CTNRXの日日是好日

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

落語読本 らくごの一文 [落語]『地獄八景亡者戯』 桂 米朝 [Text]⑶

2023-08-19 21:00:00 | 出来事/備忘録

 ❖ 地獄八景亡者戯 ⑶ ❖
        桂 米朝

 
 ダダダダ、ダダダダ~ッ……、腕章を巻いた鬼の整理員がぎょ~さんおりましてな、

 ★おぉ、そぉ勝手に入ってはいかん、勝手に入ってわ。
 四列に並べ、四列に 並べ。
 男はこっち、女はこっち、四列に並んで行くんじゃ。
 男はこっち、女 はこっち、おいそこ、女はこっちじゃ……。
 お前、男か? この頃、男や女 や分からんやつが増えたなぁ……、静粛に来いよ、静粛に来いよ! ゾロゾロゾロゾロ通って、奥へ奥へ、閻魔の庁の奥へ近付いてまいります と、おのずからなる威厳に打たれるとみえて、みんなが黙ぁ~ってしまいます。
 と、遠ぉ~くのほぉから罪人を責める音がかすか~に聞こえてまいりま す。 ピシ~ッ、ピシッ……、キラキラキラキラ光っておりますのが浄玻璃(じ ょ~はり)の鏡、見る目かぐ鼻、善悪の首。
 血の付いたノコギリやら舌を引 き抜く釘抜きやとか、罪の重さを調べるハカリてなもんが置いてあったり、 紙の橋、見ただけでもゾッとするよぉな責め道具が並んどぉります。
 一同がピタ~ッと静まる。そこへ閻魔はんが出てまいります。
 値打ち(ね ぐち)を持たしたもんですなぁ。
 王といぅマークの付いた冠をかぶりまして、 身には道服(とぉふく)といぅやつをまといます。
 手に笏(しゃく)といぅやつを持って、この胸のところへ突っ張っとりますなぁ…… カ~ッと口を開いたとこ、今日はひとつ閻魔はんの顔ちゅうやつを見てい ただきますが……「閻魔の出御(しゅつぎょ)下におろぉ~ッ……」これやると、しばらく顔がもと戻らんよぉなります。

 ◆いかに赤鬼(歌舞伎口調で)

 ★はは~っ

 ◆亡者召し連れましたか?

 ★お目の 前に控えさせましてござります。

 ◆本日の亡者、その数いかほどなるぞ?

 ★その数は、え~っ、モジャモジャとまいっております。

 ◆帳面をこれへ持て、あぁ それは三途川水揚帳じゃ、そぉではない死人出入帳のほぉを持ってまいれ。

 ◆なるほど……、ん~ん、本日の亡者、男はこれだけ、女はこれだけ。なる ほど、なるほど……、おいおい、この注受けとあるのは何じゃ、八百六号注 受けといぅのは?

 ★そら死に掛けましてんけど、注射でもっとりまんのん。
 それで注受け。

 ◆火の車持って迎えに行ってこい、ややこしぃ★火の車、ガス 会社へ貸したままなっとりますねん◆あれまだ返さんのか? 早よ行って取 り返えせ、火の車要るんやったら噺家の家行けちゅうて、よぉ~さん回って るさかいなぁ。

 ◆こりゃこりゃ、この千二十八号は腎抜けとなってあるが、これは何じゃ?

 ★え~、本人は死んだんでやすけど、腎臓だけが移植されてまだ生きとりま すのんで。

 ◆世の中が進むと帳面が段々ややこしなるなぁこれ……、えらいこ となってきたなぁ。よいよい、相分かった。

 ◆いかに亡者よく承れ、これより厳しく罪の次第を問いただし、地獄・極楽 の送り先を決めるべきはずのところなれど、本日は先代閻魔の一千年忌に当たるゆえをもって、格別の憐憫を持ってみな極楽へ通しつかわすぞ。
 あとか ら名前を呼ぶ者だけは残れ。

 ●もぉし、えらい閻魔はん今日は一千年忌やて、そんなことおまんのか。
 えらい楽でんなぁ、お調べも▲分かってまんねん。
 選挙が近い。

 ●やっぱり、選挙が?

 ▲あぁ、この頃は選挙やねん。
 今度の閻魔はんも段々評判悪なってん ねん。
 はじめはちょっと評判良かったんやけどな、もぉこの頃、突き上げられて突き上げられて「頼んない、頼んない」言われてんねん。
 行政改革は一 つも進まへんし、会計のほぉは大赤字が続いて、また「獄債」ちゅうやつが 百兆になるやなんやいぅて、閻魔はんもここらで何とかやっとかんことには なぁ、値打ちないんや。

 ●値打ちがない?

 ▲はぁ、もぉ馬鹿にされてまんねん。  
 こないだもあんた、 この閻魔はんの寝間へ男が入って来て「タバコを一本くれ」てなこと言われて……

 ●ほなこれ、人気取りで極楽へ?

 ▲はぁ、もぉそんなことやりよりまんねん。

 ●えぇとき来たなぁ、こらありがたいなぁ。

 ◆あぁ~ッ、私語をしてはならんぞ。
 今から名前を呼ぶ者はこれへ出ませ。
 この中に医者の山井養仙(やまいよぉせん)はおらぬか、山井養仙といぅ医者 はおらぬか? あぁお前か出て来い、それへ座れ……。
 山伏の螺尾福海(ほらおふっかい)といぅのは誰じゃ、この中で? あぁお前か、前へ出て来い。
 それから、歯抜き師の松井泉水(まついせんすい)といぅのは誰じゃ? お前か、それへ。
 それから、軽業師の和屋竹の野良一(わやたけののらいち)といぅのは誰じゃ? お前か出て来い……。
 四人の者はそれへ残れ。
 「ほかの者はみな、極楽へ通ってよろしぃ!」「わぁ~~ッ」

 ●もし、何でわたしらだけ残されましたんやろなぁ?

 ▲心配なことはないと思いまっせ。

 ●そぉかい。

 ▲はぁ、あんなもん大丈夫や。
 見てみぃ機嫌よろしぃ がな「お前ら面白そぉなやっちゃ、これから一杯呑みに行こか」

 ●そんなア ホなこと……、閻魔はん戻って来た、お辞儀せぇお辞儀せぇ。

 ◆あぁ医者の山井養仙、面上げぇ。
 そのほぉは未熟なる医術を用い、助かる 病人まで多数殺してしもぉた。
 また、健康保険不正受給や脱税行為を繰り返 した咎(とが)により、お前は地獄へ落としてやる、よいか。

 ◆山伏の螺尾福海、お前は加持祈祷をするなんぞと称して、怪しげなる詐術 を行い、金銀をむさぼり取ったる段、咎軽からず。
 お前も極楽へ通すわけに はいかん。

  ◆歯抜き師の松井泉水、お前は居合い抜きをしたり独楽を回したりして人を 集め、ちょっとも効かぬ歯痛の薬とか、虫歯を抜いてやると言ぅて、丈夫な 歯まで抜いて金銀をむさぼった。
 その咎軽からず、お前も地獄へ落としてや る。

 ◆あぁ軽業師の和屋竹の野良一、お前は諸人の頭の上にて、ハラハラする業 を演じて、見る者の寿命を縮めたる段、咎軽からず。

 ■そんなアホなこと言ぃなはんな、わたい商売でんがな。

 ◆黙れ! それ、鬼ども、この者どもを熱湯 の釜へたたき込めッ★はは~ッ……。さぁ、この中へ入れ~ッ!

