早朝五時半、部屋から冷たく青い日本海を眺める。
昨日はあれほど荒れていた海だったが、今日は凪いでいるように見える。
フロントに向かい、波打ち際の露天風呂の状況を確認する。
「今、湯船に入り込んだ大量の石を取り出して、新しく湯を張っているところです。そうですねぇ、あと30分もすれば入れるようになると思いますよ」
どうやら待望の波打ち際の露天風呂に入れるらしい。私は部屋で20分ほど時間を潰すと、待ち切れなくなってフロントに確認もせず露天風呂へ向かった。
「ありゃ…女?」
一番乗りかと思っていたが、すでに四人が露天風呂に入っている。二十代のカップルらしき若い男女と、六十代後半の夫婦らしき年老いた男女だ。
ちなみにこの露天風呂、仕切り壁の向こう側に女性専用の湯船も用意してある。
「ま、いいか。で、着替えはここなのか…」
日本海の大海原に面しているこの露天風呂、女湯との仕切り壁以外は一切何もないのが特徴だ。脱衣所なんてもちろん無い。あるのは床に置かれたカゴのみだ。
私は浴衣とトランクスを脱ぎ捨てると、タオルで前を隠しながら湯船に入った。
「おおー…」
冷えた身体に触れる湯の温かさで、体中の血管が一気に広がる。
「うぉーほほ、たまらんなぁ…」
湯船に浸かった視線の先は、まさしく日本海のみ。これ以上は無い開放感だ。
「ふむ…」
ちらりと若いカップルに視線を向ける。二人でやや気恥ずかしそうに入っているが、老齢の夫婦の存在が心強い味方になっているのだろう。お湯が赤茶色に濁っていることも、二人の精神的な助けになっているらしい。
今度は老齢の夫婦に視線を向ける。
「おはようございます」
旦那が私に挨拶をする。
「どうも、おはようございます」
私も挨拶を返すと、奥さんが軽く会釈をした。
「いやぁ、この露天風呂に入れて良かったねぇ」
「そうですね、昨夜は完全に諦めてましたからね」
広い湯船の中で会話をしているのは、私と旦那だけだ。
「この眺めは素晴らしいね」
「そうですねぇ」
他愛も無い会話を交わす。
しばらくすると、二人の中年男性がやって来た。
「お、凄いね!」
「いやぁ、これはイイ温泉だわ」
口々に言いながら、湯船に入って来る。
さらにもう一人男性がやって来る。
「ん?」
ふと気付くと、旦那の横にいた奥さんの姿が消えている。振り返って青空脱居所を見ると、すでに奥さんは浴衣を羽織りかけていた。
「おお、見事に気配を消して出て、見事に着替え終わってるなぁ…」
奥さんは旦那に一声もかけず、静かにこの露天風呂から消えて行った。
そろそろ多くの宿泊客が、この波打ち際の露天風呂に入れることに気付いたのだろう。どんどん宿泊客が入浴にやって来る。
いつのまにか湯船には大勢の男性宿泊客が並んで入り、その数は十数人になっていた。
「ねえ、あそこに居るの、若い女の子だよね」
昨夕、パノラマ露天風呂で一緒になった白髪男性が、私に訊いてくる。
「ええ、僕が来た時から入ってたんですけど、もう完全に出るタイミングを逸しちゃいましたね」
チャンスはあった。それは老夫婦の奥さんが湯船から出たタイミングだ。あの時出ていれば、こんな状況にはならなかったはずだ。
隣に女性専用の露天風呂があるにも係わらず、あえて混浴可の男湯に入っている二十代の女の子、誰もが密かに好奇の視線を向けていた。
不思議な緊張感が漂う中、これまた昨夕一緒になった熊男が、豪快にガシガシと歩いて青空脱衣所現れた。
「オーははぁ!こりゃ凄い眺めだねぇ、おはようさん!」
私と白髪男性に大声で挨拶をする。
「おはようございます!」
「どーも、おはよう!」
熊男は大きな図体を湯船に沈めると、満足気に日本海の海原を眺める。
「いやぁ、最高だね」
「そうですねぇ」
「入れないかと思ったけど、これで思い残すことは無いね」
「はははは、そうですねぇ」
「ん?あれは女の子か?」
やはり熊男もカップルの女性に気が付いた。出るに出られない女の子はすでにのぼせ始めている様子だ。
「ガハハハハ!いやぁ、最近の若い女の子は度胸があるねぇ!こんな大勢の男の中に入ってくるんだから!」
いきなり熊男が、湯船に居る全員に聞こえるような大声を出した。
女の子は顔を真っ赤にして俯き、周囲の男たちはみなクスリと笑う。だが、その場に流れていた微妙な緊張感が、これによって破られた。
「・・・・・・」
「・・・うん」
カップルは何やら小声で相談をすると、突然二人で湯船から立ち上がった。
「!」
「!!」
「!!!」
露天風呂の中に新たなる緊張感が生まれ、十数人の男性の視線が一気に若い女性に集中した。
