カラスの巣立ちのピークを迎えている今日この頃であるが、巣の撤去や雛の捕獲も目立ってきた。先日自宅近くのブトに悲劇が起こってしまった。知り合いから「カラスの雛が駐車場にいて親が人を威嚇している。どうしたら良い?」と連絡が入った。公園のカラスの事もあり、すぐには見に行けなかったのが様子を見て現場に向かった。
場所は公園から5分ほどのとあるスーパーだ。到着するまでもなくブトの低空飛行が見えていた。急ぎ足で駐車場の方へ行くと、既に警察官がいて通行人を誘導していた。「また、これか・・・・・」と半分呆れ顔で見ていた私の目に警察官が手にしていたある物がクローズアップされた。それはカラスが入るくらいのダンボール箱であった。
私は警察官が雛を捕獲するつもりなのだろうと思いつつ、ちゃんと確かめる事にした。警察官を呼び止めて「雛を捕獲するつもりですか?捕獲許可は取りましたか?たとえ警察でも捕獲許可がないと違法になりますよ!!」と言ってみた。すると警察官は「いいえ、我々は捕獲に来た訳ではありません。カラスが暴れていると通報があり駆けつけたのです。このダンボールは頭を守る為です」といって大柄な警察官は自分の頭をガードしていた。はっきり言ってこの光景は笑えるのである。警察官は「スーパーの方で市に連絡をして撤去業者が来ます」と言っていた。雛は捕獲されてしまうのである。
私は車の屋根に止まり不安そうにしている雛とそれを心配している親の気持ちを考えると可愛そうで仕方がなかった。親は威嚇といっても低空飛行をしているに過ぎなかった。雛は運悪く駐車場の車の屋根に止まってしまっただけだろう。買い物客は低空飛行してくるカラスに向かい優しさの欠片もない表情で手を挙げて追い払おうとしていた。「何故いつもこうなんだろうか?」と心底呆れてしまったのである。
警察官の誘導もあり、通行人が避けて通って行ったので親は少し落ち着いていた。雛の側へ行こうとしていたその時、一台の車に向かって猛ダッシュを掛けた。その車は向かいにあるコンビニへ止まった。何の変哲もない乗用車だった。しかし親は2羽で激しく威嚇鳴きをしていた。間もなく中から人降りてきた。その手には巨大な虫取り網と箱がしっかりと握られていた。この人の顔を見ると最近良く遭遇する機会の多いいつもの撤去業者のお兄さんだった。私はこの雛の行き先を確認した。お兄さんはすぐに雛の捕獲に取り掛かった。雛は呆気なく網に入れられてしまい、箱に入れようとした瞬間に逃げ出したのだが、まだ余り飛行力がなかった為地面の降り立ってしまい、再び網に入れられてしまった。
しかしこの時の雛の悲鳴に近い鳴き声と親の必死の抵抗が頭から離れない。本来なら巣のある木へ止まらせてあげると良かったのだろう。しかし巣のある場所も私有地だったので手出しは出来なかった。本当に可愛そうな事になってしまった。しかし雛はこの1羽だけではない。まだ巣の横には巣立った雛がじっとしている。兄弟もこの恐ろしい光景をしっかりと記憶したに違いない。
親の興奮は15分ほどで落ち着き、残りの雛の見張りに入った。意外と気持ちの切り替えが早くて少し驚いてしまった。このブトの巣は公園へ向かう途中にあり巣造りの様子から見ていた。公園のカラスのようにじっくりと見る事じは出来ないのだが、自宅からもはっきりと見えていた。このブトはスーパーが出来る前にあった倉庫の時代から営巣している。当時は倉庫という事と木ももう少しあり、巣立った雛も安心して止まる事が出来ていた。人とのトラブルもほとんどなかったのである。
しかしスーパーが出来てからは、巣を近くの会社の木に造るようになった。この会社の人達も巣を撤去する事はなかった。しかし雛が安心して止まっていられる場所がなく、いつも歩道に下りてしまい人とのトラブルが絶えなかった。私も最後まで様子を見る事が出来なかったので、雛がどうなっていたのかは全く把握出来ていなかった。しかし今日の反応を見ていると、確実に業者の人を記憶していた事になる。過去にも経験があるのかも知れないし、前回の記事のように「連鎖反応」なのかも知れない。
今回のような悲劇は頻繁に起こっているのだろう。この雛は運が悪すぎたのと、人の理解不足が原因で親から離されてしまったのだ。人のほんの少しの気持ちの余裕と優しささえあれば、このような悲劇は起こらなかったのだろう。実に悲しい事である。その後親は残りの雛を地面に下ろす事なく電線で給餌をしている。人が下にいても鳴き声すら出さない。凄い事である。通常ならこの距離だったら威嚇鳴きくらいは行っていた。雛の捕獲という悲しい経験がそうさせているのだろうか?こうして記事を書いている時も親の見張っている姿がちゃんと見えている。悲しみに打ち勝ち、残りの雛を無事に独り立ちさせて欲しいと願うばかりである。
この一家のその後の暮らしぶりは『巣立ち4:追記』をご覧下さい。