 ●わ~ッ、これが熱湯の釜でやすか。
 見てみなはれ恐ろしぃなぁもし、湯玉 がチリチリィ、チリチリィちゅうて走ってまっせ。
 こんなとこへ足入れたら ジュ~ッちゅうて溶けてしまうがな。
 どぉしたら……

 ★さぁ、入れッ!

  ●ちょっと待ちなはれ、大きなフォークみたいなんでケツ突いてまっしゃな いか鬼が……。入れるかいな▲待て待てまて、ここはわしに任し。

 ●あんた何や?

 ▲わしゃ、山伏や。そら悪いこともしたけどなぁ、これでもお山に。

 篭ってちゃ~んと修行してきた。
 ここでわしが水の印といぅのを結んだら、こん なもん日向水になってまうねん。

 ●ホンマか?

 ▲大丈夫、ちょっと待ってなはれや……、チチンプイプイ、チ チンプイプイ、ん~~んッ、エイッ! もぉ大丈夫や手ぇつけてみ。

 ●もぉえぇか? まだ熱つそぉな。

 ▲大丈夫や、手ぇつけてみ。

 ●ホンに、こら入り加減やでおい。
 入れ言わんかて入るわいな。
 あぁありがたいなぁ、いやわしゃなぁ ひと風呂浴びたかったんや。

 ●うちの嬶(かか)ズボラなやつでなぁ、湯灌(ゆかん)もせんと棺桶へ放り込 みやがってな、どっかで浴びたかったんや。
 こらえぇ具合やなぁおい、ちょっ と鬼さん、ちょっと石鹸頼むわ「気持ちんよか♪」

 ★あんなこと言ぅとぉるで、おい……

 ★閻魔大王に申し上げます。

 ◆何といたした?

 ★あの亡者連中、熱湯の釜へ放 り込んだところが、山伏が水の印とかいぅやつを結んだら日向水になってしもて、みな風呂へ入ったよぉな気になってまっせ。

 ◆けしからん亡者め、熱湯 の釜より引きずり出し、針の山へ放り上げぇ★ははぁ~ッ……

 ★さッ、今度はこの山へ登れ。

 ●うわぁ、これ針の山やがな。
 見てみなはれ、 裾から天辺までびっしりと。
 足乗せたらグサッと刺さって抜きも差しもなら んよぉなるがな★登れッ!   

 ●登れるかいな、こんなところ。

 ■ここはわいに任せ。

 ●あんた何やったかいなぁ?

 ■わしゃ軽業師や。
 ガキの時分から修行してわしの足の裏、板みたいになったぁるわい。
 何やこんなもん、わしらこの上で三番叟(さんばそぉ)でも踊ったるがな。

 ●そらあんたはえぇわい、わしらはどぉなる?

 ■かまへん、わしの体の上へ乗していたる。

 ●体の上へ?

 ■あぁ、この上乗れ……

 ●三人も乗って 大丈夫か?

 ■もっと乗したことあんねん。
 一番小っこいやつ、背の低いやつ、首んとこ ろへまたがれ、肩くませぇ。
 しっかり頭押さえてぇよ。
 でなぁ、二ぁ人、その肩の上あがってな、真ん中のやつと手ぇ組んで首筋に手ぇ巻いて、グッと 引っ張ってくれ。
 落ちたら知らんぞおい、そいでわしゃこの山、上がって行ったるさかいな。
 上のやつちょっと口上言ぅてくれ。

 ●口上? 何か、口上言わなあかんか?   

 ■長年の癖や、口上言ぅてもらわな んだら体動かん。

 ●オモロイもんやなぁ、ほな言ぅで……、東西、これより四 人の亡者、針の山へと登ってまいる♪……

 ■踊ったらあかん、そんなとこで。
 踊るやつがあるかい。

 ●東西、首尾よく頂上まで登りつめたる上からは、いよ いよこれからは千番に一番の兼ね合い。千尋の谷底へ獅子の蹴落とし~ッ♪

 ★大王様

 ◆何といたした?★あの四人の亡者、針の山へ放り上げたところが、 軽業師がなぁ、ほかの三人体の上乗せて踊りながら上がって行きまんねん。
 まぁそれはえぇけど、足でポンポンポンポン、針蹴りまんねやがなあいつ、 で天辺へ上がったら「獅子の蹴落としや」て上からドンドン蹴りよる。
 あの 針はねぇ、下から上がって来るやつには強いけど、反対側から蹴られたら、 みなボキボキボキボキ折れてしまいまんねん。

 予算のないときに、えらい物 入りですがな。どないしたらよろしぃやろ?

 ◆けしからん亡者め、針の山より引きずり下ろし、人呑鬼に喰わしてしまお。 人呑鬼を呼べ…… ジンドンキといぅ、人を呑む鬼と書きます。
 おっそろしぃ大きな鬼がノッ ソ、ノッソノソ。

 ◆おぉ、人呑鬼か、また肥えたなぁ。

 ★あぁ、近ごろ運動不足で困っとります わい。
 コレステロールが増えてかなん。

 ◆ちょっとこの、娑婆から来たての亡 者がおるが、お前呑んでしまえ、お前にくれてやる。

 ★ほぉ、こら娑婆から来 たて。
 なるほど脂が乗ってうまそぉなわい。
 人呑鬼様が喰ぅてくれるわ、あ りがたいと思え。

 ●ジンドンキですて、人を呑む鬼。えらい歯、石臼みたいな歯ぁが並んでる がな。
 あんなもんで噛まれたらもぉひとたまりもないなぁおい。

 ▼あの歯ぁ、 わいが抜いてしもたろか。

 ●あんた何やったかいなぁ?

 ▼わしゃ歯抜き師やが な。
 大道芸人みたいなもんやけど、あんな歯ぁぐらいボロクソや。

 ●いけるか?

 ▼いけるいける、俺に任しとけ……。鬼さん、お前、虫歯があるな。

 ★おぉ? お前そんな下から見て分かるか?

 ▼分からいで、こっちは商 売やがな。
 ひと目口元見たらいっぺんで分かんねや。
 わしらもなぁ、そんな 虫歯で噛まれたらかなんがな、歯ぁの洞(うろ)へ挟まったりしたらどんなら んさかい、えぇ歯ぁでひと思いに噛んでもらいたい。
 行きがけの駄賃や、そ の虫歯抜いていたろか?

 ★うん、時々痛とぉてかなんのじゃ。まず歯ぁへ来るっちゅうさかいわしゃ 心配しとんねやがな。
 虫歯を治してくれるか、そらありがたい。
 どぉすんねん?

