中華街ランチ探偵団「酔華」

中華料理店の密集する横浜中華街。最近はなかなかランチに行けないのだが、少しずつ更新していきます。

謎の中華そば バンメン(4) その名前

2018年10月27日 | おいしい横浜

 普通、“ばんめん”と発音したら、それは拌麺(上の写真)のこと。撹拌の「拌」の文字を使っているのだが、それは「汁のない和え麺」という意味だからである。
 しかし、我が横浜には意外な“ばんめん”が存在する。
 それはカタカナで“バンメン”と書く中華そばだ。漢字の場合は“辨麺”、あるいは“弁麺”となる。

 ここでいう“バンメン”とは、和えソバではなくスープがあるタイプ。
 そして容器はラーメンドンブリだったり、冷やし中華で使う深めの皿型だったりする。また具材もまちまちで、なかには玉子でとじているのもある。
 どうやら横浜生まれでありながら、その素性はほとんど明らかにされていない、サンマーメンよりも、もっと謎めいた中華そばのようだ。

 ということで、今回は今まで食べてきた“バンメン”をまとめて統計的に観察してみようと思う。


 このシリーズで登場した店は以下のとおりである。

【実食したお店 17軒】
 No.1 華香亭(中区本郷町)
 No.2 三溪楼(中区上野町)
 No.3 清風楼(中区山下町)
 No.4 玉泉亭(中区伊勢佐木町)
 No.5 奇珍楼(中区麦田町)
 No.6 萬福(中区宮川町)
 No.7 榮濱楼(中区錦町)
 No.8 玉家(中区本牧三之谷)
 No.9 迎賓楼(西区伊勢町)
 No.10 コトブキ亭(南区永楽町)
 No.11 磐来軒高田店(港北区高田西)
 No.12 廣州亭(南区大橋町)
 No.13 宝明楼(神奈川区七島町)
 No.14 翠香園(神奈川区松本町)
 No.15 喜楽(磯子区磯子)
 これらのお店については、まとめて コチラの記事に書いてあるので参考にどうぞ。

 さらに食べ続けて……
 No.16 會星楼(中区野毛町) 
 No.17 ウミガメ食堂(都筑区茅ヶ崎中央)


 以上が実際に食べてきたバンメンであるが、過去にバンメンを提供していたお店がいくつかある。それはお店自体が廃業してしまったり、あるいは営業をしていてもメニューから消えてしまったりというモノだ。

【過去に横浜で提供していた店】9軒
 No.18 泰華楼(中区野毛町)
 No.19 養成軒(中区伊勢佐木町)
 No.20 旭酒楼(中区石川町)
 No.21 ゑびす屋(南区中村町)
 No.22 華楽(南区曙町)
 No.23 福隆(南区井土ヶ谷)
 No.24 末廣(南区三春台)
 No.25 山海亭(西区高島町)
 No.26 おしどりや(西区境之谷)

【横浜以外の都市で提供している店】11軒
・市外で実食した店
 No.27 日栄楼(小田原市)
 No.28 よし町(銀座8丁目)
 No.29 大勝軒(日本橋横山町)


・市外で未食の店
 No.30 鳳月(平塚市錦町)
 No.31 栄龍(横須賀市浦安)
 No.32 ジュー文華(厚木市)
 No.33 大勝軒(中央区日本橋本町)
 No.34 本郷食堂(長野県松本市)
 No.35 驪山(長野県松本市)
 No.36 きよし(長野県駒ヶ根市)
 No.37 大興飯店(茨城県水戸市)

 以上のような分布である。
 全部で37軒であるが、そのうち26軒が横浜の店。全国の70%を占めている。

 それをさらに区別で見ると、中区が圧倒的に多く12軒だ。続いて南区が6軒で西区が3軒。
 中区・南区・西区だけで21軒と横浜市内の80%に達するのである。
 ちなみに南区と西区は戦時中に中区から分区しているので、実質的にはほとんど中区と言っていい。


