弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

バリケン参上

2008年05月01日 | 環境と文明
 近所の散策──といっても僕は自転車をよく使うから、行動半径はそれなりに広いのだが──をしていると、もう長らく住んでいる地元でありながら、思いもよらぬ発見をすることがしばしばある。
 とくに最近、生活圏内の野鳥の存在に心惹かれるようになった者としては、見慣れた風景がかなり新鮮に見えることがある。そこで鳥達が生活を営めるということが、ちょっと大げさに言えば驚異に思えてくる。具体的には、しばしば通りがかる川で、コサギが器用に小魚を捕まえて食べるシーンに遭遇したり、近所の土手でカワセミを見たり、なんていうエピソードが重なってそういう感想が生まれるのだが。

 しかしこのたびは、その延長上で、一味違うものに出会った。
 バリケンという鳥をご存知だろうか。元々は中南米にいるノバリケンというカモの一種を、家禽化したものだという。日本でも食用として輸入されたが、一部逃げ出したり、捨てられたりして半野生化しているものが全国各所で報告されている。──なんて話は全く知らなかったのに、そのバリケンに出会ってしまったのである。

 それは八国山緑地という、『となりのトトロ』の舞台のモデルになった場所に程近い、埼玉と東京の境のあたりの住宅街である。そこに金網に囲まれた、小学校の校庭くらいの広さの池がある。名称が書いてある看板が見当たらないので詳細がわからないのだけど、処理した下水と雨水を一緒にして溜めておくような、下水道関連の貯留池の一つだと思う。(雨水を貯めておく“調整池”であることが判明。下コメント欄参照)
 以前にも通りかかったことがあるのだけど、その時はカモが泳いでいるのに気づいたくらいで、そもそも鳥にさほどの興味がなかったので、何とも思わず通り過ぎた。しかし先日は、よくよく見てみると、中に浮かんでいる2つの浮島のようなもの(ビール瓶のケースを束ねて周りを囲んだ、人工的なもの。用途は不明だが・・・)の片方に、見たこともない不気味な色合いの鳥が2羽、羽を休めているのに気がついた。
 すぐそばを泳いでいるマガモより、一回り大きい。何より、その色合いの異様さ──1羽は白い頭部に黒い胸、翼に目立つ深緑、その三色が整然と色分けされているならまだしも、いい加減なタッチで塗り分けられているような印象で、おまけに目の周りからくちばしまで赤い皮膚が露出している。もう1羽はもっと醜く、黒白まだらに同じく深緑の翼、目の周りはタールでも塗られたように黒く、水かきのついた足もいやらしいまでに黒い。鳥というよりも、ゴミ山に転がっている折れた傘やゴム長靴を(悪いけど)連想してしまう。廃棄物で作られた浮島の上などにいるから、ますますそんな感じがしてしまったのだろうけど。

 少なくとも日本の山野の風景の中には存在しないような、そういう意味での「不自然な」カラーリングだ。同じ池にマガモやコガモなどもいたのだが、それら自然の水鳥と比べて、明らかに異質なたたずまいである。動きとかどうとかでなく、ただ「色」からだけでも、それが伝わってくる。逆に言えば自然界の生き物なら、それがどんなに極彩色で派手であっても「自然だ」と受容される、一定の感覚的法則のようなものが人間の中にある。問題の2羽は、その法則から明らかに外れていた。
 それゆえ「人工的な」生き物ではないか、という直感を持った。たとえば、ガチョウやアヒルの「失敗作」「できそこない」ではないか、と。
 色合いがマズイからというくらいで「失敗作」呼ばわりするのは、ある種偏見かも知れない。その問題はさておき、なぜそんな彼らがこの池にいるのか?というあたりを考えると、「失敗作」だったことがもしや関係しているのでは、という連想が僕の中では働いてしまうのだった。つまり、失敗作ゆえに捨てられた──もしくは殺されそうになって逃げてきた、のような。

 よくSFマンガなどで、はからずも超能力を持った主人公が社会から追放され、弾圧される、という筋の話を読んだ。
 超能力を持っているということ、それ自体が社会にとって脅威である場合もあれば、社会が開発しようとしたのは別の能力の持ち主だったから、みたいな場合もある。どちらの場合にしろ、社会の側から見て、主人公たちは「失敗作」なのである。
 主人公の彼または彼女は、同じように弾圧を受け地下に潜った同類・同志達に出会い、団結し、元いた世界と対決する。さらにその対決の先に、和解と調和の道を追及する。そのために、結局は自分の身を犠牲に供することになる。そんな物語も多い。また、しばしば主人公には同じように弾圧をくぐり抜けてきた異端者の恋人がいて、二人は運命を共にする、とか。
 浮島の上の謎の2羽を見ながら、僕はそんなストーリーを連想してしまった。もちろん超能力云々は関係なく、ただ彼らが人間の手によって生み出されながら、人間によって化け物扱いされて居場所を失った、フランケンシュタインのような存在のように見えて・・・・正直、かなり後味が悪い気分だったのである。実は水上でバシャバシャと交尾(たぶん)をくり広げている姿も偶然見てしまい、それもなんだか化け物じみた、微笑ましくも何ともない印象のものだった(黒い方が雄らしい──白い方に乗っかっていたから。それにしても何も水上でやらんでも・・・)。

 家に戻ってからも、あの2羽のことが頭から離れない。インターネットの野鳥図鑑などでくまなく探したのだが、少なくとも日本の野鳥に該当するものはいない。かといって「家禽」の類でも、ポピュラーなニワトリ・ガチョウ・アヒルなどの近縁にはドンピシャのものが出てこない。
 それが一昨日、ようやく「バリケン」という言葉が目にとまって(「ガチョウは飛べないが、バリケンはそこそこ飛行できる」のようなフレーズから)、自分が見たものがその“バリケン”だったことを探り当てた。和歌山県立自然博物館のQ&Aのページに、各地からの報告が載っている(僕も報告を送った──4/30)。