 ▼手の平乗せて口元まで持ってってくれたらえぇねや。

 ★こぉやりゃえぇ のかい……

 ▼あぁ~んと口開けよ。
 うわぁ、恐ろしぃ口やな……、下ろした らあかんで、噛み合わしたらあかんで、ちょっと中入るさかいな。
 わぁ~、 鬼さんあんた歯性が悪いでこら、ホンにこら虫歯がだいぶある。

 ★痛たッ

 ▼痛んだやろこれは、下も上も虫歯だらけやがな……、ちょっといっ ぺん下降ろしてくれ、どっこいしょッと。
 それでな、おまはん手拭持ってるやろ、手拭でな、全ての歯ぁにからますよぉに手拭をグッと歯ぁで噛むねん。
 グ~ッとしばらく噛みしめてると熱い唾が出て来るわ、ほんでわしが「ひぃ ふの三つ」でポンと手ぇ叩いたら、その手拭をパッと吐き出しや。ほんだら虫歯だけがポロッと抜けるさかいな。

 ▼まだまだ……、もぉちょっと辛抱し。
 熱い唾が出て来たか? よっしゃ、 もょよかろぉいくで、ひぃふの三つ。

 ★(ボロボロボロ)あ、あぁ~ッ、わし を歯抜けにしやがった、こいつらッ! ウォ~ッ、グイッ!

 ●あ~ッ! おまはんが歯ぁ抜いといてくれたお陰で、鬼ぐい呑みにしよっ た、お陰で無事に下へ着いた。
 あぁ、体無事や……、一人足らんやないか、 ひとり。軽業師がおらん……、おぉ、あんなとこにぶら下がって、のどチンコへぶら下がっとぉるあの軽業師。
 お~い、降りて来ぉ~い、大丈夫かぁ~

 ▲大丈夫やぁ~。

 ●降りといでぇ……、あばら骨、梯子にして降りて来たがな、身の軽いもん やなぁ。
 さぁ、いぅて鬼の腹におさまったんやが、こらどぉいぅことになん ねや?

 ■ここからはわしに任してもらおか。

 ●あんた、何やった?

 ■わしゃ医 者じゃ。

 ●やぶ医者やろがな。

 ■やぶ医者でもひと通りのことは勉強したぁる、 鬼の腹も人間の腹もそぉ変わらんわい。
 とにかくこれ胃袋じゃ、ここにおっ たらこなされてしまうさかいな、とりあええずこれを出ないかん。

 ■わしゃメスを一丁持ってきたさかいに、これでな腹をこぉ裂いてな……、 丈夫なもんじゃろこれ、これホルモン焼きにしたらうまいぞ……。
 引っ張れ 引っ張れ、出ないかん。

 ●うわぁ~ッ、えらい広いとこへ出たなぁ。

 ■これが鬼 の腹や、広い。原っぱちゅうのはこれからきたんやさかい。

 ●あぁなるほど、鬼の原て……、いろんなものがおまんなぁ。

 ■いろんなものがある、面白いやろ。
 ちょっと面白いことやってみよか、こ こに紐がぶら下がってるやろ、これを引っ張ってみ。

 ●どぉなんねん?

 ■鬼が くしゃみするさかい。

 ●鬼が? んッ

 ★え~ッくしん

 ●ホンにクシャミが。

 ■そ こにテコみたいなもんがあるじゃろ、それを持グ~ッとこっち上げてみ。 

 ●こ れをこぉいぅ具合に……

 ★あ痛たたたッ

 ●鬼、腹痛た起こしてるがな。

 ■これ 疝気筋ちゅうてな、筋をグ~ッと引っ張ったら、鬼腹痛た起こしよる。

 ■ここに丸ぁるいもんがあるやろ、これをこぉいぅ風にやると、鬼笑いよる で……、こそばかすと★ファッハッハッハッ

 ●笑ろとぉる、笑ろとぉる。

 ■そ こに袋があるやろ、それグ~ッと押してみ。

 ●何でんねんこれ?

 ■屁袋じゃ、 押したら鬼屁ぇこきよる

 ●ヨイショッ

 ★ブッ。

 ●わッ! ハッハッハッ、これ いっぺんにやったらどないなるやろなぁ?

 ■えらいこと言ぃ出したぞこいつ、そんなもんいっぺんにやったら騒動やで お前。鬼、くっしゃみして腹痛た起こして、笑ろて屁ぇこきよるがな。

 ●いっ ぺんにやってこましたろか。

 ■さぁ、鬼苦しめたろか、よし軽業師、お前もっ ぺん上あがってな、鬼の喉のところをガシガシッとかきむしれ、鬼は空えづ きして苦しみよる。

 ▲あそぉか、ヒョイヒョイッと……、ここをこぉいぅ風にやったらえぇねん な。こぉやったらどぉなる★オエ~ッ

 ■さぁさぁ、これが一番じゃ。次ゃく しゃみ。

 ●これはどぉじゃ

 ★ヘ~ックション

 ■次、それや

 ●グ~ッ

 ★ん~ん、 あ痛たたたたッ

 ●コチョコチョコチョ

 ★ファッハッハッハッ、ブ~ッ。

 ●おもろい! みないっぺんにやろいっぺんに。いくで、さ、ひぃ、ふの、 みっつ……、これはどぉじゃ★オエ~ッ

 ●これはどぉじゃ★ヘ~ックション

 ●これはどぉじゃ★ん~ん、あ痛たたたたッ

 ●これはどぉじゃ。

 ★ファッハッ ハッハッ、ブ~ッ……

 ★オエ~ッ! ヘ~ックション! あ痛たたたたッ! ファッハッハッハッ、 ブ~ッ! オエ~ッ! ヘ~ックション! あ痛たたたたッ! ファッハッ ハッハッ、ブ~ッ、オエ~ッ、ヘ~ックション、あ痛たたたたッ、ファッハッ ハッハッ、ブ~ッ……

 ★あぁ何といぅ亡者どもじゃ、もぉこいつら便所行って出してしまわなしゃ~ ない、これわ

 ●鬼「便所行って出してしまう」言ぅてる。

 ■出されたらあかん、 出されたら、いつまでも腹の中におって苦しめたんねさかいな。
 下へ降りぃ 下へ。

 ●いや、鬼「出してしまう」っちゅうのに下へ降りてどぉする?

 ■下の ほぉがえぇねん、上におるより下のほぉが安全や。

  ●あっちにチラチラ明るいもんが見えてきた、明るいもんが。

 ■あれが鬼の肛 門やさかいな、あそこへ落ち込んだらあかんで、そばまで行こあのそばまで。
 お前こっち側掴んで体こっちやれこぉいぅ具合に、おまはんこっち側の肉掴 んでこっちぃ体突っ張れ。

 ●どぉいぅこと?

 ■つまり井桁になんねん井桁に、 鬼の肛門真ん中にして井桁に。
 ここぉしといたら絶対にどんなことがあって も落ちん。
 わしもこぉいくさかいな、おまさん反対側へ……

 ★こいつら出てきたらどんな目ぇに遭わすか、ん~んッ……

 ●なんの離すか い!★ん~んッ、糞っ垂れめ!

 ●ホンマに糞垂れやでこれわ。

 ★ん~ん、ん~ んッ……! トホホホホ、こいつらどぉしても出よらんがな……。もし大王 様、大王様。

 ◆おぉ、人呑鬼いかがいたした?

 ★もぉこぉなったら、あんたを 呑まなしょがない。

 ◆わしを呑んで何とする?

   〔情報元 : 世紀末亭〕
 http://kamigata.fan.coocan.jp/

落語読本 らくごの一文 [落語]『地獄八景亡者戯』 桂 米朝 [Text]⑵

2023-08-19 21:00:00 | 出来事/備忘録

 ❖ 地獄八景亡者戯 ⑵ ❖
        桂 米朝


 ゾロゾロと一同が上がってみますといぅと、えらぁ~い賑やかでございま してな。

 ▲えらい賑やかなところやなぁ、も~し、ちょっとお尋んねしますが、ここ は何ちゅうとこでんねん?

