一部、能力に問題のある人間も居るが、現場は順調に滑り出していた。
R社の二本あるガンの担当は、自然と以下の二チームに分かれることになった。
特攻野郎Aチーム(知っている人はそれなりの年齢):まあまあガンを撃てる須藤と、微妙な性格の正木。
特攻野郎Bチーム(誰も知りませんし、存在しません):抜群に撃てるハルと、全く戦力になりそうも無い堂本。
Aチームはそれなりのペースで、Bチームは、全く進捗しない堂本の分を、ハルが二人分をまとめてやっている。これにより、かろうじてAチームとBチームは、作業速度が均衡していた。
「木田さん、もうねぇ、ハルちゃんは疲れちゃうよ…」
ハルは、地上に下りて来ると、私に堂本の作業内容を報告してくれる。
「もう本当にネ、綺麗に剥離できてる部分が、一部分も無いからね。ぜぇーんぶに細かい剥離残しがあるんだよ。俺もねぇ、多くは望まないよ。せめて、ほんの少しでイイから、『決めて』もらいたいんだよね」
ここで言う『決める』とは、それ以上手を入れなくても良い状態を指し、仕事が完了した剥離面のことを意味する。
「そうですよねぇ」
「木田さんから言ってくれる?」
「ええ、別に構いませんけど、ハルさんから直接言ってもイイんじゃないですか?」
ハルはいきなり眉を顰めると、小声で話し始めた。
「言えないよぉ、木田さんも言ってごらんよ、すぐに目が逝っちゃうんだから」
「え?じゃあ堂本さんに言ったんですか?」
「そりゃあ言うでしょ、仕事だからね。でもその後が大変よぉ、もう俺の言う事なんか全然耳に入らない感じだもんね」
「マジですか?」
「凄いって、目付がね、おかしいもんね…」
どうやら、ハルでさえ堂本のコントロールには手間取っている様だ。
「分かりました。じゃあ僕から一度、きちんと話してみますからね」
「うん、頼むよ。ハルちゃんは二人分の面積を剥がすので手一杯だからねぇ」
ハルはそう言うと、首をコキコキと言わせながら、休憩所のプレハブに向かって歩いて行った。
次の交代になり、堂本がハルと入れ替わって下りて来ると、私は堂本に話し掛けた。
「どう?ガン作業には慣れた?」
いきなり堂本は満面の笑みを浮かべる。
「あ、は、はい!慣れました」
(ほ、本当かよ…)
私は心の中で突っ込んだ。
「あのさ、ちょっと堂本君が剥がした場所を見て来たんだけど、若干剥離残しが多い気がしたんだよね」
一気に堂本の顔が曇る。
(い、いかん、目が逝きそうだ…)
「いやいや、誰でも最初はそんな物だからね。まあ、強いて言えば、少ない面積でもイイから、きっちりと『決めて』もらいたいんだけど、出来るよね!?」
私の言葉を聞いた堂本は、突然何かをボソボソと言い出した。
「…ガネが…ですよ」
「ん?何?」
私が大声を出して耳を近づけると、ようやく堂本は口を大きく開いた。
「メガネ、メガネが駄目」
(メガネ、メガネってお前は横山やすしか?」
私はまた心の中で突っ込んだ。
「メガネが壊れたってこと?」
私の質問に対して、堂本は口元を引き攣らせながら、一生懸命笑顔で自分のメガネを指差している。
「違う、曇る、曇るとぉ、前が見えないんですよ」
(…それは、それは俺が一番最初に注意したじゃねぇか!)
私は心の中で堂本を罵った。
「そ、それは最初に僕が言ったよね、メガネの事は…」
「あは、あはっ、大丈夫かなって思ったんですけど、やっぱり曇りますね、うふふっ!」
「・・・」
私は堂本の引き攣ったような笑顔を見ながら、心の中で何度も首を捻った。
R社の二本あるガンの担当は、自然と以下の二チームに分かれることになった。
特攻野郎Aチーム(知っている人はそれなりの年齢):まあまあガンを撃てる須藤と、微妙な性格の正木。
特攻野郎Bチーム(誰も知りませんし、存在しません):抜群に撃てるハルと、全く戦力になりそうも無い堂本。
Aチームはそれなりのペースで、Bチームは、全く進捗しない堂本の分を、ハルが二人分をまとめてやっている。これにより、かろうじてAチームとBチームは、作業速度が均衡していた。
「木田さん、もうねぇ、ハルちゃんは疲れちゃうよ…」
ハルは、地上に下りて来ると、私に堂本の作業内容を報告してくれる。
「もう本当にネ、綺麗に剥離できてる部分が、一部分も無いからね。ぜぇーんぶに細かい剥離残しがあるんだよ。俺もねぇ、多くは望まないよ。せめて、ほんの少しでイイから、『決めて』もらいたいんだよね」
ここで言う『決める』とは、それ以上手を入れなくても良い状態を指し、仕事が完了した剥離面のことを意味する。
「そうですよねぇ」
「木田さんから言ってくれる?」
「ええ、別に構いませんけど、ハルさんから直接言ってもイイんじゃないですか?」
ハルはいきなり眉を顰めると、小声で話し始めた。
「言えないよぉ、木田さんも言ってごらんよ、すぐに目が逝っちゃうんだから」
「え?じゃあ堂本さんに言ったんですか?」
「そりゃあ言うでしょ、仕事だからね。でもその後が大変よぉ、もう俺の言う事なんか全然耳に入らない感じだもんね」
「マジですか?」
「凄いって、目付がね、おかしいもんね…」
どうやら、ハルでさえ堂本のコントロールには手間取っている様だ。
「分かりました。じゃあ僕から一度、きちんと話してみますからね」
「うん、頼むよ。ハルちゃんは二人分の面積を剥がすので手一杯だからねぇ」
ハルはそう言うと、首をコキコキと言わせながら、休憩所のプレハブに向かって歩いて行った。
次の交代になり、堂本がハルと入れ替わって下りて来ると、私は堂本に話し掛けた。
「どう?ガン作業には慣れた?」
いきなり堂本は満面の笑みを浮かべる。
「あ、は、はい!慣れました」
(ほ、本当かよ…)
私は心の中で突っ込んだ。
「あのさ、ちょっと堂本君が剥がした場所を見て来たんだけど、若干剥離残しが多い気がしたんだよね」
一気に堂本の顔が曇る。
(い、いかん、目が逝きそうだ…)
「いやいや、誰でも最初はそんな物だからね。まあ、強いて言えば、少ない面積でもイイから、きっちりと『決めて』もらいたいんだけど、出来るよね!?」
私の言葉を聞いた堂本は、突然何かをボソボソと言い出した。
「…ガネが…ですよ」
「ん?何?」
私が大声を出して耳を近づけると、ようやく堂本は口を大きく開いた。
「メガネ、メガネが駄目」
(メガネ、メガネってお前は横山やすしか?」
私はまた心の中で突っ込んだ。
「メガネが壊れたってこと?」
私の質問に対して、堂本は口元を引き攣らせながら、一生懸命笑顔で自分のメガネを指差している。
「違う、曇る、曇るとぉ、前が見えないんですよ」
(…それは、それは俺が一番最初に注意したじゃねぇか!)
私は心の中で堂本を罵った。
「そ、それは最初に僕が言ったよね、メガネの事は…」
「あは、あはっ、大丈夫かなって思ったんですけど、やっぱり曇りますね、うふふっ!」
「・・・」
私は堂本の引き攣ったような笑顔を見ながら、心の中で何度も首を捻った。
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