疲労と萎えた心を引きずりながら食堂に向かい、ノロノロと道路を歩き出したのだった。