昨日はあれほど荒れていた海だったが、今日は凪いでいるように見える。
フロントに向かい、波打ち際の露天風呂の状況を確認する。
「今、湯船に入り込んだ大量の石を取り出して、新しく湯を張っているところです。そうですねぇ、あと30分もすれば入れるようになると思いますよ」
どうやら待望の波打ち際の露天風呂に入れるらしい。私は部屋で20分ほど時間を潰すと、待ち切れなくなってフロントに確認もせず露天風呂へ向かった。
「ありゃ…女?」
一番乗りかと思っていたが、すでに四人が露天風呂に入っている。二十代のカップルらしき若い男女と、六十代後半の夫婦らしき年老いた男女だ。
ちなみにこの露天風呂、仕切り壁の向こう側に女性専用の湯船も用意してある。
「ま、いいか。で、着替えはここなのか…」
日本海の大海原に面しているこの露天風呂、女湯との仕切り壁以外は一切何もないのが特徴だ。脱衣所なんてもちろん無い。あるのは床に置かれたカゴのみだ。
私は浴衣とトランクスを脱ぎ捨てると、タオルで前を隠しながら湯船に入った。
「おおー…」
冷えた身体に触れる湯の温かさで、体中の血管が一気に広がる。
「うぉーほほ、たまらんなぁ…」
湯船に浸かった視線の先は、まさしく日本海のみ。これ以上は無い開放感だ。
「ふむ…」
ちらりと若いカップルに視線を向ける。二人でやや気恥ずかしそうに入っているが、老齢の夫婦の存在が心強い味方になっているのだろう。お湯が赤茶色に濁っていることも、二人の精神的な助けになっているらしい。
今度は老齢の夫婦に視線を向ける。
「おはようございます」
旦那が私に挨拶をする。
「どうも、おはようございます」
私も挨拶を返すと、奥さんが軽く会釈をした。
「いやぁ、この露天風呂に入れて良かったねぇ」
「そうですね、昨夜は完全に諦めてましたからね」
広い湯船の中で会話をしているのは、私と旦那だけだ。
「この眺めは素晴らしいね」
「そうですねぇ」
他愛も無い会話を交わす。
しばらくすると、二人の中年男性がやって来た。
「お、凄いね!」
「いやぁ、これはイイ温泉だわ」
口々に言いながら、湯船に入って来る。
さらにもう一人男性がやって来る。
「ん?」
ふと気付くと、旦那の横にいた奥さんの姿が消えている。振り返って青空脱居所を見ると、すでに奥さんは浴衣を羽織りかけていた。
「おお、見事に気配を消して出て、見事に着替え終わってるなぁ…」
奥さんは旦那に一声もかけず、静かにこの露天風呂から消えて行った。
そろそろ多くの宿泊客が、この波打ち際の露天風呂に入れることに気付いたのだろう。どんどん宿泊客が入浴にやって来る。
いつのまにか湯船には大勢の男性宿泊客が並んで入り、その数は十数人になっていた。
「ねえ、あそこに居るの、若い女の子だよね」
昨夕、パノラマ露天風呂で一緒になった白髪男性が、私に訊いてくる。
「ええ、僕が来た時から入ってたんですけど、もう完全に出るタイミングを逸しちゃいましたね」
チャンスはあった。それは老夫婦の奥さんが湯船から出たタイミングだ。あの時出ていれば、こんな状況にはならなかったはずだ。
隣に女性専用の露天風呂があるにも係わらず、あえて混浴可の男湯に入っている二十代の女の子、誰もが密かに好奇の視線を向けていた。
不思議な緊張感が漂う中、これまた昨夕一緒になった熊男が、豪快にガシガシと歩いて青空脱衣所現れた。
「オーははぁ!こりゃ凄い眺めだねぇ、おはようさん!」
私と白髪男性に大声で挨拶をする。
「おはようございます!」
「どーも、おはよう!」
熊男は大きな図体を湯船に沈めると、満足気に日本海の海原を眺める。
「いやぁ、最高だね」
「そうですねぇ」
「入れないかと思ったけど、これで思い残すことは無いね」
「はははは、そうですねぇ」
「ん?あれは女の子か?」
やはり熊男もカップルの女性に気が付いた。出るに出られない女の子はすでにのぼせ始めている様子だ。
「ガハハハハ!いやぁ、最近の若い女の子は度胸があるねぇ!こんな大勢の男の中に入ってくるんだから!」
いきなり熊男が、湯船に居る全員に聞こえるような大声を出した。
女の子は顔を真っ赤にして俯き、周囲の男たちはみなクスリと笑う。だが、その場に流れていた微妙な緊張感が、これによって破られた。
「・・・・・・」
「・・・うん」
カップルは何やら小声で相談をすると、突然二人で湯船から立ち上がった。
「!」
「!!」
「!!!」
露天風呂の中に新たなる緊張感が生まれ、十数人の男性の視線が一気に若い女性に集中した。
出廷?もしかして顔を合わせることになるんですか?
えーとぉ、僕の九月のスケジュールは…(笑)