 胸のつかえが取れると同時に、ただグロテスクな印象ばかりが先に立っていたこの鳥に対する見方もずいぶん変わった。
 今日は写真を撮りに行ってきた。やっぱり美しいとは到底思えないが、のんびりとした、人を警戒しない様子は、野鳥の中にあっては「異質」でも、彼らの生い立ちを考えれば「自然」なことであり、「異質」呼ばわりする資格は人間にはないのだ、ということがしみじみわかってきた。
 捨てられたにしろ逃げて来たにしろ、「本来の居場所」が食肉工場だったことを思えば、この貯留池での生活は彼らにとって気楽な隠居生活みたいなものなのかも知れない。ただそれにしても、汚水の流れ込み口で夫婦そろって佇んでいる姿は、どうにも遣る瀬なかった。本人達にしてみれば「なんで?わたしら普通ですけど」って感じなんだろうけど。僕はまた、A・ワイダの映画『地下水道』の終わり近く、地下水道を逃げてきたレジスタンスの恋人同士が鉄柵の行き止まりの前で万事休すシーンを連想してしまった。私達はここで終わるのよ、みたいな。
 行こうと思えばこんな金網など飛び越えて行けるのに、逆に人間の目の届くところ以外に行こうとしない、そういう習性になってしまっているのかも知れない。スズメやカラスのように、都合のいい部分だけ人間を当てにする、という器用な(だけどそれはそれで必死な)生き方はできないんだろう。
 ただ、この池で子供のバリケンが生まれたら、その子供は繁殖相手を探すために外の世界へ飛び出さざるを得なくなる。だが、どこをどうやって探すんだ?──それで言うなら、そもそも今の番いのバリケン同士はどこでどうやって出会ったのか。バリケンという名前は分かっても、相変わらずそれ以外は謎のままなのだった。

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
遊水池 (所沢の人)
2008-05-02 02:09:42
こんばんは。

件の池はおそらく松ヶ丘の調整池だと思います。水鳥で昔から有名らしいですね。西武鉄道が配っている狭山丘陵の冊子には遊水池と書かれています。

前回の散策で八国山に行く前にちらっと寄りましたが、土手がないので営巣地にはならないみたいですね。でも水鳥が多いということは餌場として成り立っているということなのでしょう。

夜遅いので簡単に・・・。
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松ヶ丘調整池 (レイランダー)
2008-05-02 12:33:20
松ヶ丘調整池

所沢の人さん、いつもありがとうございます。
調べてみたらありました。
http://www5e.biglobe.ne.jp/~ootaka/hachikoku1.htm
↑こちらのページ、真ん中より少し下くらいに出てきます。
ここの記録は2003年頃らしいので、バリケンはいなくて、代わりにカワウが牛耳ってた時期だったようです。カワウの「糞害」が話題になってた頃ですかね。
水鳥で結構有名だったんですね。確かに僕が最初にバリケンを見た時にも、片方の浮島(正確には“いかだ”らしいですが)にコサギとアオサギが乗っていました(コサギは僕の上の写真でも、左のいかだに写っています。気づいたかな?)。ただ、サギたちにとっては、餌場というより一時休息所のようなものでしょうね。

別の人の記録では、これはたぶんもっと最近だと思うんですが、3羽のバリケンがいて、うち2羽は僕が見たのと同一のようです。
http://ahia.hp.infoseek.co.jp/place.matsugaoka.htm
この頃は普通のアヒルもいたようです。

さらにこの調整池というのは、地域の雨水を貯めておく(もっぱら洪水対策としての)池で、流れ込んでいるのは汚水とはいっても、下水道処理施設から来るものではないということもわかりました。
金網に付いていた看板に「所沢市下水道部」と書かれていたので、つい下水関連の施設だと思ってしまいました。また何かの資料で、処理水と雨水を同時に貯めて、一定量を越えたら川に放流するための「貯留池」というものがあると読んだことがあるので、その手のものかしらと・・・早合点はいけませんね。情報感謝です。
返信する
続きですが (所沢の人)
2008-05-02 23:49:32
こんばんは。

バリケンとはまた別ですが狭山丘陵って自然が豊富であると同時に外来生物の宝庫になりつつあるのかもしれません。夜多摩湖の自転車道を走っていたら野良猫とアライグマが壮絶な喧嘩をしているところに何度か出くわしたことがあります。バリケンやアライグマならまだ可愛いものですがワニガメなんかが住み着いていたらと考えるとゾッとします。子供たちにとって貴重な遊び場といえる所なので外来生物は捨てて欲しくないと思うところです。

それにしても柳瀬川にカワセミがいるとは知りませんでした。日高市の高麗川で一度だけ目撃したことがありますが、高麗川は柳瀬川と違って清流として有名なところ。それを考えるとやはりビックリです。狭山丘陵の西側(狭山湖の堤や山口観音より西側)は東京都水道局との話し合いによって車両進入が禁止されている地域があるので、カワセミが生息できるだけの環境が保たれているのはそのお陰もあるのかもしれません。

そういえば反社会学講座読んでいただいたそうでありがとうございます(作者でもないのに変かな?)。私はあの本を読んで以来学者や専門家の提示するデータや数字・資料は、営業のお兄さんの話とそれほど変わらないんだよなと思うようになりました。著者の主張の当否はともかく懐疑主義的な考えそのものは純粋すぎるネットウヨやネットサヨの人々に知ってほしいところなんだけどなあと思ってしまいます。ゴー宣だって純粋すぎる人=オウム信者を批判しているのにねえ。
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