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中大杉並高校 音楽部

中央大学杉並高校の部活動のひとつ〈音楽部〉のブログです。

活動内容やスケジュール、受賞実績などをご紹介します。

オリジナル曲への取り組み方

2025-06-19 08:53:03 | 

主に大阪の先生方から「どうやってオリジナル曲に取り組ませているのですか?」という質問をいただき、その話題を起点に、現在自分がどのように部活動に関わっているのかをお伝えするうちに、自分がやっていることが徐々に相対化されてきたような気がします。ですので、そんなことをQ&Aスタイルで言語化してみようと思います。

 
Q)どうやってオリジナル曲に取り組ませているんですか?
A)これについてはご参考にしていただけるようなアンサーをご用意できないのが正直なところです。だって、「先輩が作っているから、自分たちも作るもの」という感じになっていますから。ただ、「オリジナル曲が1曲でも演奏できないなら他校の合同ライブには連れて行かない」という形での動機づけはしています。これはK桐先生のマネです。
 
Q)オリジナルを作ったら、すぐに発表の場があるのですか?
A)本校の場合、合同ライブの機会に困ることはありません。主催すれば多くの学校が「来たい」と言ってくださり、また多くの学校から参加のお誘いをいただいています。お呼ばれする場合「1校4バンドまで。1バンド最大2曲まで。」が、多くの学校のスタンダードです。ですから、複数のバンドを連れていくことが多いですし、私は1バンドのために休日をつぶしたくないので、「複数バンドが参加を希望しなかったら連れて行かない」を条件にしています。特別な事情が無い限り、いつも4バンド以上から手が挙がるため、バランスを取るのが大変です。
 
Q)プロが作った曲に比べたら、圧倒的に見劣りのするものしか作れないのだからモチベーションが湧かない&続かないはず。どうしているんですか?
A)納得いくものを作れるまで、「作っては捨て、作っては捨て…」の繰り返しです。ですから、3年生であっても他人の前で(ある程度)胸を張って演奏できるのは、最新の2~3曲だけです。(入部のときにも、「最初の2年間は楽しくないですよ」ということを伝えています。)
 
Q)だったらなおのこと、最初のうちはオリジナル曲へのモチベーションは湧きませんよね?
A)先輩が皆オリジナル曲を演奏し、合同ライブで魅力的に映る他校のバンドは皆オリジナルを演っているし、各種コンテストイベントでもオリジナルを演らない限り入賞は難しいーーという状況ですから、楽しくなくてもオリジナルに取り組む流れになっています。
 
Q)知らない人が知らない曲を演っているのを聞いて、生徒は楽しいのでしょうか?
A)曲のクオリティと演奏のクオリティによります。下手な子がキーやスケールを無視した曲を演奏していれば、反応は冷ややかです。(もちろん、一生懸命聞くふりはしますが、演者は「自分たちの曲ってビミョーなんだな」ということは、すぐに分かります。)
逆に、カッコイイ曲を高い技術で演奏していれば、フロアはポジティブな反応をします。「自分たちのオリジナル曲が合同ライブやコンテストを通じて有名になり、最終的には他校の軽音楽部員が自分たちの曲をフロアで歌ってくれる」というのが、一つの到達点だと思っています。(それは最高の景色です。)
 
Q)そんなに何度も、同じ人に自分たちの曲を聴いてもらう機会があるものですか?
A)部活の活動状況によります。活発な学校は、あちこちの合同ライブに呼ばれあちこちに出向いていますから、X高校のAというバンドを、Y高校の合同ライブでもZ高校の合同ライブでも見る…なんていうことはたびたび起こることなのです。(それに加えて、ライブハウスや楽器店主催の民間のコンテストでもちょくちょく顔を合わせることになります。)
 
Q)それでもほとんどの曲は、プロの曲のようにはならないですよね。嫌になったりしないんですか?
A)アレンジとしてはなんのひねりもないような曲であっても、歌い方、表情、ステージング、思いの込め方等々によってフロアを沸かせることができるものです。大阪の皆さんに、「東京のバンドは、なんかプロを意識しているような(スカした)ライブをする」と思われているのは、そうした「思いの込め方」や「フロアの湧かせ方」のレファレンスが似ているからかもしれません。私は(東京のバンドがスカして見えるのとは)逆に、大阪のトップレベルの学校さんのステージに「やらされてる感」を感じています。見ている文脈・評価する基準がお互い全然違う、ということですよね。
 
