国分町のカプセルホテルはとても綺麗な所だった。
ホテルにはカプセルルームと同じく非常に清潔なサウナがあり、浴室内は広々としていた。
「やっぱりデカイ風呂は気持ちいいよなぁ」
モーリーは気持ち良さそうに湯船で手足を伸ばす。
「青春18きっぷの旅は体力勝負だからな」
一日中各駅停車の列車にガタゴトと揺られていると、意外にも内臓に負担がかかり、結構疲れるのだ。
「とりあえず体でも流すか?」
「おお、そうだな」
二人で洗い場に上がり並んで体を洗い始める。
ふと気付くと、モーリーの向こう側の一つ離れた椅子に座っているオヤジが、何やら小気味良い音をさせて体を洗っている。
「ガッシュガッシュガッシュ!カシュカシュカシュカシュカシュ、ワシワシワシワシ…」
オヤジの右手には茶色い物体が握られており、音はその茶色い物体と皮膚が擦れあう時に発生していた。
「何だあれは?」
私はオヤジをじっと観察する。
その時だった、オヤジはいきなり私の方を向くと、ニヤリと笑いながら話し掛けて来た。
「お兄ちゃん、オラの持ってる物が気になるか?」
「!?」
私とオヤジの間にはモーリーが居るので、いきなり自分を挟んで会話が始まったことにモーリーは驚いている。
「こいつはなタワシ、亀の子タワシだぁ」
「ほー、亀の子タワシですか、痛くはないんですか?」
「大丈夫だぁ、慣れれば全然痛くはねぇよ。ちょっと試してみっか?」
そう言うとオヤジはモーリーの隣にズイっと移動し、いきなりモーリーの腕をガシっと掴んだ。
「あ、いや、ええっ?」
戸惑っている若者を気にするでもなく、オヤジはいきなりモーリーの腕を左手で固定すると、持っている亀の子タワシで擦り始めた。
「ガッシュガッシュガッシュ!」
「うわっ、イテっ、イタたたた!」
モーリーは腕を引こうとするが、オヤジはしっかりと腕を握り込み、
「ガシュガシュガシュ!ガシュガシュガシュ!」
と擦り続ける。
「ちょ、ちょっと待って下さい、ストップ、ストップ、ストップ!」
モーリーは自分の手でオヤジの手と亀の子タワシを押さえ込み、強制的に制止した。
「どうしたい、お兄ちゃん、この程度は痛くあんめぇ?」
「いやいやいや、僕は肌が敏感なんで、とっても肌がデリケートなんですよ」
こういう時にサラサラとほとんど嘘の様な言葉が出てくるのが、モーリーの人間性だ。
「ったく、情けない男だなぁ、ねえオジサン!」
「そうだ、そうだぁ、男はこの程度、痛くても我慢しなきゃダメだぁ」
私の意見にオヤジも同意する。モーリーは私の顔を睨むと、完全な作り笑顔でオヤジに答えた。
「オジサン、こいつは肌が丈夫なんですよ、しっかりと背中もやって下さい」
そう言うとモーリーは私とオヤジとの間から立ち上がり、私の背後に周りこんで両腕を掴み、オヤジの横に引きずり出した。
「お、お兄ちゃんの番か?」
オヤジはそう言うと立ち上がって私の背後に周りこみ、いきなり背中を擦り出した。
「ガッショガッショガッショ!」
「ぬわぁああああ!」
背中に形容しがたい痛さが広がる。
「ちょ、ちょっと待って下さい、なんかメチャメチャ痛いんですけど…」
「そうかぁ?慣れれば気持ちイイぞぉ」
「い、いや、まだ僕は慣れてないんで…」
「そうかぁ?すぐに慣れるってぇ」
「いやいや、まだ初日ですから!」
私の意味不明な日本語に、なぜかオヤジは納得したらしく、
「それもそうか…」
という顔をして背中を擦るのを中止した。
「じゃ、ちょっと俺の背中をコイツで流してくれっか?」
「もちろんイイですよぉ!」
自分が擦られるのはたまらないが、他人を擦るのは大丈夫だ。
私はオヤジからタワシを受け取ると、右手に握りこんでみる。受け取ったタワシは新品と比較すると、毛の長さが半分ほどになっていた。
「こんな感じですか?」
軽くタワシで背中を擦ってみる。
「全然、それじゃ全然ダメだぁ」
「これくらいですか?」
「まだまだだぁ」
「これでどうですか?」
「もっとだぁ」
「こ、このくらいですか?」
「そうだ、そのくらいだぁ!」
それは想像を絶する力加減だった。
「ガッショ、ガッショ、ガッショ!ガシュガシュガシュガシュ!」
あまりの力の入れように、オヤジの背中がゆらゆらと揺れている。もしもオヤジの背中が大根だったら、確実に大根おろしが擦り上がるだろう。
「あの、痛くないんですか?」
「全然だぁ、丁度イイよぉ。こうやってタワシで擦ると皮膚が丈夫になって、冬でも風邪ば引かねぇんだ」
オヤジは本当に気持ち良さそうだ。
一頻り背中を擦り終え、オヤジにタワシを返す。
「それじゃ、どうもありが…」
「いやいや、待て待てぇ、流してもらったら流してやるのが礼儀だぁ」
「え、いや、わ、悪いですよ」
答えつつモーリーを探すと、いつの間にか風呂場から姿が消えている。
「あ、あの野郎…」
「じゃ、流すぞぉ、やさしくやってやっからなぁ!」
「あははは…」
10分後、風呂場から上がった私の真っ赤な背中を見て、モーリーは腹を抱えて笑っていたのだった。