 ■おぉ、あんた新入りやなぁ。

 ▲へぇ、今日来たとこで「ピッカピカの一年生♪」でんねん。

 ■何をしょ~もないこと言ぅてんね ん、ここは六道の辻や。

 ▲へ?

 ■道が六つに分れてるやろ、六道の辻といぅの はここじゃ。

 ▲あッなるほど、ここが有名な六道の辻……。
 あぁこの真ん中の 通りだけがえらい広ろおまんなぁ?

 ■これが地獄のメインストリートでな「冥土筋」っちゅうねん▲はぁ……、 ほな突き当たりが南海電車?

 ■それは御堂筋、それわ。
 これは冥土やさかい冥土筋(めぇどぉすじ)

 ▲あぁ冥土筋。
 立派なもんですなぁ、樒並木が植わっ てて両側にビルが建ってて、え?「地獄文化会館」こぉいぅのんもおまんね やなぁ。

 ▲ちょっと見てみなはれ「文芸講演会」講演会がおまんねやで……、えらい 顔ぶれやなぁ、有島武郎、芥川竜之介、太宰治、三島由紀夫、川端康成……、 テーマが「自殺について」こぉいぅのは娑婆では聞けまへんなぁ……。
 あっ ちのほぉはえらい賑やかでんなぁ。

 ■あっちのほぉはまぁ、地獄の歓楽街です なぁ。あすこんとこにズ~ッとこぉ料理屋や御茶屋があるしな、バーやキャ バレーやクラブや……

 ▲えぇ~ッ、そんなもんおまんのん?

 ■何でもあるが な、見てみなはれネオンサイン。

 ▲ホンに見てみなはれ、赤い灯青い灯や。地獄トルコ……、トルコ風呂まで おまんのん?

 ■あぁ、何でもあるがな。

 ▲えぇ、グランドキャバレー「火の玉」 やておい「本日のショー・幽霊のラインダンス」幽霊のラインダンス? どないして足上げまんねんやろなぁ?

 ■見たことないさかい知らん。

 ▲「ガイコ ツのストリップ」ちゅな……、何を見せまんねやろなぁ?

 ■知らん、見たこ とないよって。

 ▲オモロイもんでんなぁ……。
 あのあっちのほぉ、ゾロゾロ人が行きますの んは?

 ■あら芝居町(ちょ~)や。

 ▲芝居町?

 ■あこは興行もんが並んでんねん。

 ▲何ですて、地獄にも芝居なんかありますのか?

 ■そんなこと言ぅてたら笑 われるであんた。
 こっちの芝居見たら、娑婆の芝居なんかアホらしぃて見ら れへんがな。
 名優はみなこっち来てねやさかいな▲ん~ん、そら理屈やなぁ。

 ■なッ。こないだあんた、向こぉの「獄立劇場」ちゅうところでな、初代か ら十一代目までの団十郎がみな揃ろて「忠臣蔵」やりましたんや。

 ▲あ、みん な団十郎■さぁ、ややこしかったで。
 由良之助も団十郎なら平右衛門も勘平 も、若狭之助も本蔵もみな団十郎や。

 ▲うわぁ、よろしぃなぁ……。
 寄席もお ますか?

 ■寄席かてもぉ、こっちのん聞ぃたら娑婆のんアホらしぃて行かれんであんなもん。
 こないだなんか三遊亭円朝が十日間「牡丹燈篭」続き噺でやったんやから、よぉ入ったで。
 あんた関西の人? 先代と先々代の春団治が「親子 会」やってまっしゃろ。
 こっちも顔揃いや。

 ▲ホンにホンに見てみなはれあれ、松鶴もあら五代目でっせ。
 文三(ぶんざ)、 文枝、文団治、米団治、円都、桂米朝……、米朝といぅ名前で死んだ噺家はないはずやけど、あらまだ生きてんのんと違いますか?

 ■あんじょ~見てみ なはれ、肩のところに近日来演と書いてある。

 ▲あいつ、もぉじき死によんね んや。
 何にも知らんと今時分しゃべってるやろ、可哀相に……。こらいっぺ ん見に行かないけまへんなぁ。

 ▲こっちのほぉもえらい人が歩いてますが、あら何でんねん?

 ■あら、念仏 町や。

 ▲念仏町ちゅうと?

 ■念仏売ってまんねやがな。

 ▲念仏みたいなもん買ぉてどないしまんねん?

 ■あんた何にも知らんねやなぁ。
 こら肝心やで。
 えぇ お念仏を買ぉて持って行たら、閻魔はんの前でお裁きを受ける時に、この念 仏の功徳(くどく)で罪が軽なるんやがな。
 娑婆の裁判で弁護士を頼むよぉな もんやがな。

 ▲こら知らなんだなぁ~、えぇお念仏は……

 ■地獄の沙汰も金次第ちゅうの はここのこっちゃ。

 ▲いや、ご互いに罪はないことはおまへんねや。
 で、どこ の店で買ぉても一緒ですか?

 ■いや、そら宗旨宗旨で店が違うねん。

 ▲はぁ、 わたしは門徒でんねんけど。

 ■あぁ、浄土とか一向とか「なんまんだぶつ」の ほぉな。
 見てみなはれほら、あそこに本願寺さんの屋根みたいなもんが見え てまっしゃろ「南無阿弥陀仏屋」といぅ看板が上がってます。
 あそこ行った らよろし。

 ●わて、日蓮さん■日蓮宗はその筋向かい、ヒゲで跳ねたよぉな看板が出て まっしゃろがな「南妙法蓮華経屋」向こぉで買ぉたらよろしねん。

 ◆わて、真 言宗■真言宗はその向こぉの建てもん「オンアボキャ~ベ~ロシャノ~マカ ボダラマニハンドマジンバラハラバリタ屋」と書いてある、向こぉ行きなはれ。

 ★わたい天理教でんねん■天理んさんはこっち側に「悪しきを払ろて助け 給え天理教のみこと屋」ちゅうのあります。

 ★わしはキリスト教■キリスト教 はその向こぉで洋館建てで「アーメン商会」と書いてある。

 ▲なるほどなぁ、いろんなんがありまっせ見てみなはれ「創価学会」やとか 「霊友会」やとか……。
 おッ、いま花火がポンポ~ンッと上がりましたなぁ ■あら「PL教団」や。

 ▲いろいろとあるんやなぁ。
 ほな、みなそれぞれお念 仏買ぉて行こか……
 ゾロゾロと念仏町にかかりますと、両側から喧しゅ~言ぅて客を呼んどぉります「御同行(ごどぉぎょ~)♪なんまいだぁ~……、お茶湯(ちゃとぉ)持って来ぉ、抹香(まっこぉ)くすべぇ、お茶湯持って来ぉ」

 ▲もし、あれ何言ぅてまんねん?

 ■いやいや、娑婆で言ぅたら「お茶持って 来い、タバコ盆持って来い」ちゅうとこをな「お茶湯持って来い、抹香くす べ」言ぅてまんねん。
 ▲へぇ、えらいオモロイもんでんなぁ。
 ほなこの辺、入 りまひょかな……。
 ちょっとお邪魔します。

 ●はいはい、どぉぞこちらへ。
 お茶湯持ってこ~ッ!

