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遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

人よんで鼓道楽

2019年06月28日 | 能楽ー実技

小鼓を習い始めて、20年以上になりました。

つい、あれも、これも、と手を出して、気がついてみればこの有様です(まあ、外の骨董も似たり寄ったりですが(^-^;)。

鼓の店でも開くつもりか、とひやかされそうですが、すべて個人用です。

 

鼓道楽

いわゆる、小鼓の胴です。

大きさは決まっていて、長さ25cm、径10cmです。品物による違いは、数mmしかありません。素材は山桜。重い品ほど、重厚な音が出ます。一般的には、400g代。500g以上、300g以下の品は稀です。

値段のかなりの部分は、蒔絵によります。

時代が古く、かつ、良い蒔絵の施された鼓胴はかなりの価格になります。

 

もう一つ、重要なアイテムは、皮です。

胴に比べて姿形がきれいでないので、ぞんざいに扱われることが多いです。さらに、やぶれやすい、虫が食う、などの理由で、良い皮を求めるのはなかなか難しい。

ある意味では、胴よりも、皮の方が貴重かもしれません。

 

胴と皮を組むと、こんな感じです。

長い間組んだままにしておくのは、皮のためによくないので、鼓を打つとき以外は、胴と皮を外しておきます。

 

私のイッピン 

こんなにもたくさん、小鼓をもっているのですが、使うのは次の鼓胴と皮だけです。

鳴りが良いからです。

蕪蒔絵鼓胴:江戸中期 495g

 

蕪蒔絵は、江戸時代から現代まで、鼓胴に好んで描かれています。蕪は、根(音)が太い、よくな(鳴)る、とかけているのです。

 

胴の内側は、細かな段鉋が施されています。鉋目の入り方が、音色に影響するので、鼓胴を選ぶ時の判断材料になります。

 

 大事なのは、皮(子豚の皮)です。

打ち込めば打ち込むほど、良い音色になります。したがって、新しい皮よりも、長い間使われてきた皮に価値があります。200年、300年前の胴は案外ありますが、程度の良い100年前の皮は希少品なのです

小鼓を始めてから20年以上たって、やっと入手することができた古皮です。

左側の皮(打つ方、表皮)は、プロに修理してもらいました(いくら日本に一人とはいえ、目がくらむほどの金額・・・・トホホ(^-^;)。

右側の皮(打たない方、裏皮)は、元のまま。


おかげで、外周の黒漆、100年以上前と現代との比較が可能になりました。そして、私にとって、長年の課題であった、「漆が透ける」ことの謎解きができたのです。すごく高くついた謎解きではありますが、また、いずれブログで。

 

 組立てると楽器になります。2枚の皮を結んだ紐(縦調べ)とそれに直角に交わる紐(横調べ)が、小鼓の独特の音色をつくりだします。

そのために、縦紐を張るのは非常に繊細です。ミリメートル単位の微調整を繰り返して、やっと、小鼓らしい音がでるようになります。

横調べを掬うようにして、左手で小鼓を持ち、手首を返して、右肩甲骨にあて、右手の中指で表皮を打ちます。

この時、左手の握りの強弱で、音の高低を変えます。能の小鼓では、4種の音を使い分けます。

実際に、小鼓らしい音が出るようになるまでには、習い始めてから、最低、5年ほどかかります。

小鼓の胴や皮は、それぞれに個性があります。実際に、打ってみてるとわかります。

簡単に音が出るけれど、音色がもう一つ、気難しいけれどはまると素晴らしい、等々。

さらに、鼓胴と皮には、相性があります。ピッタリの組み合わせなら、得も言われぬ音色がでます。逆に、そこそこの品なのに、組み合わせてみるとガッカリという場合もあります。なんだか、人間みたいです(^-^;)。

そんな訳で、いつのまにやら、小鼓コレクターになっていました(笑)。


鼓胴のいろいろ

手元にある鼓胴を紹介します。

 蓮葉蒔絵鼓胴:見事な蒔絵の品です。蓮のデザインが流行した明治期の作。

 

 貝尽蒔絵鼓胴:貝や海藻が描かれた品です。江戸後期。505gある重い胴。

 

芭蕉蒔絵鼓胴:大胆な芭蕉のデザインが斬新な品。江戸後期。

 

松葉蒔絵鼓胴:松葉紋で埋め尽くした品。江戸後期。

 

