気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

それから それから  間ルリ 

2014-10-09 18:03:58 | 歌集
人生はエンドレスな仕事の山と医師はカルテを順に崩しゆく

テロ現場に鉄柱いまだ高く立ち夜々天界へと昇る人あらむ

事務室の眠る夜半も異国よりファックスは長い白い舌をだす

ニューヨークの夢はもう見ぬ東京の粉塵に靴を埋むべく歩く

「さよなら」は死ぬ時に言うよと子は笑う少年君(きみ)に残された時間

歩む道は息子とわたしに違いあり秒針どどどと傾き進む

夏の庭に自由なようで自由でない母と子の像ヘンリー・ムーアの

死んでしまった夫に逢いに行くために夢の中にてストッキングはく

石を投げ石が消えゆくところまで歩いてみよう それから それから

沈黙は万の音より重たしと休止符の箇所みつめておりぬ

(間ルリ それから それから ながらみ書房)

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短歌人の歌友、間ルリさんの第一歌集『それから それから』を読む。

ルリさんは私より数年若く、明るいさっぱりした性格の方。パートナーを亡くされたとは聞いていたが、暗さは微塵もなく気にしたことはなかった。
このたび上梓された歌集で、彼女のさまざま面を知った気がする。

ニューヨークのテロを扱った連作は力のある作品だ。また、ご夫君の死、若くしての死を詠う中で、彼が物理学者として渾身のちからで仕事をして来られたことがわかる。
そして、遺された息子さんとの関係はカラリとしているように見える。

歌としては、八首目、九首目が好きだ。九首目は集題にもなり、ルリさんの今後を力強く暗示している。



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