ホテルにはカプセルルームと同じく非常に清潔なサウナがあり、浴室内は広々としていた。
「やっぱりデカイ風呂は気持ちいいよなぁ」
モーリーは気持ち良さそうに湯船で手足を伸ばす。
「青春18きっぷの旅は体力勝負だからな」
一日中各駅停車の列車にガタゴトと揺られていると、意外にも内臓に負担がかかり、結構疲れるのだ。
「とりあえず体でも流すか?」
「おお、そうだな」
二人で洗い場に上がり並んで体を洗い始める。
ふと気付くと、モーリーの向こう側の一つ離れた椅子に座っているオヤジが、何やら小気味良い音をさせて体を洗っている。
「ガッシュガッシュガッシュ!カシュカシュカシュカシュカシュ、ワシワシワシワシ…」
オヤジの右手には茶色い物体が握られており、音はその茶色い物体と皮膚が擦れあう時に発生していた。
「何だあれは?」
私はオヤジをじっと観察する。
その時だった、オヤジはいきなり私の方を向くと、ニヤリと笑いながら話し掛けて来た。
「お兄ちゃん、オラの持ってる物が気になるか?」
「!?」
私とオヤジの間にはモーリーが居るので、いきなり自分を挟んで会話が始まったことにモーリーは驚いている。
「こいつはなタワシ、亀の子タワシだぁ」
「ほー、亀の子タワシですか、痛くはないんですか?」
「大丈夫だぁ、慣れれば全然痛くはねぇよ。ちょっと試してみっか?」
そう言うとオヤジはモーリーの隣にズイっと移動し、いきなりモーリーの腕をガシっと掴んだ。
「あ、いや、ええっ?」
戸惑っている若者を気にするでもなく、オヤジはいきなりモーリーの腕を左手で固定すると、持っている亀の子タワシで擦り始めた。
「ガッシュガッシュガッシュ!」
「うわっ、イテっ、イタたたた!」
モーリーは腕を引こうとするが、オヤジはしっかりと腕を握り込み、
「ガシュガシュガシュ!ガシュガシュガシュ!」
と擦り続ける。
「ちょ、ちょっと待って下さい、ストップ、ストップ、ストップ!」
モーリーは自分の手でオヤジの手と亀の子タワシを押さえ込み、強制的に制止した。
「どうしたい、お兄ちゃん、この程度は痛くあんめぇ?」
「いやいやいや、僕は肌が敏感なんで、とっても肌がデリケートなんですよ」
こういう時にサラサラとほとんど嘘の様な言葉が出てくるのが、モーリーの人間性だ。
「ったく、情けない男だなぁ、ねえオジサン!」
「そうだ、そうだぁ、男はこの程度、痛くても我慢しなきゃダメだぁ」
私の意見にオヤジも同意する。モーリーは私の顔を睨むと、完全な作り笑顔でオヤジに答えた。
「オジサン、こいつは肌が丈夫なんですよ、しっかりと背中もやって下さい」
そう言うとモーリーは私とオヤジとの間から立ち上がり、私の背後に周りこんで両腕を掴み、オヤジの横に引きずり出した。
「お、お兄ちゃんの番か?」
オヤジはそう言うと立ち上がって私の背後に周りこみ、いきなり背中を擦り出した。
「ガッショガッショガッショ!」
「ぬわぁああああ!」
背中に形容しがたい痛さが広がる。
「ちょ、ちょっと待って下さい、なんかメチャメチャ痛いんですけど…」
「そうかぁ?慣れれば気持ちイイぞぉ」
「い、いや、まだ僕は慣れてないんで…」
「そうかぁ?すぐに慣れるってぇ」
「いやいや、まだ初日ですから!」
私の意味不明な日本語に、なぜかオヤジは納得したらしく、
「それもそうか…」
という顔をして背中を擦るのを中止した。
「じゃ、ちょっと俺の背中をコイツで流してくれっか?」
「もちろんイイですよぉ!」
自分が擦られるのはたまらないが、他人を擦るのは大丈夫だ。
私はオヤジからタワシを受け取ると、右手に握りこんでみる。受け取ったタワシは新品と比較すると、毛の長さが半分ほどになっていた。
「こんな感じですか?」
軽くタワシで背中を擦ってみる。
「全然、それじゃ全然ダメだぁ」
「これくらいですか?」
「まだまだだぁ」
「これでどうですか?」
「もっとだぁ」
「こ、このくらいですか?」
「そうだ、そのくらいだぁ!」
それは想像を絶する力加減だった。
「ガッショ、ガッショ、ガッショ!ガシュガシュガシュガシュ!」
あまりの力の入れように、オヤジの背中がゆらゆらと揺れている。もしもオヤジの背中が大根だったら、確実に大根おろしが擦り上がるだろう。
「あの、痛くないんですか?」
「全然だぁ、丁度イイよぉ。こうやってタワシで擦ると皮膚が丈夫になって、冬でも風邪ば引かねぇんだ」
オヤジは本当に気持ち良さそうだ。
一頻り背中を擦り終え、オヤジにタワシを返す。
「それじゃ、どうもありが…」
「いやいや、待て待てぇ、流してもらったら流してやるのが礼儀だぁ」
「え、いや、わ、悪いですよ」
答えつつモーリーを探すと、いつの間にか風呂場から姿が消えている。
「あ、あの野郎…」
「じゃ、流すぞぉ、やさしくやってやっからなぁ!」
「あははは…」
10分後、風呂場から上がった私の真っ赤な背中を見て、モーリーは腹を抱えて笑っていたのだった。
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