 ▲いやいや、もぉそないかもぉていただくと困りますので、お念仏を一つ分けてもらいたいと思いましてな。

 ●へぇへぇ、どの辺のお念仏にいたしましょ?

 ▲どの辺? いろいろあるんやなぁ……。
 もぉし、あの一番上の棚に金ピカ の箱に入ったやつが並んでまんなぁ、あの金の箱はあれどれぐらいしまんのん?

 ●あれは大きぃほぉが八十万、小さいほぉが七十万円▲高っかいなぁ~、そ んな高いもんですか、お念仏といぅたら?

 ●いやいや、いろいろございますが、まぁあの辺のお念仏を買ぉといてもらいますとな、もぉたいがいの罪は 帳消しになって、極楽から自動車で迎えにまいりますがなぁ。

 ▲いやいや、それほどの罪はないんです、わたしらへぇ。

 ▲その下のあの漆の箱ねぇ、あれでどのぐらいで?


 ●へぇ、あれで六十五万 円と六十万円。

 ▲高いなぁ。
 そんな何十万てしまんのん?

 ●このところ材料難 でございましてな、東本願寺さんゴタゴタともめましたやろ、あれからその ちょっと値が上がりましてな、未だに戻りまへんのんで。
 お気の毒やと思て ますが。

 ▲まぁ悔やみ言ぅてもぉてもしゃ~ないが……、グッと格安ちゅうや つおまへんやろか?

 ●格安ねぇ……、その隅のほぉにね、時季遅れと半端もんが積み上げておまんねん。
 もぉあれならどれでも一つ一万円にしときますがなぁ。

 ▲それでも一 万円やてなぁ……。
 あれッ、ここにあんた「ドラえもん」やら「アラレちゃ ん」のビンに入ってのがおまんなぁ。

 ●あぁ、こらお子達用になっとりますのでな。

 ▲これ一つ五千円、これにします。

 ●いやいや、お子達は罪がないさかい、こんなものはもぉオモチャみたいな もん、やっぱりもぉ少々出してもらわんとあきまへんなぁ。

 ▲しかし高いなぁ。 千円台おまへんやろかなぁ? 千円とか二千円?

 ●千円? そんなことおっしゃんなら、こんな店来たらあきまへんわ。
 この裏筋に念仏作る職人が住ん でましてな。
 念仏の裁ち屑をこぉひと山なんぼで積み上げて売ってまっさかい、それでも買ぉてきたらどぉです?

 ▲あぁそんなんがおまんのん。こらえぇ こと聞ぃた、裏筋まわろか。

 ▲裁ち屑が出るとは気が付かなんだなぁせやけど……。
 この辺、念仏作る職 人が……、来てみなはれ来てみなはれ、売ってる売ってる、千二百円とか千三百円とか書いたぁるがな……。
 ちょっとお邪魔します。

 ★はい。

 ▲この千二百円とか、これもお念仏ですか?

 ★へぇ、こんな値ぇで買ぉていただいとりま すが。

 ▲こらえらい安いけど、こらどぉいぅお念仏で?

 ★へ、こっちからビッ クリ念仏、湯念仏、居眠り念仏とこぉなっとりますんで。

 ▲ほぉ……、このビックリ念仏ちゅうんはどんな念仏だんねん?

 ★こら暗ぁ いところ歩いててな、角を回ったりする時に向こぉからも人が来て行き当たりまっしゃろ「あッ、なんまんだぶつ!」

 ▲ほな、この湯念仏ちゅうのは?

 ★こら、お風呂へ入ってましてな、ちょ~ど入り加減の湯ぅで温もりが回っ てえぇ具合で「あ~ぁ、な・ん・ま・ん・だ・ぶ・つ」と、ちょっとあくび の混じってるやつがこれでんねん。

 ▲あんまりありがたそぉなんはないなぁおい。
 こんなんでもやっぱり極楽行 きますか?★さぁ~ッ……

 ▲「さぁ」では困るでおい、どもしゃ~ない、ほ な向こぉ回って時季遅れでも買ぉて帰りまひょかなぁ。

 「しゃ~ない」といぅわけで、銘々(めぇめぇ)懐に合わしましてお念仏を買い求めますと、閻魔の庁の正門のほぉへゾロゾロゾロゾロと集まってまいります。
 いっぱいの人が寄ってる。 

 ▲もし、ぎょ~さん人が集まってますが?

 ●へっ、今日は閻魔の庁が開いてな、お裁きがあるそぉですんで、みな集まってまんねん。

 ▲「今日は」ほな何ですか、これ毎日ありまへんのか?

 ●何を言ぅてなはんねん。
 こんなもん毎 日あってたまりますかいな、たまにしかこんなもん開かしまへんねやで。

 ▲わたしゃ毎日開くと……

 ●そんなもん、お役所仕事やから溜めといてやり よりまんねん。
 溜まらなんだら門も開けてくれしまへねやがな。
 あんた、今 日来て今日合ぉたちゅうのはよっぽど運がえぇんでっせ。

 ▲さよか。
 で、いつ 開くんで?

 ●さぁ、それが分からん。
 ホンマにもぉ、ちょっと書いといてく れたら、わたしら何なとしよぉがおまんねけども。

 ▲お~いッ、切符だけなと早よ売れ。

 ◆どけどけ、馬鹿にしやがって、わしが いっぺん掛け合ぉたる。

 ▲えらい酒に酔ぉた人が出て来ましたなぁ。

 ◆馬鹿にしやがって、早よ開けさらすよぉにわしが掛け合ぉたるっちゅうねん。

 ▲頼んまっ さ。

 ◆どけッ、ホンマに馬鹿にしやがって……。
 こら閻魔、早よ開け! 開け さらせ、こら閻魔、閻的、閻公、閻衆、遠州森町良い茶の出どこ ♪娘やり たぁ~やお茶摘ぅ~みに♪

 ★おい、赤鬼、青鬼、茶色、紫☆何や、おい。

 ★恐いやつが来たで☆何が恐いねんな?

 ★しかしあいつが今唄とてたあれ、浪花節の「清水港」と違うか?

 ☆そぉらしぃなぁ。

 ★鬼より恐いで……、えぇかげんに開けたほぉがよかろぉ。
 「ほんなら、開けぇ」閂(かんぬき)を外します。
 鉄の門を左右へガガガガ ガガガガ~ッ……、亡者の連中なだれを打って中へ入ってまいります。

   〔情報元 : 世紀末亭〕
 http://kamigata.fan.coocan.jp/
 

落語読本 らくごの一文 [落語]『地獄八景亡者戯』 桂 米朝 [Text]⑴

2023-08-19 21:00:00 | 出来事/備忘録

 ❖ 地獄八景亡者戯 ⑴ ❖
        桂 米朝

 恐ろしく古風な「地獄八景亡者戯(じごくばっけぇもぉじゃのたわむれ)」 といぅ噺を聞ぃていただきます。
 
あの世へご案内しょ~といぅわけで、どっ ち道まぁ人間いっぺんは行かないかんところでっさかいな、まぁホンマに行 くより前に、落語でいっぺん知っといてもらおかといぅわけで。

 え~、ここにございましたのが我々同様といぅ、いたってもぉ気楽な男で、よそから大きなサバをもらいまして、手料理でこいつをアテにして一杯呑んだところぉが、それに当たったんですかなぁ、ゴロッと横になって寝ますと、夢ともなく現(うつつ)ともなく、空々寂々として暗ぁ~い所へ出てまいりま した。

 前へ行く者、あとから来る者、銘々(めぇめぇ)角帽子(すんぼぉし)といぅ三角の布(きれ)を額に当てまして、首からは頭陀袋(ずだぶくろ)、麻幹(おが ら)の杖を手について、糸より細ぉい声を上げ「お~~いッ」

 ●もぉし、そこへお出かけになんのは伊勢屋のご隠居と違いますか?
 あぁ、 やっぱりそぉや。
 伊勢屋のご隠居!

