裏門の小屋におみくじを売る巫女がいて白い手で吉凶わたす
太鼓橋を渡るとき景色がかわりたり向うから来る少年のわれ
朝まだき靄の向うにうっすらと見えて浄土に咲く水芭蕉
生きるとは死なずあること遠くにてたった一匹のこおろぎが鳴く
黒紅のつばきの花が百の目となって見下ろす日暮れ 駅前
水引の花ゆれている日暮れ道ふとすれちがう顔なき少女
エレベーター揺れてとまりぬ壁をふと押せば向こうは地図になき町
誰もかれも同じ顔して行きちがうもはや私はどこにでもいる
ふと違う世界が見えた戻るとき車両のドアを一つ間違え
許せない敵を夜中に数えいて七人あたりであいまいになる
(小谷博泰 昼のコノハズク いりの舎)
***********************************
小谷博泰の第八歌集『昼のコノハズク』を読む。
小谷さんは白珠、鱧と水仙の同人。あとがきによれば、2012年3月に退職してから、どんどん歌ができるとのこと。ペースがやや落ちたものの、歌集を編むほどの歌数が溜まったので、この度の上梓となった。羨ましい限りである。
歌は、シンプルで読みやすい。私が興味をひかれたのは、異次元に誘われるような歌。日常生活のなかで、ふと出合う異界のようなものが、歌に立ち現れる。理屈では説明できない不思議な出来事が詠われている。こわい。そこがこの作者の魅力かと感じた。
太鼓橋を渡るとき景色がかわりたり向うから来る少年のわれ
朝まだき靄の向うにうっすらと見えて浄土に咲く水芭蕉
生きるとは死なずあること遠くにてたった一匹のこおろぎが鳴く
黒紅のつばきの花が百の目となって見下ろす日暮れ 駅前
水引の花ゆれている日暮れ道ふとすれちがう顔なき少女
エレベーター揺れてとまりぬ壁をふと押せば向こうは地図になき町
誰もかれも同じ顔して行きちがうもはや私はどこにでもいる
ふと違う世界が見えた戻るとき車両のドアを一つ間違え
許せない敵を夜中に数えいて七人あたりであいまいになる
(小谷博泰 昼のコノハズク いりの舎)
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小谷博泰の第八歌集『昼のコノハズク』を読む。
小谷さんは白珠、鱧と水仙の同人。あとがきによれば、2012年3月に退職してから、どんどん歌ができるとのこと。ペースがやや落ちたものの、歌集を編むほどの歌数が溜まったので、この度の上梓となった。羨ましい限りである。
歌は、シンプルで読みやすい。私が興味をひかれたのは、異次元に誘われるような歌。日常生活のなかで、ふと出合う異界のようなものが、歌に立ち現れる。理屈では説明できない不思議な出来事が詠われている。こわい。そこがこの作者の魅力かと感じた。