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CTNRX的文化人類学 ー 未来家族 [前編]ー

2023-08-06 21:00:00 | 自由研究

 ■文化人類学は心理学と関わりが深い学問なのです。

 いったいどんな学問なのでしょうか。

 もともと文化人類学は、欧米の人類学者が遠い外国の奥地を訪れて、文化を観察し記述するところから始まりました。
 欧米の人類学者たちが驚いたのは、「未開」だと思っていた地域にも独自の社会システムがあり、欧米とはまったく異なる方法で、実にうまく機能している、ということでした。
 そのなかで、いろいろな地域の人たちがそれぞれどのような心性をもつか、子どもたちはどのように育てられるか、などの比較研究がなされていきます。
 人類学者たちは次第に、自分たちの文化に対しても目を向けるようにようになります。
 外国の文化を観察するのと同じ目線で、自分たちの文化を見つめ直すようになったのです。
 そうすることで、今まで当たり前すぎて意識もしなかった自分たちの風習や日常的な行為が、実は当たり前のことではなかった、と気づくようになります。 
 現在、文化人類学は、世界中のあらゆる現象を研究対象にしてます。
 私たちが普段なにげなく通り過ぎている学校や公園、ショッピングモールでさえ、面白い研究ネタがたくさん転がっており、実際にそのような場所で現地調査をしている人たちもいます。
 日常の「当たり前」を一歩引いたところから眺める目を養ってくれる学問、それが文化人類学です。

 ■文化人類学を通じて
      家族に関する心理を問い直す

 総合心理学部で学ぶ文化人類学では、主に、家族に焦点をあてていきます。
 みなさんのなかには、今まで心地よい家族生活に恵まれつきた人もいれば、家族関係に苦しんできた人もいるでしょう。
 その心地よさ、あるいは苦しさは、個々人の問題にとどまらず、おそらく社会的・文化的に作り出されてきたものです。
 社会や文化、時代によって、理想とされる家族のありかたは異なり、そこにあてはまるかどうかで、心地よさや苦しさが大きく左右されてくるからです。
 一般的に家族の「病理」や「崩壊」と呼ばれるような現象に陥ると、私たちは苦しみます。
 しかしそのような現象だって、もしかしたら海外では「病理」でも何でもなく、ごく当たり前の家族のありかたかもしれません。
 いったん自分の「常識」の外に出てみること、他の社会や文化のありかたを参照しながら、自分の心地よさや苦しさをもっと広い文脈でとらえ直してみること。
 そのようなスキルをみにつけておけば、困難に対しても柔軟に対処することができます。
 
 ■日本でいう「家族」ってどんなもの?

 一般的な家族構成と言えば、みなさんはどんなかたちが思い浮かびますか?モデル的によく表されるのは、両親とその子どもだけで構成される“核家族”です。
 しかし、松尾先生が示されたデータ(平成22年度国勢調査)によると、全国に単独世帯は約1万7000世帯あり、これは全世帯の32.4%を占めるそうです。
 一方で標準的と考えられている夫婦と子どもからなる世帯は27.9%であり、実は単独世帯の方がかなりおおいのです。
 しかも、この27.9%の中には、30歳〜40歳の未婚男女とその親という世帯も増えていて、世帯構成だけでなく核家族の内実も変わってきています。

 ■文化人類学における家族の定義

 家族って何?と聞かれたら、みなさんはどう答えますか?
 私にとって家族ては、どんなにぶつかってもいつかは帰る場所、でしょうか。
 文化人類学では、アメリカの有名な文化人類学者GPマードックが1949年に発表した著書「社会構造」の中で、家族はこう定義されています。
 「居住の共同、経済的協働、生殖によって特徴付けられる社会集団」簡単に言うと、「住むところや家計をともにし、子どもを産み育てる人たちの集まり」です。
 マードックはこの定義のもと、核家族があらゆる家族の形のベースにあると唱えました。
 複数の婚姻関係を持つ家族や複数世帯がともに暮らす拡大家族なども、核家族が組み合わさったものであるという考え方です。

 しかし、その後の調査研究により、実際はその枠にとらわれない多様な家族のかたちがあることがわかってきており、彼の唱えた説はいまでは主流ではなくなっているそうです。

 ▼インド・ナーヤルの母系家族では、多様な家族のかたちとは一体どんなものなのでしょうか?

 松尾先生は、日本の一般的家族観と異なる3つの事例をご紹介してくださいました。

 一つ目は、インド南部のある地域におけるカースト(身分階級)のナーヤルという人たちです。

 ナーヤルは貴族などのクシャトリア階級に属するカーストです。
 ナーヤルでは、「母」を中心に家系が存続します。
 ナーヤルの女性は、初潮を迎える頃、儀礼的に夫を持ちます。
 わずか10歳〜12歳くらいで結婚をするわけです。
 そうすることで、女性はナーヤル社会の中で一人前に扱われるようになります。
 その後、儀礼的な夫とは別に、複数の男性を通い婚の夫として迎えることができます。
 通い婚の夫は、夜に女性の家に行き、朝には帰るという関係を築きます。

 そこで子どもが生まれると、その子どもは女性の家、つまり母親の家に属し育てられます。

 おもしろいのは、その子どもを教育あるいは扶養する義務を負うのは、その女性の家にいる男性、つまり母親である女性の兄弟なのです。
 儀礼的な夫、通い婚の夫は一切そうした義務をもちません。
 それどころか、権利さえないのです。例えば通い婚の夫が、血のつながった自分の子どもにおこずかいをあげたりプレゼントをしたりすることはできません。
 なぜなら、その夫がもつ財産はすべて、夫の姉妹の家族が握っており、姉妹の子どもを育てるために使われるべきだからです。

 日本とはまったく異なる特徴的な家族形態ですね。
 いわゆる嫉妬心などが起こらないのか、それとも解消できる何ががあるのかが気になりました。
 しかし、ナーヤルの家族形態がインドにおける民法にそぐわないという実態から、現在ではこうした家族のかたちは減ってきているそうです。

 ▼ヌアー社会の幽霊婚

 2つ目は、アフリカは南スーダン共和国のヌアー族です。

 彼らの結婚は、男性から女性へ牛を贈ることにより成立します。しかも、とても驚いたのは、例えば未婚のまま亡くなってしまった男性でも、その男性の代わりに家族から女性に牛が贈られれば、結婚が成り立ってしまうということです。
 つまり、その女性は亡くなった男性(以下「死亡夫」)と結婚するわけです。これを幽霊婚と言うそうです。
 そして、結婚後にこの女性が他の男性との間に子どもをもうけた場合、その子どもは死亡夫の正式な子どもとして、死亡夫の家族に属します。
 こちらも日本の一般的な家族観とはまったく違う社会です。
 生まれてきた子どもは、死亡している父と生物的父の存在をどのように捉えるのでしょうか。
 やはり、心の面がきになってしまいます。

 ▼ミクロネシア・ヤップ島の親子関係

 そして最後、3つ目はミクロネシア連邦のヤップ島というところです。

 ヤップ島の家族は父方の家系が軸となり、タビナウと呼ばれる土地や家がとても重要視されます。
 また、子どもは、父方の先祖の霊、すなわち精霊のはたらきによって母の体内に宿ると考えられています。
 なんだか「こうのとり」を思い浮かべてしまいます。
 母と子は「出産」によって親子というつながりを築きますが、父と子は同じ精霊のもとに生まれたという考え方によってつながっています。
 子どもが育つ過程で、いかに父親に従順に尽くすことができるかによって親子関係を築き、またタビナウを相続していくのです。

https://secure.en.ritsumei.ac.jp/psy/〕