カラス

カラスと共に生き物の世界を覗き見る

家族愛3

2006-07-06 05:45:50 | 行動

 毎年カラスの巣立ちには様々なドラマがある。今年も例外ではない。しかし今年の場合はいつものドラマとは違い、人の手による作られたドラマという有り難くない状況だったのである。この記事を書く事をずっと悩んでいた。理由は「証拠」がないからである。私自身がこの目でしっかりと現場を見た訳でもないし、あくまでも人からの証言とカラスの行動から判断したものである。しかし私は確信している。

 今年のカラス達はいつもと少し様子が違っており、今まで巣立ち前から攻撃態勢に入る事がなかった。しかし今年は3番が巣立ち前から攻撃態勢になっていた。「一体どうしたのだろう?」と思いつつも様子を見ているしかなかった。

 6月1日の事である。巣立ちにはまだ早いボソの雛が巣の下に落ちていた。最初見つけた時は死んでいるものと思い亡き骸を回収しようと掴んだ瞬間、雛は大きな口を開けて鳴いたのである。その姿を見て正直いって私はとても驚いた。生きている事に驚いた訳ではない。雛に外傷は見られなかったのだが、頭を強く打ってしまったのだろう。神経をやられてしまい首が曲がってしまっていたのである。立たせようと思っても首が曲がっているので直に転んでしまうのである。親は上で狂ったように泣き叫んでいた。「保護しようか?」と考えたのだが、親の事を考えると目の前で誘拐してしまう事になる。結局雛を人目に付かない茂みへ移動させる事にした。後は親が面倒を見てくれる事を信じて・・・・・。

 親はすぐさま雛の元へ降り立ち様子を伺っていた。私もそのまま様子を見る事にした。気を落ち着かせて巣の様子を見てみたら巣材の一部が垂れ下がっていて、下にはテニスボールが落ちていた。この日テニスはやっていなかったし、テニスボールがこんな目立つところにいつまでもある事自体考えられない。私の脳裏には「誰かが巣を目掛けてテニスボールを投げ付けたのでは?」という考えが浮かんでしまった。朝巣を見た時はなんの異常もなく、もちろんテニスボールなんて落ちていなかった。「巣にボールを当てるなんて無理だろう?」と思うかも知れない。しかしこのボソの巣は低い位置にあり、丸見え状態だった。何度か投げ付けているうちに、雛に当たれば驚いて巣から飛び出てしまっても不思議はないのである。

 私は毎日雛の様子を見続けていた。しかし雛に近寄る事は決してしてはいけないと思った。親に余計な神経を使わせる事になるからだ。雛の姿は茂みにすっかりと隠れていたので他の人に気付かれる事はないだろう。仮に見付かっても親が激しく威嚇鳴きをするので安心である。雛の姿は見えずともおねだりの声が聞こえているうちは安心だった。
 
 数日が経過してある人から「数人の人がカラスの巣のある木を棒で叩いているのを見た。理由を聞いたら”カラスはカモの雛を食べる悪い鳥だから退治しなくてはいけない”と言っていた」と言うではないか!!そう考えると巣立ち前から攻撃態勢に入っていた番や「家族愛2」で死んでしまった雛も人による攻撃が発端だったのかも知れない。叩かれていた木と「家族愛2」で死んでしまったボソの営巣木が一致していた。ここまで聞いてしまったら全てのつじつまがあうではないか!!巣立ち前に木を叩くという行為をずっとやられていたのだとしたら、攻撃的になってしまっていても不思議はない。

 卑劣な行為を行っている人物は察しが付く。しかし何分「証拠」がないし、人からの証言のみである。法律上はどうなのかと言うと「「直接カラスに手を出した訳ではないので違反にはならない」との事だ。絶対に納得が行かない・・・・・。

 正直いってこの雛は数日で息絶えると思っていた。飛ぶ事も歩く事も出来ないカラスが自然界で生き抜いていける事自体あり得ないのだ。雛は毎日親から給餌をしてもらい、親も雛の側を片時も離れる事はなかった。人が近付くと威嚇鳴きをして追い払っていた。しかし低空飛行や蹴りを入れる事は全くなかった。時々ネコが歩いていると声が出なくなってしまうのではないか?と思う程鳴き叫び追い払おうと奮闘していた。地面で動けない雛をネコが捕食する可能性は高いだろう。しかしこのネコは雛の存在に気が付かなかったようである。このボソ自体非常に大人しく、毎年営巣している事自体気が付かれていないのである。

 7月に入ったある日の事、前日から雛の声が聞こえなかったので気になっていた。しかし親は相変わらずしっかりと見張っていたし、雛の所へ降り立っていた。通常なら巣立って一ヶ月も経過したら家族で遠出を始める時期でもある。しかしこの家族にそれは出来ない。私は雛の様子を見ようと決心して茂みへと近付いた。親は見てはいたのだが反応はなかった。不思議に思ったのだが、足元の茂みには変わり果てた雛の姿が横たわっていた。雛は息絶えてしまったのである。首は曲がったままだった。翼は最初掴んだ時より生え揃っていて、十分に飛べる翼だった。可愛そうに、この雛は一度も飛ぶ事なく、息絶えてしまったのである。

 亡き骸を埋葬しようと思い掴んだ瞬間、親は激しく威嚇鳴きをしてきた。たとえ死んでしまっていてもこのボソにとってはかけがえのないたった1羽の雛だ。当たり前の反応なのかも知れない。この雛は飛んだり、跳ねたりする事は出来なかったのだが、親の献身的な愛情を受けて幸せだったのかも知れない。卑劣な行為をした人物はこの雛がどうなってしまったのかなんて考えてもいないだろうし、すっかり忘れているかも知れない。恐ろしい事である。

 親のけな気な姿を見ていると悲しくなると共にカラスの愛情深さが身に染みてくる思いだった。親は雛の亡き骸がなくなった事を理解したのかいつもの生活に戻ってきた。雛と親は約一ヶ月という間、本当に良く頑張ったと思う。「お疲れ様」という言葉と一緒に「素晴らしい家族愛を見せてくれてありがとう」と言ってあげる事にした。

画像:ハシボソガラス(茂みの雛を見張る)

コメント (6)
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