気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

昼のコノハズク 小谷博泰 

2015-09-22 00:37:36 | 歌集
裏門の小屋におみくじを売る巫女がいて白い手で吉凶わたす

太鼓橋を渡るとき景色がかわりたり向うから来る少年のわれ

朝まだき靄の向うにうっすらと見えて浄土に咲く水芭蕉

生きるとは死なずあること遠くにてたった一匹のこおろぎが鳴く

黒紅のつばきの花が百の目となって見下ろす日暮れ 駅前

水引の花ゆれている日暮れ道ふとすれちがう顔なき少女

エレベーター揺れてとまりぬ壁をふと押せば向こうは地図になき町

誰もかれも同じ顔して行きちがうもはや私はどこにでもいる

ふと違う世界が見えた戻るとき車両のドアを一つ間違え

許せない敵を夜中に数えいて七人あたりであいまいになる

(小谷博泰 昼のコノハズク いりの舎)

***********************************

小谷博泰の第八歌集『昼のコノハズク』を読む。

小谷さんは白珠、鱧と水仙の同人。あとがきによれば、2012年3月に退職してから、どんどん歌ができるとのこと。ペースがやや落ちたものの、歌集を編むほどの歌数が溜まったので、この度の上梓となった。羨ましい限りである。
歌は、シンプルで読みやすい。私が興味をひかれたのは、異次元に誘われるような歌。日常生活のなかで、ふと出合う異界のようなものが、歌に立ち現れる。理屈では説明できない不思議な出来事が詠われている。こわい。そこがこの作者の魅力かと感じた。


最新の画像もっと見る