 ■おぉ、こら誰やと思たら喜ぃさんやないか。えらいとこで会ぉたなぁ。

 ●えらいとこでお目にかかりましたなぁ、まぁ まぁ、ご機嫌よろしゅ~。

 ■あんまりご機嫌えぇことないでこれわ、こんなとこで会ぉてんねや。

 ●あぁホンに、お変わりも……、ありすぎるしなぁ、どない言ぅて挨拶してえぇねや分からん。

 ■まぁまぁ、挨拶なんかどぉでもえぇが、ホンマにえらいとこで会ぉた。

 ●わて、あんたのお葬式、手伝い(てったい)に行きましたんやで。

 ■来てくれてた なぁ。

 ●分かってますか?

 ■分かったぁるがな、わしゃ棺桶の隙間から見てたんやズ~ッと「あぁ、あいつも来てくれてる、誰それも来てくれてるなぁ」 と思て。

 ●さよか。立派なお葬式でしたなぁ、金々もぉもぉとしたお飾りがし てあって、お供えが山のよぉで、香典かてぎょ~さん集まってましたで。

 え~、ここにございましたのが我々同様といぅ、いたってもぉ気楽な男で、
 よそから大きなサバをもらいまして、手料理でこいつをアテにして一杯呑んだところぉが、それに当たったんですかなぁ、ゴロッと横になって寝ますと、夢ともなく現(うつつ)ともなく、空々寂々として暗ぁ~い所へ出てまいりました。
 前へ行く者、あとから来る者、銘々(めぇめぇ)角帽子(すんぼぉし)といぅ、三角の布(きれ)を額に当てまして、首からは頭陀袋(ずだぶくろ)、麻幹(おが ら)の杖を手について、糸より細ぉい声を上げ「お~~いッ」

 ●もぉし、そこへお出かけになんのは伊勢屋のご隠居と違いますか? あぁ、やっぱりそぉや。伊勢屋のご隠居!

 ■おぉ、こら誰やと思たら喜ぃさんやないか。
 えらいとこで会ぉたなぁ。

 ●えらいとこでお目にかかりましたなぁ、まぁ まぁ、ご機嫌よろしゅ~。

 ■あんまりご機嫌えぇことないでこれわ、こんなとこで会ぉてんねや。

 ●あぁホンに、お変わりも……、ありすぎるしなぁ、どない言ぅて挨拶してえぇねや分からん。

 ■まぁまぁ、挨拶なんかどぉでもえぇが、ホンマにえらいとこで会ぉた。

 ●わて、あんたのお葬式、手伝い(てったい)に行きましたんやで。

 ■来てくれてたなぁ。

 ●分かってますか?

 ■分かったぁるがな、わしゃ棺桶の隙間から見てた んやズ~ッと「あぁ、あいつも来てくれてる、誰それも来てくれてるなぁ」 と思て。

 ●さよか。
 立派なお葬式でしたなぁ、金々もぉもぉとしたお飾りがしてあって、お供えが山のよぉで、香典かてぎょ~さん集まってましたで。

 ■あの香典の中から、おまはん千円誤魔化したやろ。

 ●そんなん分かってますか?

 ■分かったぁるがな。
 何であんなことをすんねん?

 ●いや、誤魔化したわけやないんです。
 帳場あずかってたんが煙草屋の大将でな、お金を勘定してはソロバンを入れて「千円余る」またソロバン入れ直して金勘定して「千円余る……」あんまり気の毒なさかい、ちょっと千円誤魔化したら「あぁ、 ちょ~ど合ぉた」ちゅうて……

 ■そら何をすんねやいな。
 まぁしかし、わしの葬式に来てくれたおまはんが、何でこんなところへ?

 ●さぁ、人間といぅのは分からんもんでんなぁ、あれから四、五日あとにな、こんな大ぉきなサバ、よそからもろたんだ。
 わたい サバが好きで、手料理でこいつを二枚に下ろして、骨付きのほぉ戸棚へなおして、片身はあんた刺し身にしてそれで一杯呑んだら、当たったんですなぁ。
 そんなりス~ッとこんなとこへ来てしもた。

 ■そらえらい災難やったなぁ。

 ●しかし、人間死んでみるといろいろ心残りなことがおまんなぁ。

 ■そらそぉや、誰しも心残りのない者はないわい。
 おまはんの心残り、当ててみよか?

 ●分かりますか?

 ■分かるがな。一緒んなってまだ二年にもならん嫁はん、 可愛ぃ女房か?

 ●いやいや、一年も経ったらもぉえぇ加減なもんで。

 ■そんな 薄情なこと言ぃないな……。  
 お腹に子どもでもできてて、顔を見ずに死んだのが?

 ●いやいや、子どもは気(け)も無い。

 ■ほんなら、お金に?

 ●金なんかあるわけおまへんがな。

 ■ほな、何に気(き)が残ってんねや?

 ●わたいが残念なと言ぅのはなぁ、心残り、戸棚へなおしといた片身のサバねぇ、あれ、おんなじ死ぬのんやったらみな喰て死んだらよかったと思たら、悔しぃて……

 ■よぉそんな気楽なこと言ぅてる、こぉいぅところへ来る人はみんな大きな心残りを持ったはんねや。

 ●そらそぉでっしゃろなぁ、で、わたいらこれから どこ行きまんねやろなぁ?

 ■さぁさぁさぁ、まぁ地獄か極楽か、閻魔はんの お裁きを受けなしゃ~ない。

 ●相なるべくは、その極楽といぅところへ行きたいもんでやすが……、しかし、あんた、わたいよりだいぶ早よ死んでんのに、 一緒になったのはどぉいぅわけでんねん?

