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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/27(火)バイエルン国立歌劇場「ロベルト・デヴェリュー」/健在!! グルベローヴァの圧倒的な存在感

2011年09月30日 00時50分57秒 | 劇場でオペラ鑑賞
バイエルン国立歌劇場 日本公演2011『ロベルト・デヴェリュー』
Bayerische Staatsoper in Japan 2011 "Roberto Devereux"


2011年9月27日(火)18:30~ 東京文化会館・大ホール D席 4階 R3列 21番 26,000円
指 揮: フリードリッヒ・ハイダー
管 弦楽: バイエルン国立管弦楽団
合唱: バイエルン国立歌劇場合唱団
演 出: クリストフ・ロイ
美術・衣装: ヘルベルト・ムラウアー
照 明: ラインハルト・トラウプ
合唱指揮: ゼーレン・エックホフ
【出演】
エリザベッタ: エディタ・グルベローヴァ(ソプラノ)
ノッティンガム公爵: デヴィッド・チェッコーニ(バリトン)*
サラ: ソニア・ガナッシ(メゾ・ソプラノ)
ロベルト・デヴェリュー: アレクセイ・ドルゴフ(テノール)*
セシル卿: フランチェスコ・ペトロッツィ(テノール)
グァルティエロ・ローリー卿: スティーヴン・ヒュームズ(バス)
ロベルトの召使: ニコライ・ボルチェフ(バリトン)*
 *印は、当初の発表より変更になったキャスト。

 ボローニャ歌劇場と入れ替わるようにして日本公演が始まったバイエルン国立歌劇場。今日は東京での『ロベルト・デヴェリュー』の初日だ。主演はもちろん、エディタ・グルベローヴァさん。今、世界でこのオペラのエリザベッタ役を歌わせたら、彼女の右に出る者はいない、ようである。3年前の2008年10月、ウィーン国立歌劇場の来日公演の時には全曲がコンサート形式で演奏された。その時も夫君のフリードリッヒ・ハイダーさんの指揮でエリザベッタを歌い、相手役のテノールはホセ・ブロス、サラ役はナディア・クラステヴァ、ノッティンガム公爵はロベルト・フロノターリ(先日のボローニャ歌劇場の日本公演に参加していた)、という豪華な布陣だった。あいにくとその公演には行けなかったので、今回のバイエルン国立歌劇場によるオペラ上演を楽しみにしていた次第である。ただ残念なことに、現在の日本の音楽界の状況通りに、ホセ・ブロスさんの直前キャンセルがあって、やや出演者のランクが下がってしまった、といったらタイトルロールのアレクセイ・ドルゴフさんに失礼であろうか。まずは、観て聴いてみてのことだ。

 今回の『ロベルト・デヴェリュー』は、2004年にバイエルン国立歌劇場で初演されたクリストフ・ロイさんの演出によるプロダクションをそのまま持ち込んだもので、2005年のバイエルンでの公演の模様は映像収録されてDVDになっているし、有料テレビ放送の「クラシカ・ジャパン」でも今月放送されているものだ(指揮者、管弦楽、合唱、エリザベッタ役が今回の来日公演と同じ)。
 本演出は、台本を、いわゆる読み替えにより、物語の舞台設定を現代の企業に置き換えている。女王エリザベッタはビシッとしたスーツに身を包んだ大企業の女社長であり、デヴェリューはアイルランドの支店長、ノッテインガム公爵は会社の重役、夫人のサラは社長秘書といったところか。16世紀から21世紀への思い切った置き換えによって、あまり上演機会の多くないこのオペラに、新しい息吹を芽生えさせた…といっていいだろう。舞台装置も含めて、演出のクオリティは高かったといえる。もちろん、現代演出に関しては賛否が分かれるのは当然といえば当然なので、後は個人のお好み次第で、名演にも駄作にもなってしまうのではあるが…。
 『ロベルト・デヴェリュー』は、いわゆる名作には数えられていない作品で、あまり上演されることのないオペラだ。今回あらためてじっくり聴いてみると、ストーリーの構成が非常にしっかりしており、登場人物たちの感情と行為のすれ違いが悲劇を生み出していく流れが、淀みなくわかりやすい。音楽的にも非常にドラマティックに仕上げられていて、第3幕の最終場面の迫力などには圧倒される。作品としてはとても良くできていると思えるのだが、上演機会が少ないのは、やはり高度な技量を持つ出演者が求められるからなのだろう。超難役のエリザベッタを歌いたがるのはグルベローヴァさんくらいしかいないのだろう。

