気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

しずくのこえ 東海林文子 六花書林

2022-10-31 11:00:39 | 歌集
スーパーの袋一つの手応えを提げて帰り来冬枯れの道

「次に生かす気持ちがあれば何一つ無駄なことはない」子は卒業へ

一つの目の緩さに崩れしドイリーをほどく新たに編み出す一目

十字架の見えざる重さ最後まで我も歩いて行かねばならず

「ひとつぶのしずくがなければ海もない」一斉音読窓を震わす

土産店軒下に「津波ここまで」の変色したる張り紙残る

「困った子は困っている子」ぷくぷくのAのほっぺを今日もなでやる

脈拍も呼吸も零(ゼロ)になるからだを父はしずかに脱いでしまえり

教師としてのプール指導終え横たわる水やさしくて深き青空

朝夕に子が住めるあたりをながめては病棟の窓になごむひととき

(東海林文子 しずくのこえ 六花書林)

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短歌人同人の東海林文子の第二歌集。秋田県で小学校教師として勤め上げた日々をまとめた歌集で、自分史としての色が濃い。子供の自活、父親の看取り、自身の退職と病が淡々と描かれる。会話文をうまく取り入れることで歌がいきいきしてくる。人の中で役にたつ人生ということを考えさせられた。

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