気づけば作業最終日、一週間なんてあっという間です。
連結バスに二階建てバス
中国の交通事情は見ていて飽きません。
心配していた内側に穴が開いたパネルは、20cm角のアルミ板で穴を塞ぎ、修理完了となっていた。
「すみませんでした…」
新垣に改めて謝罪をすると、
「うん、まあ、怪我人は出なかったし、これでとりあえずお客さんも納得してくれたからね」
と言われた。だが、前回の工事の時の件も含め、最終的には私個人の信用は失ったような印象だ。
「はぁ…」
重い体を引きずりながら、ため息を吐く。
「無いわけ無いだろう?」
佐野の声が聞こえてくる。
「無いよ、中国には10.5mmのドリルは無いよ!」
相手はまたしても怪しい中国人社員の金だ。
「10mmのアンカーが存在するのに、無いわけねぇべや」
「大丈夫でしょ、10mmのドリルで」
「揉みながら開けろってか?」
「出来るでしょ?」
「やれって言うならやるけどさ、仕上がりは保証しないよ!」
佐野は金にそう答えると、首を捻りながら戻って来た。
「赤城ちゃん、適当にやっちまうぞ…」
「了解」
前回の工事の時から感じていたのだが、佐野は今後のことも考慮して、なんとか客先の中国人スタッフを教育しようと試みている様子だった。
「一度でも適当な工具でなんとかなるって思われると、ずーっとそのままだからな、あいつらは…」
きちんとした部品を用意して、適正な機材で工事を行う、佐野はそれを中国人スタッフに根付かせようと思っているみたいだった。
「だけど何回言ってもダメなんだよなぁ、脚立一つ用意出来ないもんなぁ、あいつら…」
佐野は今後もこの客先との付き合いが続くと見て、長期的な視野で考えているみたいだったが、ちっとやそっとじゃ中国人スタッフの意識は変わらないのが現実だ。
「ったくよぉ、手間が掛かってしょうがないよなぁ…」
佐野がドリルで穴をグリグリと揉みながら開け、ちょん切ったエアホースを挿し込みコンクリートの粉を吹き出す。
「キーちゃん、掃除機は?」
「金さんから借りて来ましたけどねぇ…」
私はそう答えると、乗用車の掃除に使うような大きさのハンディタイプの掃除機を佐野の前に突き出した。
「…なんだコレは?」
「いやぁ、日本の工事現場で『掃除機』って言えば、普通は『マキタの掃除機』が出てきますよね」
「コレでコンクリートの粉を吸えってか?」
「ええ、壊れてもイイそうですよ」
「イイも何も壊れるだろ…」
佐野の予想通り、このハンディ掃除機、三つ目の穴を吸い始めると、
「バホッ!」
という音を立てて、あらぬ場所からコンクリートの粉塵を噴き出し、全く吸わなくなってしまった。
「・・・やっぱりダメでしたね」
「だな・・・」
「古典的ですけど、ホウキとチリトリを用意しましたけど…」
「いや、それで十分だよ」
私と佐野が話していると、今度は赤城が声を上げる。
「あっ、やっちまった!」
「・・・」
「・・・」
またですか?という空気が流れる。
「佐野君、頼む!」
赤城はアンカーを叩いていたハンマーを佐野に手渡した。
「こんなに歪ませちまってから頼まれてもなぁ…」
佐野はブツブツ言うと、地面から斜めになってしまったアンカーを見て渋い顔をする。
「って言うかさぁ、この中国製アンカー、やけに弱くないか?すでに本体が歪んで来てるもんなぁ…」
佐野はアンカーを叩きながら修正し、強引に押し込んでいく。
「おあっ、なんじゃこりゃ!?」
次のアンカーを打ち込むと、今度はいきなりピンが折れてしまう。
「・・・」
「日本製じゃあり得ないよなぁ…」
「もうどうでもイイ気分になってくるな…」
「とにかく強引にでも打ち込んじまうぞ!」
我々は最後まで中国人気質と中国製品の品質に振り回されたが、何とか作業を終えホテルに戻ったのだった。