遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

人よんで能管道楽

2019年05月21日 | 能楽ー実技
能管と龍笛

今使っている笛のいろいろです。
全部同じように見えますが、この内、能管ではない物があります。
さあ、どれでしょうか?


                  笛、 笛、 笛



正解は、写真の下部の2本です。


                     龍 笛

この2本は、龍笛です。
龍笛は、能ではなく、雅楽で使われる笛です。
姿形は能管と区別しがたいですが、似て非なる物です。
音程が違います。
吹き方も異なります。
能管では、笛に体をぶつけるようにして吹くのに対して、龍笛の方はずいぶん上品です。



能管とは


                   能管の構造

能管が、龍笛など通常の横笛と異なる理由は、能管の構造にあります。

能管の内には、上図にあるような大きさの竹筒(ノド)が入っています。煤竹をわざわざ切断し、内側にノドを挿入した後、元に戻し、樺を巻いて補強します。大変手間のかかる作業です。
その結果、歌口(吹き穴)から入った息は、筒の中で一度圧縮されます。

結果として、龍笛(リコーダーと同じ西洋音階)とは異なる音程になります。
また、能管特有の大きく、鋭い音が得られます。


龍笛2本をのぞいた残りの5本が能管です。


                     能  管

こんなにあって、どーする?

そこは、コレクター魂、と言いたいところですが、
蒐集癖がしみついてしまった人間の哀しい性。
あれも、これも、となってしまうのです。

能管には、一本一本に個性があります。
簡単に音がでるけれど音色がもう一つ、手強い品だがはまれば凄い、高音はいいが低音がイマイチ、季節や天候で気まぐれ、などなど。
また、自分の技量がすすんでくると、ワンランク上の品が無性に欲しくなります。
そんなわけで、こんなに集まってしまいました(だいぶ整理しましたが)。


私のイッピン

では、これらの中でよりすぐりは?


                                私のイッピン

上の写真の一番下の品、これが私のイッピンです。

前述のように、能管の製作は大変手間がかかるので、龍笛より高価です。
財布の軽さを考えると、由緒正しい品など望むべくもありません(能管に限らず、あらゆる故玩がそうですが)。
そこで、ジャンクすれすれの品に手を出すのです。
一種の賭です。

この品も、何十年と埃をかぶり、ボロボロでした。吹くとかすかに音が。
そこで意を決して、当代一の笛師、田中敏長氏に修復を依頼して、できあがったのがこの能管なのです。

で、具合は?
柔らかいなかに奥深い響きを秘めた、得も言われぬ音色!
しかし、この極太能管、哀しいかな息が続かない。

古稀過ぎの呼気にはキツイ(^^;)。



実際に使用する時は、能管筒とセットで。



能楽笛方は、この状態で、胸元に挿して舞台に立ちます。



また、能管の左端には、頭金と呼ばれる金具(龍笛の場合は、錦布)が、装飾されています。

                              頭 金


        

八割り返し能管

先のイッピンは、私には手ごわすぎるので、今使っているのは、次の品です。




少し、細め。
断面に特徴があります。

いくつかに割れたものを接合してあるように見えます。



これは、八つ割り返しという特殊な製法の能管なのです。

八つに割った竹筒(この場合は九つ)を、裏表ひっくり返して、再度、筒形にしたものを素材にします。
結果として、竹の表面の堅い部分が、能管の内側に来ます。
そのため、能管特有の鋭い音色がさらに増すと言われています。


                  八つ割り返し能管の作り方

能管吹きなら、一度は手にしたい八つ割り返し能管。

使い始めて、半年ほどです。
八割能管の調子も大分上がってきました。

能管道楽も、かなり終盤にさしかかって来たようです。




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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
No title (ことじ)
2019-05-21 18:07:00
能管というものなんですね。知りませんでした。
やはり古典芸能に関する楽器は奥が深いですね。
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No title (遅生)
2019-05-21 19:05:00
> ことじさん
コメント、ありがとうございます。
日用品ではないので一般には馴染みは薄いですね。骨董屋で目にすることも稀です。しいていえば、古民具に近い。使いこんでいけばいくほど、味が増します。
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No title (Dr.K)
2019-05-21 19:36:00
単に篠竹に穴を開けて漆を塗った程度なのかなと思いましたら、凄く手間がかかっているんですね(@_@)
これでは高くなりますね。
八つ割り返し能管など、大変な手間ですね。
今でも作っている人はいるんですね。
実用を兼ねた、この能菅のコレクションだけでも大変なものですね。
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No title (遅生)
2019-05-21 19:47:00
> Dr.Kさん
コメント、ありがとうございます。
八つ割り返しなんて、誰が考えたんでしょう。よほどの変人ですね。

大体、わざわざ管を細くするなんて発想が仰天。能管のルーツは大陸由来の龍笛なんでしょうが、諸説あります。その中で、折れた龍笛を修理補強するため、内に別の竹を差し込んでみたという説が妙にリアルです(笑)。
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Unknown (tkgmzt2902)
2019-10-26 22:26:03
八つ割り返し能管、美しいですねー。はじめて知る能管と作り方に日本人の繊細さと技術の高さを見ます。
今頃知ること自体が恥ずかしいですが、文科省はこのような文化を子供の頃に教えないといけないですね。
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tkgmzt2902さんへ (遅生)
2019-10-27 06:31:34
こんなに手間のかかる事、いったい誰が思いついたのでしょうね。八ヶ割能管なぞ、一生に一度出会えるかどうかですから、大事に使います。
政府の美しい日本キャンペーンもあって、何年か前から、能楽師が小中学校へ出向いて演奏する事がなされるようになりました(予算がでる)。
小さい頃に本物に接していれば、可能性が広がります。能の特色は、歌舞伎などと違って、能をたしなむ人たちが観客の多くを占めてきたことです。この関係が崩れると、能の本質がうしなわれ、他の芸能と同じようなものになってしまいます。謡曲人口が激減して、能は今、瀕死の状態です。その点で、こどもたちに期待するところ大です。
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