Q)上手い子がいるバンドは良い曲を作ってどんどん注目されて、そうでないバンドはどんどん腐っていく…なんていうことにはならないのでしょうか。
A)少なくとも本校ではそういうことはありません。上手い子がいても良い曲ができるわけではないですし、良い曲ならフロアの心をつかめるわけでもありません。バンドの全員が同じ熱量で同じ方向を向いていて、初めて良いライブになるものですから、結局のところ技術でも知識でもなく、もっとも必要なのはバンドのメンバー内のコミュニケーションであり、ライブの際の演者とフロアのコミュニケーションです。
もちろん、それでも思うようにいかないことも多くありますから、そこを腐らせないようにモティベートするのが顧問の腕の見せ所だと思っています。(別に腐ったところで、顧問の知ったところではないのですが、まあどうせなら楽しくやってほしいですよね。)
 
Q)オリジナル曲の作り方を顧問の先生が教えたりするのですか。
A)私個人は作曲もアレンジもやったことがないですし、胸を張って「演奏できる」と言える楽器もありません。ただ、とっかかりがないと踏み出せないので、「作曲や音楽理論の参考になりそうなYouTube動画を1年生に紹介する機会」を作ったりはしています。演奏テクニックや作詞作曲の理論などを紹介したYouTubeを漁るのは大好きです。部員には「この人、自分でやらないくせに何で詳しいんだろう?」って思われていると思います笑。また、理論的・専門的な説明が必要なときには、コーチに強力してもらっています。(コーチは町の音楽教室の経営者で音大受験の指導などをしている方で、音楽をクラシックの側面からもロックの側面からも語ることのできる人物です。)
 
Q)そうやって、顧問の先生やコーチが部員さんのオリジナル曲の手直しをしているんですね?
A)「手直し」と言われるとかなり語弊があります。顧問とコーチの骨太の方針として、「ダメ出しはするけど提案はしない」というものがあります。特にフレーズの提案やコード進行の提案は厳に謹んでいます。「サビの盛り上がりに欠けるよね」「Bメロでベースの気持ち悪い響きがあるよね」といった指摘はします。また、その指摘の中で、「一般的なセオリー」を紹介することもあります。「それだって、ある種の提案ではないか」と言われればそのとおりなのですが、「部員にアイディアをパクられないようにする」ということに注意をしています(笑)。ですので、「コード進行がこんな風になるともっとかっこよくなるんだけどなあ」と思いながらも、そのままにしてコンテスト等に出演させていることもよくあります。
 
Q)それでも毎年3年生が様々なステージで個性を発揮できている要因はどこにありますか?
A)各バンドが「セルフ・プロデュース」の意識を持って取り組んでいるからだと思います。ですので、だいたい2年の中盤〜終盤あたりで「自分たちのバンドの方向性」に悩むことになります。もちろん我々大人が「あのときのあの感じが良い感じだったじゃない?」とか「今回の曲は、みんなのキャラに合ってるね!」みたいな話はしますから、そういう意味では完全に「大人がプロデュースしていない」とは言い切れないのですが…。ただ、プロデュース業はとても楽しいので、「大人がプロデュースしちゃダメだぞ」と強く意識をしておかないと、生徒自身がプロデュース力を身につける機会を奪うことになってしまいます。
 
Q)では、顧問の先生はオリジナルの制作やアレンジの場には立ち合っていない、ということですか?
A)そのとおりです。特にアレンジの場に立ち会ってしまうと、アイディアを提案したくなってしまうので、いない方が望ましいです。新曲についても、「合同ライブで初めて聞いた」ということがよく起こります。もちろん制作段階で行き詰まることもあるので、そういう場合はバンドのメンバーがコーチに演奏動画を送って、Zoomでコメントをもらったりしています。本人たちは、具体的なアイディアとか方向性を欲してコーチに助けを求めるのですが、たいてい抽象的なことしか言ってもらえないので、基本的に自分たちで考えるしかありません。
一方、東京埼玉神奈川千葉の合同ライブでは、「ライブ終演後に他校の顧問の先生の元へ行って講評をもらう」のが通例化しています。他校の先生から「あの曲のサビのアレンジはなんだかごちゃごちゃして聞こえた」とか「ベースがハイポジションばかり弾いていて、なんだか締まりがない」とか、そういったアドバイスをもらえることもあるので、部員たちはそういうのも参考にしています。(ただし、Aという先生とBという先生が全く逆のことを言うことも多々あるので、結局のところ、自分たちでよく考えなければならないのです。)
 
