とぷとぷと牛乳そそぐ音をきくフェルメールの絵のまへにたたずみ
開閉式の河馬のジローの口中よりしゆぱッと秋の風ふき出だす
なで肩の太宰治とすれちがふものかげ暗きのみや横丁
財布覗けば諭吉一葉英世がゐる三人そろつて右斜めまへ向き
人差指になごりの咬みあと残しつつ有名な猫あはれ逝きたり
筋肉質の犬あるきくる桃太郎についてゆきしはあんな犬ならむ
うすくうすくなつてぺきんとせつけん割る 死ぬつてこんなことかもしれぬ
小説を書くとは蛇になることぞ 川端康成の眼をおもふ
ウェデキントいひき
うつそみの人をいふものつなわたり型と空中ブランコ型あり
散るさくら見むとレンズを磨きをりガリレオ・ガリレイ四十六歳
(花鳥佰 逃げる! 短歌研究社)
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短歌人の歌友、花鳥佰の第二歌集。ももさんは私とほぼ同年だと思う。お洒落で文化に造詣が深い。芸術家、文学者が歌に登場する。夕食の献立の心配をするような歌はない。かっこいいのである。2019年の短歌人全国集会(松山)の後だったか、カンカン照りの町で一緒に電車に乗ったことが忘れられない。京都で学生時代を過ごされたことなどを聞いたのだった。