鉄線蒔絵鼓胴:昭和。

 

松鶴蒔絵鼓胴:チープな蒔絵の胴。重さはわずか285g。おもちゃのような品ですが、皮を選べば、不思議にも妙なる音色。


黒無地鼓胴:いわゆる烏胴。江戸初期。

 

骨董品としての鼓

鼓は楽器ですが、骨董品の要素も持っています。

1)まず、美しい。胴の蒔絵はもちろんですが、そのフォルムも洗練されています。落しを入れて、花活けにしてもなかなかのものです。

2)希少価値があります。能管ほどではありませんが、骨董屋さんではたまにしかお目にかかれません。特に時代の遡る品は数が少ない上に、名器が多いので、演奏楽器としての価値も加わります。


ネットオークションでも出品はされるのですが、どう見ても2級品ばかり。これはという品は、半年に1個あるかないか・・・・・・ところが、このところ、ビックリするような名品が、怒涛のように出品されています。世代交代?時代の変化?呉須赤絵みたいなものです。理由は不明ですが、買い時です。

私はどうかって? もう、どうにもなりません(^-^;)


人よんで能管道楽

2019年05月21日 | 能楽ー実技
能管と龍笛

今使っている笛のいろいろです。
全部同じように見えますが、この内、能管ではない物があります。
さあ、どれでしょうか?


                  笛、 笛、 笛



正解は、写真の下部の2本です。


                     龍 笛

この2本は、龍笛です。
龍笛は、能ではなく、雅楽で使われる笛です。
姿形は能管と区別しがたいですが、似て非なる物です。
音程が違います。
吹き方も異なります。
能管では、笛に体をぶつけるようにして吹くのに対して、龍笛の方はずいぶん上品です。



能管とは


                   能管の構造

能管が、龍笛など通常の横笛と異なる理由は、能管の構造にあります。

能管の内には、上図にあるような大きさの竹筒(ノド)が入っています。煤竹をわざわざ切断し、内側にノドを挿入した後、元に戻し、樺を巻いて補強します。大変手間のかかる作業です。
その結果、歌口(吹き穴)から入った息は、筒の中で一度圧縮されます。

結果として、龍笛(リコーダーと同じ西洋音階)とは異なる音程になります。
また、能管特有の大きく、鋭い音が得られます。


龍笛2本をのぞいた残りの5本が能管です。


                     能  管

こんなにあって、どーする?

そこは、コレクター魂、と言いたいところですが、
蒐集癖がしみついてしまった人間の哀しい性。
あれも、これも、となってしまうのです。

能管には、一本一本に個性があります。
簡単に音がでるけれど音色がもう一つ、手強い品だがはまれば凄い、高音はいいが低音がイマイチ、季節や天候で気まぐれ、などなど。
また、自分の技量がすすんでくると、ワンランク上の品が無性に欲しくなります。
そんなわけで、こんなに集まってしまいました(だいぶ整理しましたが)。


私のイッピン

では、これらの中でよりすぐりは?


                                私のイッピン

上の写真の一番下の品、これが私のイッピンです。

前述のように、能管の製作は大変手間がかかるので、龍笛より高価です。
財布の軽さを考えると、由緒正しい品など望むべくもありません(能管に限らず、あらゆる故玩がそうですが)。
そこで、ジャンクすれすれの品に手を出すのです。
一種の賭です。

この品も、何十年と埃をかぶり、ボロボロでした。吹くとかすかに音が。
そこで意を決して、当代一の笛師、田中敏長氏に修復を依頼して、できあがったのがこの能管なのです。

で、具合は?
柔らかいなかに奥深い響きを秘めた、得も言われぬ音色!
しかし、この極太能管、哀しいかな息が続かない。

古稀過ぎの呼気にはキツイ(^^;)。



実際に使用する時は、能管筒とセットで。



能楽笛方は、この状態で、胸元に挿して舞台に立ちます。



また、能管の左端には、頭金と呼ばれる金具(龍笛の場合は、錦布)が、装飾されています。

                              頭 金


        

八割り返し能管

先のイッピンは、私には手ごわすぎるので、今使っているのは、次の品です。




少し、細め。
断面に特徴があります。

いくつかに割れたものを接合してあるように見えます。



これは、八つ割り返しという特殊な製法の能管なのです。

八つに割った竹筒(この場合は九つ)を、裏表ひっくり返して、再度、筒形にしたものを素材にします。
結果として、竹の表面の堅い部分が、能管の内側に来ます。
そのため、能管特有の鋭い音色がさらに増すと言われています。


