気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

Bootleg 土岐友浩 

2015-09-26 14:45:12 | 歌集
言葉にはできないことが多すぎて菜の花の<菜>のあたりに触れる

まるでそこから浮かび上がっているようなお菓子のそれでこそビスケット

アルバイトしているところを少しだけ邪魔して帰っていく冬の雨

靴ひものようななにかが干してある商店街を吹き抜ける風

自転車はさびしい場所に停められるたとえばテトラポッドの陰に

発泡スチロールの箱をしずかにかたむけて魚屋が水を捨てるゆうぐれ

一台をふたりで使うようになるありふれたみずいろの自転車

はい、いいえ、どちらでもない春の野は色づきを深めてゆくばかり

生活というのはわからないけれどあなたと水を分かち合うこと

はてしなくつづく世界の片隅に光のふりそそぐ半夏生

(土岐友浩 Bootleg 書肆侃侃房)

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神楽岡歌会でご一緒している土岐友浩の第一歌集『Bootleg』を読む。

おしゃれなペーパーバックの装丁で、歌は口語新かなで読みやすい。わからないところは何もない。最初軽い印象を受けたが、読むと、しっかり考えた末に選ばれた言葉の選択であり、周到に詠まれていることがわかる。それを感じさせないように作ってある。この何気なさが心地よい。
口語のうたは、助動詞が文語ほどのバリエーションがなくて単調になりがち、とよく言われる。しかし、この歌集は、似た語尾や文体の歌が並ばないように歌の配列に工夫してあり、単調さを感じさせない。また、句跨りのリズムが良く、気分よく読める。従来の57577の定型からリズムがずれることで、読者の時間が程よく停滞して、歌にじっくり向き合うことができた。
相聞が多いことも、若々しさや爽やかさを押し出している。広い世代に読まれることで、短歌そのものが活性化されることへの期待を感じた。


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