どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ315

2008-10-14 23:32:23 | 剥離人
 角型のマンホールから、ミストが充満する塔内に入る。

 陽の光りが入らない塔内には、所々に据え置き式のサーチライト型蛍光灯を設置してある。
 アルミ製の足場板を歩きながら、堂本が作業をしている壁面に近づくと、400Wの防水型水銀灯に照らされた堂本の姿が、はっきりと見える。
「・・・」
「・・・」
 ハルと一緒に、じっと堂本の行動を観察する。
「!!」
 ハルが堂本を指で差しながら、体を捩じらせて、立ったままもだえ出した。
「縦だよ…、今度は『縦』方向に線を引いてるよ…」
 あれほどガンの撃ち方を私がレクチャーしたにも拘らず、堂本はガンのノズルを、じっくりと縦方向に動かしている。
「何で、ノズルを、回転させるって、教えてないの?」
 ハルがジェスチャーで、私に質問する。
「俺は、きちんと、ノズルの回し方を、何度も、教えたって!」
 私もジェスチャーで返答をすると、ハルは再び大笑いをする。騒音が激しい現場内では、慣れた人間同士なら、ジェスチャーの方が会話は早いのだ。
「!?、!!!」
 ハルが堂本の行動を見て、私の肩をバシバシと叩く。
「見て、見て!」
「???」
 私はジェスチャーをしているハルの前に出ると、堂本の様子を覗き見る。
「!!!!」
 私の驚愕した顔を見て、ハルが腹を抱えて、足場板の上でしゃがみ込んだ。
「ぎごガガガガガガガ、キンキンキンキン!」
 堂本が持っているガンの先端から、細かい火花が散っている。まるで手持花火の様だ。
「プシュッ、プシュッ、プシュッ!」
 私は堂本のエアラインマスクに繋がるウレタンホースを握り込むと、三回エアーを遮断し、
「近づくぞ!」
 の合図を送った。
「ギギギギギギンン!ゴガガガガガガ!」
 だが堂本は全く合図に気付く事も無く、ひたすらガンの先端から火花を散らしまくる。ハルはそれを見て完全にツボに入ってしまい、手摺の単管パイプ(アルミの足場用パイプ)に掴まり、涙を浮かべている。
「ど・う・も・と・君!」
 私は堂本の背後から近寄り、彼の両肩を軽く揺すった。
「!?」
 堂本は驚いてガンのトリガーからは指を放し、エアラインマスクの目ガラス(四角いガラスをはめ込んだ覗き窓)から、怯えている様な目で私を見つめている。
「いや、あのね、どうして左手でノズルを回さないの?それからもう一つ、どうしてガンから火花が出るの!?」
 堂本のエアラインマスクの耳元で、騒音に負けない大声で話し掛ける。
「???・・・」
 質問の意味が理解出来ないのか、堂本の目が完全に逝き掛けている。パニックを起こしかねない雰囲気だ。
「あのね、どうして火花が出るの?」
 質問を簡略化して、もう一度大声で質問する。
「・・・」
 堂本は足場板の隙間を指差し、何度も私の顔を見る。
「あー、ああ、そう言うことね。確かに言ったね…」
 私は堂本に出した指示を思い出していた。

 足場が何層もある壁面を剥離する場合、一つだけ注意しなければならないことがある。それは今居る段の足場から、塗膜を剥がせるだけ剥がしておくと言う事だ。
 境界線となる壁面は、極力上段から撃ち下ろしておくと、後が非常に楽になるのだ。逆に、下の段の足場から、境界線の壁面を撃ち上げるのは、想像以上に大変なのだ。
 だから私は堂本に、
「撃てる所は、極力上から撃っておいてね!」
 とは言った。だが、
「ノズルがぶつかって火花が出るほど、ノズルを壁面の鉄板に押し付けるように!」
 などとは一言も言っていない。
 私はゆっくりと言葉を選びながら、慎重に堂本に指示を出した。
「あのね、火花が出るほど、下まで撃たなくてもイイから…」
 だが、こんな簡単な指示すら、本当に伝わっているのかどうかも怪しい。なぜなら、堂本の目付きが、完全に逝っている気がしたからだ。

 私は笑い転げるハルを追いやり、マンホールから外に出た。
「はぁー…」
 深いため息を吐く。
「大変だよ木田さん、これは。あの人、目が逝っちゃってるもんね」
「ハルさんもそう思いました?」
「だって、こんなだよ、こんな!」
 ハルは堂本の目付きを真似して見せる。
「うはははは、そう、そういう雰囲気だった!」
「うひゃひゃひゃ、やばいよねぇ」
 だが、笑い事では無い。これは仕事なのだ。
「あの人、どうやら一度に複数の事に、意識が向かないみたいですね」
「うひゃひゃひゃひゃ、ノズルの先から火花が出てたもんね。木田さん、ちゃんと教えてあげないと仕事になんないよぉ!」

 ウヒャウヒャと笑うハルを見ながら、私は少しハルの立場を羨ましいと思った。


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4 コメント

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目がいってるのは… (カミヤミ)
2008-10-15 20:59:46
俺ですよ。久しぶりに帰省して師匠や先生にお会いしたら、至るところに俺の悪口の手紙送りつけられてて参りました。…もちろんフィクションですよ。すごい憂鬱になりました。…マイッチングっ!

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マチコ先生より (どんぴ)
2008-10-15 21:35:28
 帰港した空母『カミヤーミ』が、母港に仕掛けられていた敵の機雷でやられちゃう感じでしょーか(笑)
「ボインにターッチ!」
 なんて笑っている場合じゃありませんね。

 あ、そう言えば昔、携帯メールで貰った画像なんですが、あれってもしかして…。
 いや、フィクションですよね。まだ私のパソコンの中に残ってますけど(笑)
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どんな画像ですか? (カミヤミ)
2008-10-16 01:40:34
相手の弁護士から受任証が届いていると思いワクワクしてN崎へ戻ってみたら、なんか しょぼい委任状のコピーのみ…。この弁護士、舐めてるんですかね?文句のメール送ってやりました。フィクションだから、良いですけど。高速道路のパーキングエリアにコート 一丁の雀さんを置いてけぼりにしたいですよ。親方は、年末の格闘技イベントみて、マウントポジションみると雀さんを思い出すとか思い出さないとか。どんよりしていて、それでいて、重い。アンド(ロイド)の家を出ると安堵する。お前といると重いから疲れる…なんて、とても言えない女…その話を和解こにするとHは、そっちてしてきて!アッケラカンと言われてそうですね。…勝手な妄想、全部 作り話ですけどね。
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Y字バランス画像です (どんぴ)
2008-10-16 02:07:09
 画像は、補助具でY字になり、逆立ちしている画像です(笑)

 せっかく弁護士とバトルをするんだから、もっと強力な武装で、ドンパチ殺り合いたいですよね。

 マウントポジションは、一見マウントしている方が優勢に見えますが、相手が雀級の達人だと、自分の腰をやられます。
 この歳になると、やはり日々安堵できる女性が一番だと思います。奔放な女性は、奔放に生きるべきだと、私は和解に至りました。
 次は夏季講習を受けて、自分のマニアな幅を拡張したいと思います。もちろんこれは『フィクション』です(笑)
 
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