小児アレルギー科医の視線

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「小児気管支喘息診療ガイドライン2023」で何が変わったか?

2024年05月06日 08時53分57秒 | 気管支喘息
日本アレルギー学会認定専門医となってはや30年が経過しました。
思い起こせば、1994年に初めて日本でアレルギー疾患ガイドラインが登場しました。

それ以前は外国のガイドラインを参考にする日々…
英語で書かれたガイドラインを一生懸命読んだものです。
でも、なんか違う?
そう、日本の治療と世界の治療に違いがあったのです。
初めてできたガイドラインも外国のものを参考にしたため、
日本の実際の臨床現場と異なっていました。

例えば…外国ではβ-刺激剤は内服する習慣はありませんでしたが、
日本では当たり前のように処方されていました。

それから数年毎に改訂されてきましたが、
専門医にとっては“進歩”というより“現場に追いついてきた”印象が拭えません。
ようやく最近は“進歩”を反映させる改訂になってきた感があります。

ちなみに私の現在の気管支喘息診療は、

・風邪を引いて軽度の喘息発作が出るレベルでは、その都度十分な治療をする。
・風邪を引いて酸素飽和度が下がるような呼吸因難発作が出現する例では予防治療・定期治療を開始する。
・風邪を引かなくてもひと月に複数回、呼吸因難発作が出現する例も同様。
・治療は軽症の場合は内服薬(抗ロイコトリエン薬)、中等症の場合は吸入ステロイド薬を選択する。
・乳幼児に吸入ステロイド薬を処方する際は補助器具(スペーサー)を用いる、吸入手技を指導し合格点に達するまで繰り返し指導する、
・吸入ステロイド薬を使用していても発作が出る場合は吸入手技を再確認する。
・吸入ステロイド薬を使用している学童生徒は、年1回肺機能/FeNO(呼気中一酸化窒素)検査を行い、喘息の状態を数値化して本人家族と共有し、今後の治療を検討する。

といったところ。
そのガイドライン、2023年にも改訂され発刊されました。
さて、今回はどの辺が変わったのでしょうか…こちらにポイントがまとめられており、参考になりました;

■ 小児気管支喘息GL改訂、4つのポイントは

私が「フムフム」と頷いた箇所は、

1.治療の“評価”に焦点が当たったこと

・・・私は上記「肺機能/FeNO検査」の他に、WEB問診で症状&治療状況に関する詳細な質問に答えてもらっています;
(例)
・咳の出やすい状況はありますか?
・運動する・はしゃぐと咳き込みますか?
・薬の管理は誰がしていますか?
・処方された内服薬・吸入薬の実行率は何%ですか?
・治療に満足していますか?
・治療への要望はありますか?
…というわけで“合格”点をもらえそうですね。

2.幼児に対して吸入ステロイド薬でコントロールが今ひとつの時、次の一手は「吸入ステロイド薬/気管支拡張薬配合剤」の選択へ

・・・従来は幼児期に使用できる「吸入ステロイド薬/気管支拡張薬配合剤」が存在しなかったため記述がなかったのですが、近年「生後8ヶ月から使用可能なアドエア」「5歳から使用可能なフルティフォーム」が登場したため書き換えられました。

3.学童期に吸入ステロイド薬でコントロール不良の時、次の一手は「吸入ステロイド薬増量」ではなく「吸入ステロイド薬/気管支拡張薬配合剤」への変更

・・・これは私、ずっと前からやってました。

上記記事から一部抜粋・引用させていただきます;

ポイント① 患者を治療に参加させる
ポイント② 5歳未満でのICS/LABA使用に変化
ポイント③ 6~15歳ではICSとICS/LABAの位置付けが逆転
ポイント④ スペーサーの一覧表が充実