Q)そうなってくると、部員はデタラメな曲を作ってきたりしないんですか?
A)よくあります。また他校のバンドでもそういう子たちに出会います。セオリー度外視でも自信満々に演奏して、アンサンブルがバッチリ合うことで、「すっごい気持ち悪いけどなんかクセになるな」みたいな子たちもいます。あるいは、自分たちで良い曲が作れずにそのままモチベーションが下がっていく子もいるはずです。高校生バンドに色々教えたい大人はものすごくたくさんいますので、そういう人に部活動単位で(あるいは個人で)頼っている様子も見かけます。本校の場合、年に2回、みんなでオリジナル曲の資料(コード譜や度数、歌詞などが入ったもの)を持ち寄り、コーチといっしょに検討をする機会があります。(画像参照/これはかなりちゃんとしているやつです。ほとんどは手書きで、度数表示もなく、ルーズリーフです。) この会でも、先述の通り大人が提案するようなやり方にならないよう注意を払っています。
 
 
 
また顧問(大舘)は国語科の教員ですので、部員から歌詞について講評を求められれば、画像のようにコメントをすることがあります。歌詞についても同様に、提案はせずに、「この表現では伝わらないのでは?」といった形での「ダメ出し」にとどめています。ただ、歌詞に講評を求められることはめったにありません。(顧問に歌詞を読まれるなんて、ひどく恥ずかしいですもんね!)
 
 
 
Q)大会には実力のあるバンドしか出られないんですよね?
A)連盟主催の公式戦(夏・秋)のうち、夏の大会は1校5バンドまでエントリーできます。(ただし、実力がなければエントリー費を払ってエントリーしても音源審査で落選、ということになってしまいます。)また、準公式的な大会やライブハウス主催・楽器店主催の高校生向けコンテストイベントが数多くあり、そういうものまで含めると、腕試しするをする機会が得られないということはありません。あんまり賞レースに汲々としてほしくはないのですが、今はバンドもお笑いも「賞レースありき」みたいなところがありますよね。生徒は良い賞を獲りたくて鼻息も荒いのですが、顧問が率先してグランプリを目指すようなことはしていません。この部活の中で頑張っていれば、自ずと「それなり」の結果は出るので、そこまでくればあとは時の運だと思っています。顧問やコーチがもっと頑張れば、もっと良い賞が獲れる率は上がるかもしれませんが、我々が頑張るのは筋違いです。普段から「顧問やコーチの言うことを聞いて賞を獲ったって嬉しくないでしょう?」と言い聞かせていますので、その分、なにか賞をいただけたときの達成感は大きいと思います。(そもそも少なくとも3学年でバンド数が10を下回ることはなく、2025年6月現在は16バンドが在籍しています。大人が一つ一つのバンドに手取り足取りかまっている余裕はありません。部員から「練習を見に来てください」と言われることも年に1〜2回あるかどうか…。)
 
Q)連盟主催の夏大会は音源審査なんですね。音源収録はどうしているのですか?
A)本校は極めて特殊なケースだと思いますが、楽器別のレコーディングやミックスダウンの行程を全部部員たちの手で行っています。顧問は基本的な考え方や手順は知っているものの、細かなDAWの知識を持ち合わせませんし、今後も覚えるつもりはありません。近年はiPhoneのGarage Bandで簡易的なレコーディング&ミックスダウンをするケースが多いため、それに適したオーディオインターフェースを買い揃えるなどのサポートはしています。また、毎年オリジナル曲を収録したアルバムを制作していますが、サブスクリプションサービスへの登録(配信登録)は顧問が行っています。(その作業の手前までのデータ取りまとめは生徒の仕事です。)
 
(終わりに)
以上お読みいただいたらお分かりいただけるように、本校としてはオリジナル曲に「取り組ませている」という雰囲気はありません。生徒も「オリジナル曲をやらされている」とは思っていないと思います。「どうしたらオリジナル曲に意欲的に取り組むのか?」の一つの回答は、「カッコいいオリジナル曲に取り組んでいる高校生に出会う」ということに尽きると思います。本校主催の合同ライブにも、たまにコピー曲しか取り組んだことのない学校さんが参加されます。少なくとも本校の合同ライブでコピー曲を演奏する学校(バンド)はマイノリティです。その立場からオリジナル曲をやっているバンドを見れば、とてもクリエイティブなことをやっているように見えるものです。実際に、「中杉の合同ライブに刺激を受けて、ウチの部員もオリジナルを作ろう!と言い出しました」という声を聞くことがあります。その子達がそのモチベーションを継続できるかどうかは、また別の現場でオリジナル曲を演奏するカッコいい高校生バンドに出会えるかどうかにかかっています。そのためには、フットワーク軽く合同ライブに参加しよう!という顧問の先生の存在が不可欠です。「どうせなら一生懸命部活に取り組んでほしい」と思っている顧問の先生を何らかの形でサポートできれば…ということは常に頭の片隅にはおくようにしています。
 
なにかご質問やご意見があれば、odate◎chusugi.jpまでお寄せください。(◎→@に変更してください。)
 

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