 ■争われんもんや、わしゃ足がリューマチやったやろがな、どぉしても道が はかどらんねん。
 何やったら先行ってもろたらえぇで。

 ●いやいや、これこそ ホンマに急がん旅や、昔話しながら行きまひょいな。

 二人(ふたぁり)が話をしながら道をとって行く、そのあとへ出てまいりましたひと塊、こら陽気な連中で娑婆の大金持の若旦那「もぉ遊びたいことも、したいことも何にもみなし尽くしてしもた。
 もぉこのうえはあの世へでもひとつ遊びに行こやないか」といぅことを考えましてな、そぉするとそれを聞ぃた馴染みの芸者、舞妓、太鼓持ちやとか女将さん連中が「若旦那があの世へ行かはんねやてぇ、是非お供を」「ほな、あの世ツアーちゅうやつを組もか」てなことなりまして「どぉして行こ? 今まで当たるのが恐いためにフグは美味しぃもんやそぉなけど、 恐おぉてよぉ食べなんだ、フグに当たって死のぉやないか」ちゅうわけで、 衆議一決いたしまして、フグにフグを買いにやりましてな、フグに料理して フグに食べて、フグに当たってフグに冥土へ来てしもた。
 そんなんでっさかい出で立ちからして変わってますなぁ、男は黒羽二重にフグの五つ紋がボンボンボンッと付いたぁる。
 女のほぉもフグの紋付きに裾 のほぉにこの根深やとか水菜やとか糸コンニャクやとか豆腐やとか、裾模様 に付いてるといぅややこしぃ格好で、喧しぃ言ぅてやってまいります。
 その道中の陽ぉ気なこと……♪

   ♫♫♫♫♫♫♫♫♫♫♫

 ▲早よ来いよ、早よ来いよ。

 ★ちょっと待っとくなはれな、男はんはえぇわいな。
 わてらそんな早よ歩かれしまへんがな。みな早よおいでや。

 ●そんなこと 言われたかて、そな早よ歩かれへん(これ、舞子はんのビラビラの簪でんね ん……)。

 ▲早よ来い、早よ来い……、ちょっと若旦那、待ったんなはれな。
 女ご連中そない早よ歩かれしまへんがな。
 何であんたそない急ぎ足でトット コトットコ歩いてなはんねん?

 ◆いや、ちょっと考えごとしてたもんやさかい、えらいすまなんだ。

 ▲考えごとやなんて、あんたうつむいて陰気な顔してトットトット急ぎ足で、何ぞ心配なこと、そんなこと忘れて、派手に陽気に賑やかにワァ~ッと死んで来てまんねやないか、その陰気な顔おきなはれ、もちょっと陽気なこと考えよ。
 あの世行たらな、賽の河原かどっかでバ~ッと地所買占めてそこへレジャー センターか何かバ~ッと……

 ◆相変わらず気楽な男やなぁ、そこへ行くまで に一つ心配なことがあんねん。

 ▲何がでんねん?

 ◆わしゃ娑婆にいてる時分に地獄極楽の絵といぅのを見た ことがあるなぁ。
 そぉすると、三途の川とか葬頭(そぉず)の川とかいぅ川が あってやな、そこにこの柳の木ぃみたいな木が立ってんねん。
 ショ~ズカの 婆といぅ恐い顔をしたお婆んがおってやな、亡者の着物を剥ぎ取ってはこの 木の枝へ引っ掛けてる。
 まぁ男はしょがないが、女連中裸にされんのは可哀 相なさかい。
 地獄の沙汰も金次第といぅことがあるで、そこはまぁ裸になら ずに金で話付く工夫はないかいなぁ、と思て思案してるねん。

 ▲ほななんでやすかいな、金でそのお婆んを「うん」と言わしたらよろしぃ のんかいな。この一八(いっぱち)を忘れてもろたら困るなぁ。

 ◆何でや?

 ▲何でやて、金でお婆んをウンと言わすのん、わての十八番だっしゃないか。  
 前、あんたミナミに深い馴染みのこれがあるんやがな、せやのにおんなじミナ ミでほかの芸妓に手ぇ出しなはったがな。
 これのお母んが承知するかいな、怒って来てな「手切れ」ちゅう話になった時に、向こぉがどぉしても五百万円出せぇといぅのを四百万円で話を付けた、あの時の腕を忘れてもろては困るなぁ。

 ◆ちょっと待ちぃな、あの時わしやっぱり五百万出したで。

 ▲あッ

 ◆「あッ」やあらへんがな。
 ほなあの時、仲に立ってお前百万もいてたんかいな。

 ▲こん なとこでバレるとわ……

 ◆悪いやっちゃなぁ、こいつ。
 しかしまぁまぁ、お前ここで言ぅてしもてよかったんやで、改めてあの百万は上げるさかいに、それで帳消しや。
 閻魔はんの前でこれがバレたらえらいことになるがな。

 ▲何ででんねん?

 ◆ほかの者はみな極楽へ通る、お前はその罪で地獄へ送ら れるねん。

 ▲言ぅてしもたらよろしのん?

 ◆懺悔と言ぅて、しゃべってしまうとその身の罪は滅びるとしたぁる。

 ▲さよか。もひとつあんのん言ぅてしまお か知らん。

 ◆まだ何ぞあんのんかいな?

 ▲箱根行た時にねぇ、あんたのあの上 等の時計が見えんよぉなった言ぅてた、あれわたいや。

 ◆何やいなこの男わ。一緒になって探し回りやがって、こんな悪いやつない でホンマに……。

 ほな、改めてあの時計もおまはんに上げる。

 ▲おっき、あり がとぉ。
 それから熱海行た時……

 ◆ちょっと待て、おい。何やいな?

 ▲あの 時のダイヤの指輪もわたいや。

 ◆盗人連れて歩いてたんや。
 ほなもぉあれも上 げるわ。

 ▲それから……

 ◆もぉえぇっちゅうのに、何ぼあってもな、わしからやった やつはみな帳消しにしたげる。
 よそでやったんは知らんで。

 ▲よそではしてし まへん。
 もぉ、し易い人に決めてたさかい……

 ◆どついても音のせんやっちゃなぁ、そんなら財布を預けとくさかいな、ひとつその、話付けてきて。

 ▲へっ、 ちょっとお待ちを……

   ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻

 ▲えぇ~ッと、これが三途の川らしぃが……、柳みたいな木ぃっちゅうのが これやな。
 お婆んなんかどこにもおれへんがな……、あぁ、あんなとこに茶 店があるわ……

 ▲ちょっとお尋んねします。

 ●はい、どぉぞまぁお掛け。

 ▲あのぉ~、これが三途の川っちゅうやつでんなぁ。

 ●はぁ、これがあの有名な三途の川でございます。

 ▲で、あの木があそこに立ってまんなぁ、あの下にショ~ズカの婆といぅ恐わぁいアバラ見せたお婆さんがおってでんなぁ、こんな頭の。
 亡者の着物 剥ぎ取って木の枝に引っ掛けたりするといぅ話を聞ぃてんまんねんけど、今日は見当たりまへんが、お婆ん今日は休みですか?