 患者を治療に参加させる
 全体的な部分では、まず、薬物療法に関する第5章のタイトルが変更しました。以前までは「長期管理に関する薬物療法」でしたが、今回「長期管理」になりました。喘息の治療は薬物療法だけで完結するのではなく、増悪因子への対応、患者教育やパートナーシップの向上も必要なことを鑑み、「薬物療法」が削除されたということです。
 また、喘息の治療には常に見直しが必要で、「治療」「評価」「調整」のサイクルに沿って個々人に最適な形で治療することとなっていました。ただ、これには患者の積極的な参加が重要であることが指摘されており、今回、サイクルの中に「決定」という項目が入りました(図1)。これにより、医療者と患者が共同で治療・管理の意思決定を行いながら治療を進めることが強調されました。

図1 長期管理のサイクル(「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023」を基に筆者作成。図2、3も)


5歳未満でのICS/LABA使用に変化
 今回の改訂で中でも注目したのは、吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬(ICS/LABA)配合薬の扱いが変わったことです。
 5歳以下の小児喘息の長期管理プランでは、重症度によって治療ステップが1から4に分類されています。中等症持続型の患者を対象とした治療ステップ3について、前回までは追加治療として「ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を併用」となっていましたが、今回「低用量ICS/LABAへの変更」を考慮することが追記されました(図2)。また、重症持続型に対する治療ステップ4の追加療法も、「β2刺激薬(貼付)併用、ICSのさらなる増量、経口ステロイド薬」を考慮するとされていたのが、「中用量ICS/LABAへの変更、ICSのさらなる増量」に変更されました。

図2 5歳以下の小児喘息の長期管理プラン


 小児で使えるICS/LABA配合薬には、サルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオン酸エステル(商品名アドエアSFC)と、フルチカゾンプロピオン酸エステル・ホルモテロールフマル酸塩水和物(フルティフォームFFC)の2種類があります。ただ、5歳未満の幼児を対象とした臨床試験は実施していなかったため、前回のガイドラインでは、5歳未満の長期管理プランでこれらの薬剤の記載がありませんでした。
 そんな中、SFCについて、生後8カ月〜4歳の気管支喘息患者を対象とした二重盲検比較試験で安全性が確認された結果、2020年11月にSFCの添付文書が改訂され生後8カ月から保険適用となりました。これを受け、今回のガイドラインも変更となりました。
 ただし、前述の二重盲検試験は8週間の実施なので、長期間使用の安全性に関するデータは乏しいです。同ガイドラインでは、「長期間のICS/LABA使用における安全性のデータは乏しく、漫然と使用せずにコントロール状態に応じてICS単独へ切り替えを考慮する」と注意を促しています。
 
6~15歳ではICSとICS/LABAの位置付けが逆転
 もう1つ、ICS/LABA配合薬で注目すべきなのが、6~15歳の長期管理プランの治療ステップ3、4の基本治療において、ICS/LABA配合薬とICSの位置付けが逆転し、最上位にICS/LABA配合薬が配置されたことです(図3)。

図3 6~15歳の小児喘息の長期管理プラン


 ICSで治療中にステップアップする際、ICS増量とICS/LABA配合薬のどちらが有用かというクリニカルクエスチョン(CQ7)では、「(両者の)有用性に明らかな差はなく、いずれも提案される」となっています。 しかし、ICS は用量依存的に成長を抑制することが知られており、ICS 増量よりもICS/LABA配合薬への変更の方が成長抑制の程度が低いことも指摘されています。ICS/LABA配合薬は、ICS単独に比べてピークフロー値(PEF)をより改善する報告もあり、成長抑制と合わせて勘案され、今回の記載になったのではないかと思います。

スペーサーの一覧表が充実
・・・
 生後8カ月から使用できるSFCには、ドライパウダー定量吸入器(DPI)と加圧噴霧式定量吸入器(pMDI)があります。DPIは、薬剤が肺内に到達するためにある程度の吸気速度がいるので、一般には5歳以上で使用され、5歳未満ではpMDIが推奨されます。
 pMDIを使用する際に必要なのが、スペーサーです。これまでのガイドラインでは代表的なスペーサーについて3種類しか紹介されていませんでしたが、今回のガイドラインでは巻末資料にスペーサーの一覧表があり、9種類が記載されていました。さらに、それぞれの特徴が詳しく記載されています。
・・・


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