デモはメディアである

　４月10日の全国各地のデモ、とりわけ高円寺デモについて、OurPlanet-TVに「デモカルチャーへ注目集まる」という記事を掲載されていた。その中で、このデモの「賛否」について触れている箇所がある。

ツイッター上では、デモ映像へのリンクが多数RTされ、「トリはだたった」「捨てたもんじゃない」「次は参加したい」などのツイートが流れた一方で、「近所迷惑」といった批判も噴出。選挙で原発推進派の石原慎太郎氏をはじめ、全国各地で現職の原発推進派の知事が当選したこともあり、「意味がない」という声も出ている。

　およそツイッターで中身のある議論は不可能だ。そういうことに向いているメディアとは思えない。だから、ここは一つ別の場所で、高円寺デモの参加者の一人としてもバトンを受けて話をしておく必要がある、と感じた（本当はそんな面倒なことはしたくないんだけど、やっぱりイライラ、気になるので）。

　まずここでのデモに対する批判－１.近所迷惑、２.意味がない、は、共に今回に限ったことでなく、何かのデモがあると必ず金魚の糞のようにくっついてくる古典的な言いがかりであることを確認しよう。

　１.「近所迷惑」について。
　たとえばデモ隊が緊急車両の通行を妨げたとか、歩道を歩いている老人を転ばせたとか、そんなことがあったらこれは「迷惑」を通り越して「（過失であっても）加害行為」である。だが僕が知る限り、そんな被害は一切出ていない。参加者には小さな子供の手を引いていたお母さんもいるし、飼い犬を乗せたベビーカーを押していた人もいるし、目の不自由な友人と手をつないでいた人もいる。一部の荒々しさとは裏腹に、大部分は細かい配慮のできる大人たちによる理性的なデモだった。感情をパフォーマンスで表現する人はいても、暴力に転化する人はいない。警察と衝突する人もいなかった。15000人も参加して、警察も数が足りなくて焦っていただろうに、深刻なトラブルはなかったのである。
　はっきり言って、こんな平和なデモで「迷惑」を感じるなんて、何かの悪意に凝り固まっているどうしようもない人だとしか、「想定」できない。
　またデモは言うまでもなく、選挙権や被選挙権と同じく、市民の権利である。デモよりはるかに多い頻度で住宅街を駆け抜ける選挙カーや、パチンコ屋とかスーパーの宣伝カー、道路工事による通行障害の迷惑など、都市に暮らしていると普通に受けることの多いうざさに比べて、ごくたまにあるお祭りみたいなデモの方を敵視するというのは、かなり不自然なものを感じる。
　さらに、この国の成立以来の、未曾有の危機の只中で、デモの現場・東京にも放射能が到達しているというこの状況の中で、まだ「近所迷惑」などというセコい観念を持ち出せる無神経ぶりも、文明人の基準に照らして信じがたい。また放射能の迷惑のことは抗議せず、デモ隊に対しては抗議するというのは、生命体としての危機管理能力が低いと言わざるを得ない。
　よって、そんなこと言うやつあ問題外、ということでいいと思う。

　２.「意味がない」について。
　デモが何かの目的に対して「意味がない」と言い出す人は、与えられた「選挙権」などを使って投票に行き、それによって自分は社会に参加しているという大いなる錯覚を堅持している人が多い。投票箱に紙を落とした瞬間から、政治的決定からひたすら疎外されていく現実を感じないままに。いや、感じないふりをし続けて。
　デモに行く人は、デモで簡単に世の中が変わるなどと、まったく思っていない。デモをしたら何かが急に改善した、などという歴史は少なくともこの国にはない。そのくらいの常識は持っているのである。
　たいていの人が認識しているのは、デモはせいぜいが、いろいろある手段のうちの一つということである。何か一つでうまくいくはずがないから、いろいろ合わせてやっていけばいい・やっていくしかない、そう思っている。
　そうした手段の中で、デモが優れている点の一つは、ガンジーの言葉（上記OurPlanet-TVのページ内、「はじめてのデモ」参照）にあるように、「あなたが世界を変えるためには無意味でも、あなたが世界によって変えられないために」意味がある、ということだろう。変えられないあなたが、テキストや電波の上でなく、具体的な生身の肉体とともにそこにあることを示す。それができるのがデモであり、あなたがそこにいることで、あなた自身がメディアである。デモはそういう意味で一つのメディアとしての意味がある。

　たとえばこのデモが「石原当選阻止」をメインに掲げたものだとしたら、少しは票数に影響を与えたとしても、総じて狙いは失敗した、ことになるだろう。しかしそれでも、石原くそくらえと思うあなたがあなたであるために、あなたはそこにいることに意味があったし、それが社会に何かを感じさせる・考えさせるメッセージとして伝わったはずだ。
　まして、このデモは脱原発社会につなげていくためのデモであって、特定の政治家をこき下ろして溜飲を下げるためのものではない。
　さらにまして、このデモの主催者、そして賛同者、参加者の多くは、選挙や党派活動で日本が変わる、などという幻想からはとっくに切れている人たちだろうと、僕は推測する。そのような従来の「政治」には期待しない人達だけに、石原が当選したことなど「へっ、やっぱりかあ」という以上の感想など持たないだろう。

　私達は震災ファシズムの入り口に立っている。そして、強大なエネルギーが強大な国家の基礎であるという、幻想のパラダイムからの転換点に立っている。
　そうした中で、高円寺デモというメディアが示したのは、石原などというちっぽけな毒虫に対するアンチではなくて、もっと大きな意思表示だった。それは、3.11以来この国を覆い尽くす「がんばろう日本」式の掛け声に対して、その日本とはどの日本のことなのか──これまでどおりの日本の復興であるなら、私達はごめんこうむる、という意思表示だった。私たちがほしいのは過去ではなく、未来の日本だと。──参加者の一人として、僕はそう受け止めている。