 ●いや、休みといぅわけやございません。
 あのお婆さんについてはいろんな 話がございますが、まぁお掛けやす、お茶でも入れまっさかい。
 まぁあんた も古いことおっしゃるけどな、もぉショ~ズカの婆が「奪衣婆(だつえば)」 ちゅうてな、あんなことやってたん、そらもぉよっぽど昔の話だっせ。

 ▲あぁ、あら昔の話。

 ●はぁ、そんなことあらしまへんねん。終戦からこっち、 地獄もよっぽど変わりましてな「あぁいぅことはもぉやめて、もっと民主的 にせないかん」いぅて、あぁいぅのはみな廃止になりましてん。

 ▲あぁ、さよかぁ。

 ●あのお婆さんのうちゃ先祖代々、家の権利とか格式とかいぅやつで、 ズ~ッと亡者の着物剥ぎ取るのん商売にしてはったんやけども「それはいかん」ちゅうことなってな。

 ▲お婆ん、困りましたやろなぁ。

 ●まぁその当座は失業保険なんかもろてやったはりましたけど、それでは困るいぅて閻魔はんのところへ相談に行かはったん。
 ほな閻魔はんも「お前とこはズッと代々あれを家業にしてきたんやさかい困るやろ」いぅて、相談に乗ってやってるうちにな、お婆さんちょっと器量がえぇもんやさかい、そこ へ閻魔はん目ぇつけて、ショ~ズカのお婆さん二号さんにしはりましてな。

 ▲閻魔も物好きやなぁまた、ショ~ズカの婆二号さんにせんかて、ほかにありそぉなもんや。

 ●いえ「婆」といぅのはまぁ役の名前で、お婆さんなかなか婀娜(あだ)な年増でっせ。
 で、閻魔はんのお世話んなって囲いもんなってましてんけど、退屈なさかいな「何か商売がしたい、バーでも開こか」ちゅうて。

 ▲よぉあるやつでんなぁ。

 ●で、バー「ババ」ちゅう店持ちはりました。
 せやけどまぁ、閻魔はんも忙しぃさかい、月にいっぺん来るやら二へん来るやら分からん、お婆さんも退屈なもんやさかいちょっとヨロめかはったんでっせ。

 ▲ヨロめく?

 ●あぁ、あのバーテンさんのな赤い衆が。

 ▲赤い衆?

 ●赤鬼やさかい。
 若い衆と違う、こっちでは「赤い衆」とこない言ぃます。
 これがちょっと鬼前がえぇもんやさかい、閻魔はんの目ぇ盗んで間鬼しはって。

 ▲ちょ、ちょっと待っとくなはれ、間男を間鬼とこぉなりまんのんかいな。

 ●この人なかなか若いさかいなぁ、学生アルバイトで。

 ▲ちょいちょい分からんことが出てくんなぁ……、こっちにも学生アルバイト? やっぱ 大学やなんかありまんのか?

 ●ありますがな、この人は獄大の学生さんでな。

 ▲獄大?

 ●地獄大学いぅて、これが一番の名門でんねん。
 なかなか入られしまへんねやで。

 ▲へぇ、ほなこっ ちもやっぱり入試難やなんかおますのん?

 ●当たり前でんがな。
 あら、こっ ちが本場でんがな「受験地獄」言ぅさかいな。

 ▲受験地獄はこちらが本場で、 娑婆が真似してる?

 ●そぉでんがな。
 もぉいろんなことがありましたんやけどな、お婆さんが一 緒になったもんやさかい、閻魔はんにバレてなぁ。

 ▲怒ったやろなぁ?

 ●いぃ えぇ、閻魔はんさばけたお方「まぁわしが忙しさかい無理もない、好き合ぉ てんねやったら夫婦になったらえぇがな」

 ▲おぉ、閻魔んに解決したな。

 ●あ んたもシャレ言ぅてなはるなぁ……、せやけども、目の前でウロウロされる と困るさかいいぅて、地獄追放になりましてなぁ。

 ▲へぇ、困ったやろなぁ?

 ●ところが、お婆さんの遠縁に当たるのが、雷の五郎八っつぁんでな、ここ頼って行きはりました。
 で、その学生さん赤い衆がな、夕立の水汲みに雇われて行きはった、秋になって暇んなったら、慣れ ん仕事やったもんやさかい体傷めてなぁ、もぉズッと寝たきりなってしもて、 お婆さんはさぁ、医者には見せんならんわ、薬代は要るわ、食べてはいかんならんわ、困った挙句とぉとぉコールガールにならはりましてな。

 ▲お婆んも落ちぶれたもんやなぁ、ショ~ズカの婆がコールガール?

 ●へぇ、 お婆さんサービスがえぇいぅて、なかなか評判よかったんですけどな、どん なお客にも出てたもんやさかい、娑婆から来たての亡者に悪い病気もらいましてなぁ。
 可哀相ぉに毛ぇは抜けるわ、皮膚はガサガサになるわ、学生さんは逃げてしまうわ、体ガタガタになってしもて、気の毒にとぉとぉ六道の辻 で「野垂れ生き」しはりましたんや。

 ▲ノタレイキ……、はぁはぁ、野垂れ死ぬんやのぉて野垂れ生きまんのか、ほな娑婆へ?

 ●はぁ、娑婆へ出てな、なんでも今までの罪滅ぼしやいぅて、 四国のほぉお遍路さんで回ったはりました。
 そぉいぅ噂は聞ぃてたんやけど、 いつの間にやらまたこっち舞い戻って来はってな、ほで「我が半生を語る」ちゅて『週刊地獄』ちゅうやつにズッと連載するわ、これが評判になって単行本がベストセラーになるやら、映画になるやら、テレビに出るやら、お婆さんえらい時の人でんねやがな。

 ▲オモロイ話聞ぃたなぁ~。
 ほなもぉ裸にされる心配はないんでんな?

 ●ま、そぉいぅ心配はあれしまへん。 
 鬼の船頭が渡し舟で渡してくれまんねん。

 ▲こ ら面白いなぁ、えらいどぉもありがとぉございました……。ほな、ちょっと ここへ茶代置いときま。

 ●まぁまぁ、こんなご心配に及ばしまへんのに、あの 右手のほぉへとって行ってもらいましたら渡船場がございますよって。

 ▲ありがとぉさんで。

    ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻

 ▲若旦那、お待っとはん。

 ◆いやいや、話はここで聞ぃてたが、裸にならいでもえぇんやそぉなな。

 ▲へぇ、その心配はございません。
 皆安心をしてお出ましを……
 ゾロゾロぞろぞろゾロゾロぞろぞろ、川岸ぃ行きますといぅと、大きな棒 杭に「三途川渡船場」と書いてある。

 ★亡者の衆かぁ~、ウォ~ッ。
 さぁ、みな乗り込め、乗り込め。
 ドンドンド ンドン歩みを渡れ。乗り込め、乗り込め。
 おいッ、舟ん中で立ってるやつがあるかい、しゃがめ、しゃがめ、しゃがめ。
 乗り前が決まったところで鬼の船頭、ズ~ッとみんなに渡し賃を集めて回ります。
 これが死に方と病で値が違うといぅケッタイな渡し賃で、それをすっ くり集めてしまうと錨をガラガラと巻き上げます。
 今度は長い長い櫓をザブ~ ンッ放り込んでガチャリと櫓臍(ろべそ)にかまします。
 パッと肌脱ぎになりますと鬼の船頭、赤松を割ったよぉな腕、よりを掛けて漕ぎ出した。

 ★や、うんとしょいッ……♪ こら、ウロチョロすなよ。
 船端へ身ぃ乗り出したら危ないぞ、はまったら生きるぞ!

 ▲なんや勘が狂いまんなぁやっぱり、鬼の船頭「はまったら生きる」言ぅてまっせ……。
 わしちょっとまだ娑婆に未練がおまんねん、はまったろか知らん。

 ★こらこら、おかしな真似すなよお前。

 向こぉへ着いてから帳簿と人数が合わなんだら、また始末書かんならん。
 ややこし真似すんねやないで。
 向こぉ岸まで舟が着きます。
 ゾロゾロゾロゾロ一同が陸(おか)へ上がります。

  〔情報元 : 世紀末亭〕
 http://kamigata.fan.coocan.jp/