                  八つ割り返し能管の作り方

能管吹きなら、一度は手にしたい八つ割り返し能管。

使い始めて、半年ほどです。
八割能管の調子も大分上がってきました。

能管道楽も、かなり終盤にさしかかって来たようです。





ようやく、能管、急之舞があがりました

2019年05月19日 | 能楽ー実技
バイカウツギの花が咲きました。




さて、能管の練習ですが、急之舞がやっと終わりました(まだまだ、不十分ですが)。
なんと、二年半。
一曲にこんなに長くかかってしまうとは
自分でも、よく続いたもんだという気がします。

その理由は、指し指です。
指し指とは、能管のメロディー(唱歌)に細かな修飾を施す技法です。

プロの方は、それぞれのやり方で指し指を駆使して、独自の能管演奏をしているのです。
私ごとき素人が恐れ多いのですが、師匠にすすめられ、せっかくの機会ですから、挑戦しました。

もう一つの難題は、急之舞です。
急之舞は、能の舞の中で、最もテンポの速い曲です。
ものすごいスピードで指を動かさねばなりません。
そこへ、さらに、指し指が加わるのですから、もう、人間ワザとはとても思えません。


能と急之舞

急之舞が用いられるのは、主として、道成寺と紅葉狩りです。
どちらも、前場の美しいシテは、後場では、般若の面をつけた鬼女となります。
急之舞は、変身の象徴でもあるのです。


能・道成寺


                門水筆 「道成寺」(前場)
           伊勢門水:1859-1932、狂言師、日本画家。

能・道成寺は、道成寺縁起に書かれた事件から、400年以上後の道成寺が舞台です。
(前場)
いわくありげな白拍子が、女人禁制の道成寺を訪れ、鐘の供養のためといって、舞います。
白眉は乱拍子。
シテの緊張した静寂。長ーい間合いを破る小鼓方の掛け声と鼓の音。そして、さらに続く、異様な緊張と静寂・・・・小鼓とシテとの息詰まるような緊張感の後、突然、急之舞となり、激しいテンポのリズムに変わります。

「♪山寺のや 春の夕暮 来てみれば 入相の鐘に花ぞ散りける  ・・・・・・・・ 思へばこの鐘恨めしやとて  竜頭に手を掛け飛ぶとぞ見えし 引きかづきてぞ失せにける♪」

シテは鐘の中に飛び込む ・・・・・・ 能・道成寺の最大の見せ場です。




         河鍋暁翠画(木版) 「道成寺」(後場)

(後場)
鐘が上がって現れ出でた女は、蛇に変身。
付けているのは般若の面。能装束は、蛇の鱗を象徴する△ウロコ模様。
蛇鬼は、僧たちを打とうとするが、逆に祈り伏せられてしまいます。そして、自身の炎で身を焼き、日高川の深淵へと身を躍らせ、消え入るのでした。


能・紅葉狩り

もう一つの急之舞の能は、紅葉狩りです。
紅葉の山奥、鹿狩りに来た平惟茂一行が通りかかると、紅葉の下で美女たちが酒盛りをしていて、酒宴に誘われます。思わず盃を重ねるうちに、舞を見ながら惟茂は眠ってしまいます。
優雅な中之舞は、突如、激しい急之舞に変わり、女は山中へ消えます(前場)。
後場では、惟茂が目をさますと、鬼神となった女が惟茂を襲います。激しい立ち回りの後、惟茂はこれを打ち据え、退治します。



      河鍋暁翠画(木版) 「紅葉狩り」(前場)



                これは、トランプ。


道成寺では、女の怨みがつのって、蛇になる、鬼になる。この時に、急之舞が舞われます。
紅葉狩りでは、急之舞が美女の本性を暗示しています。紅葉狩りの美女も、源経基の寵愛を受けた後、追放された女(紅葉)が、怨みをつのらせて鬼女となったという紅葉伝説に由来します。
したがって、いずれの能でも、怨念と妄執から鬼となった女を表す般若面が用いられます。



ps. 素人の能管、急之舞です。
    紅葉狩りの急之舞(中之舞から急之舞へ)です。
    よかったら、聞いてみてください。
             https://yahoo.jp/box/dedrvj