 横浜市外で提供している店は11軒。そのうち中央区と長野県内が各3軒というのも不思議な分布である。

 
 このような状況から、バンメンはおそらく中区内のどこかの店が発祥地であるということが想像できる。
 そしてそれが横浜市中心部の中華料理店に広まっていったのであろうということ、さらにどこかの店を通じて長野県や東京に伝わったのではないかということも垣間見えてくる。

 しかし、その広がりはかなり限定的だ。横浜のソウルフードともいわれているサンマーメンと比べると、これはかなりマイナーな麺類であることが分かる。
 バンメンの注文を受けた「ゑびすや」のばあさんが作り方を思い出せなかったという話もうなずけるよね。


 そんな謎の麺について、もう少し分析していってみよう。

 まずは、その名前だ。
 文字が判明しているものを調べてみると、最も多いのはバンメン(バン麺)という表示で、34軒中、22軒。
 その他は辨麺(弁麺)と表示しているのが4軒。
 カタカナと漢字を併記している店が6軒。そして意味不明な伴麺という表記が1軒である。

 圧倒的にバンメンの方が多い。
 ということは「バンメン」から「辨麺」に変換されていったのだろうか?
 最初に発音だけがあって、そこに漢字を当てたのか?

 ここで[辨]の字を少し考えてみよう。これの読み方はベンである。 
 バンメンを漢字化するとした場合、[バン]という発音に[辨]の文字を当てるだろうか。なんか無理があるように思えるのだが…
 
 逆に、最初は「辨麺」だったのが、「ビェンミェン」という発音を正しく再現できず、安直な表記で「バンメン」としたとも考えられる。
 どうも、こちらの説の方が有力である…ような気がしないでもない…とも言えないような気がする。

 どちらが先かは、なかなか判定するのが難しいようだ。
 そして問題は表記と発音だけではない。[辨]という文字の字義が気になる。
 
 ウィクショナリーによれば「刀」、「分かつ」、「判(わける)」、「正しいか正しくないかを分ける」、「わきまえる」とある。
 今まで食べてきた辨麺(弁麺)の姿とは結びすかな意味である。
 むしろ、本牧の「喜楽」で出している冷やし系の中華そばの方が、その名前にふさわしい姿のような気がするのだが…


 これが「喜楽」の冷やしうま煮そば。

 ご覧のように麺と具が別々に分けられている。まさに辨麺と言ってもいい容貌なのだ。 


 食べるときは、こうやって冷たい麺の上に温かい具をのせる。
 だが、この店ではこれを辨麺とは名乗っていない。


 はたして辨麺(ビィエンメン)というのは、バンメンの当て字なのか、それとも本来の表記なのか……
 こうなると、バンメンを食べさせる店に行って、根掘り葉掘り聞いてくるしかないようだな。
 
(つづく)

 

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4 コメント

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 (管理人)
2018-11-06 07:17:08
>いその爺さん
たしかに辨も拌も、「分ける」という同じ意味がありますね。
五目うま煮ソバがなぜ、分けるなのか……
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Unknown (いその爺)
2018-11-05 22:43:38
辨と拌の字は古い料理本では同意語として書かれている事があります。ここにご注意くださいませ。
返信する
聚英 (管理人)
2018-10-30 06:45:23
>めりた・グッドボーイさん
最近、辨の字が拌に変っていたとおもいます。
具材もバンメンらしくないですし、これはやはり拌麺のようですね。
一度店主に聞いてみないといけませんが。
返信する
聚英 (めりた・グッドボーイ)
2018-10-29 14:21:52
横浜中華街・肝帝廟通りの「聚英」も蟹肉辨麺 (かに肉あえそば) を出しています。最近は行ってないんで、まだやってるかどうか不明ですが。
ひっくり返してみたら、最後の食べたのは2012年だったらしい・・・
https://merita.jp/nightwings/archive/2012/10/17.html
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