能・井筒のエラー皿

2019年05月10日 | 能楽ー実技
能、井筒の皿を揃えてみました。


1.楽焼 謡曲・井筒四方皿
                           12x12cm  大正



井筒、ススキと謡曲の一部が描かれた、楽焼きの四方皿です。



2.粟田焼 井筒 湯呑み
          高4.3cm、径8.3cm   明治~大正







能、井筒(後場)の男装シテと井筒、ススキが描かれた湯呑みです。



3.清水焼 井筒小皿
             径10.7cm  大正~昭和



清水焼 井筒小皿です。

先回の道成寺小皿と同じ手の皿です。
絵付けは平凡で、味わい深い皿とは言えません。

で、今回、あらためてこの皿を見てみました。

能・井筒の前場。
里の女(シテ)と旅僧がやりとりをする場面です。
上部には、はっきりと、「井筒」と書かれています。
そして、作り物の ・・・・・・・・・・  ん?
何かおかしい!

荒涼とした在原寺の秋。風になびくススキが無い!
かわりに、一本の矢、これは・・・・・



               河鍋暁翠 『賀茂』 木版画、明治

上の皿に描かれていたのは、能、賀茂の作り物ではありませんか。


能の作り物を調べてみると


            『能楽具装精華』 昭和8年

この本には、「井筒」と「賀茂」の作り物が隣り合って載っています。
ひょっとして、元絵を描いた人が取り違えた?

いずれにしろ、この品、エラー皿です。

好んで買ってくれる人がいるわけではないし、
エラーコインのようにプレアがつくわけでもない。
いわば、できそこないの品です。

でも、この皿、憎めません。

じっと見ていると・・・・・・
なぜかほほがゆるんで、ホットするのです。




道成寺の皿

2019年05月09日 | 能楽ー実技
能の話が続いたついでに、能関係の工芸品を紹介します。
まず、定番の陶磁器です。

陶磁器の絵付けのなかで、能や謡曲はマイナーです。
骨董市でよく目にするのは、謡曲(特に、高砂)を独特の書体で描いた盃などの九谷焼の陶磁器です。
が、ぞんざいに扱っていたので、行方不明になってしまいました(笑)。

やむなく、手の届く範囲でごそごそ探しまわり、能・道成寺にちなんだ陶磁器の皿を揃えてみました。
その多くは京焼です。


1.吉向焼 謡本・道成寺懐石皿
                                      15.5x20.5cm    明治~昭和


吉向・松月の共箱、謡曲本型長皿10枚(絵違い)のうちの一枚です。
鐘の上に咲いているのは、桜です。

♪春乃夕暮れ来て見れば 入相の鐘に花ぞ散りける♪



さほど古い品ではないのですが、すごいハレーションです。



左下部に、小さく「吉向」の印があります。


2.河合栄忠画、粟田焼 道成寺稜花皿
                         径15cm  大正元年


日本画家、河合英忠が描いた能画皿 10枚の内の一枚です。
  ♪~思へばこの鐘恨めしやとて~

道成寺の見せ所(前場)。女が鐘に入らんとする、緊迫した様子が良く表現されています。
やはり、プロの絵師による絵は、他の皿とはかなり異なります。



3.清水焼 道成寺小皿
            径10.7cm   大正~昭和



皿に能の曲名が書かれているので、わかりやすい皿(道成寺前場)です。が、むしろ、書いてない方が、余韻が感じられます。
清水焼と粟田焼の違いは、はっきりしませんが、やや磁器がかった陶器です。


4.楽焼き 謡曲・道成寺四方皿
                     12x12cm  大正



道成寺、謡曲の本文の一部(前場)と鐘が描かれた楽焼きの四方皿です。
このパターンの桐製四方菓子皿が古くからあるので、それを模した物かもしれません。


5.粟田焼 能・道成寺吸物碗
                    高7.2cm  昭和(戦前)



小型の吸物碗です。五客、共箱のうちの一個です。



蓋を取ると、鐘、般若面、打杖が現れ、女が蛇に変身したことがわかります。


6.粟田焼 道成寺湯呑み
       高4.3cm、径8.3cm  明治~大正





能絵付けの湯呑み 10客(絵違い)のうちの一個です。
道成寺前場のシテ、鐘だけでなく、曲名も描かれています。