 さて、まずオーケストラの演奏についてだが、こちらの方はさすがにドイツの名門だけのことはあった。ややくすんだ音色の弦楽アンサンブルは、いかにもドイツ的な緻密さ。加えて金管楽器の安定度も抜群で、落ち着いた音色の木管もまた良い。ピットに入った少ない人数のオーケストラにもかかわらず、瞬発力もあり、ドラマティックな表現力も十分、シンフォニックな響きであった。難を言えば(難ではないか)、ベルカント・オペラの伴奏としては律儀すぎること。もう少し、ほわ~んとした柔らかさがあれば良いのに、と感じたのは、つい先週ボローニャ歌劇場のあまりにもイタリアっぽすぎるオペラを聴いたばかりからだろうか。いずれにしても、やはのこのクラスの歌劇場のオーケストラは文句なしで巧いだけでなく、状況に応じて振れ幅の大きい、オペラならではの演奏を見事にこなすあたりが素晴らしい。
 指揮のハイダーさんは、オーストリア人ながらイタリア・オペラの名手として知られ、とくにベルカント・オペラの権威でもある。夫人のグルベローヴァさんとのコンビで名演を数多く残している。バイエルン国立歌劇場で『ロベルト・デヴェリュー』を復活・初演に導いたのは、このふたりの功績によるところが大きいハイダーさんは確かに、歌手たちとのタイミングも鮮やかに、みごとにオペラを料理していく。メリハリがハッキリしていて、だらけるところがなく、聴いていても飽きさせない。もちろん歌手たちを歌わせること巧みで、安心感というか、安定感があり、完璧な演奏を目指す歴戦の強者といった感じであった。ただ、個人的な感想としては、律儀なドイツ・オペラ風のカッチリとした演奏過ぎて、もう少々、その場のノリを活かした、イタリアっぽい「いいかげんさ」が欲しいような気がした。



 肝心の歌手陣については、もうこのオペラはグルベローヴァさんの一人舞台の様相を呈していた。
 タイトルロールのアレクセイ・ドルゴフさんは、歌唱の方はそつなくこなしているといった印象であったが、演技面では(あるいは見た目の印象として)、女グセの悪い優柔不断な男を好演していたといえる。残念だが、やはりこの役はホセ・ブロスさんで聴きたかった。ノッティンガム公爵役のデヴィッド・チェッコーニさんも代役だが、今ひとつ存在感が薄く、敵役としてのイヤらしさが歌唱にも演技にもあまり感じられなかった。一方で、サラ役のソニア・ガナッシさんはステージ上における存在感はかなりあって、重めのメゾ・ソプラノが苦悩と悲哀をうまく表現していたし、手足を縛られ目隠しをされた状態でステージ上を這って退場するなと、演技面でも熱演だったと思う。
 そして最後にグルベローヴァさんについてだが、もうこの人はご自身の独自の世界を持っている方なので、そこにいるだけで素晴らしい。若い時から変わらない、コロコロと玉がころがるようなコロラトゥーラの歌唱は、彼女の独特の表現手法で、その個性は他の人が真似できることではない。御年●●歳とは思えない、キレイな声、安定した高音域の音程と声量。そして世界中を魅了する圧倒的なコロラトゥーラの技巧。立ち姿もシャンとしていて年齢をあまり感じさせないし、演技にも熱がこもっていて、決して名前だけでその場を仕切っているわけではない。演出の中に見事に溶け込んでいた。その中で、他の歌手たちや合唱団を従えて、ステージ中央で歌う堂々たる姿は、圧倒的な存在感で光り輝いていた。ファンの皆さんにはたまらない今日のオペラであっただろう。私が聴いた感じでは、さすがに肺活量が少々足らなくなっていたようで、長いフレーズで声量を上げられないようだった。しかしそこは世界の超一流のベテランだけに、高音域で瞬間的なクレシェンドを聴かせるなど、テクニックで見事にカバーしていて、1曲歌い終わるたびに、大喝采を浴びていた。やはりグルベローヴァさんは健在、素晴らしいものであった。来年にはウィーン国立歌劇場の来日公演で、『アンナ・ボレーナ』を歌うらしい。こちらも期待値が高まってしまう。またこの後、オーケストラ伴奏のリサイタルもあるので、こちらも楽しみである。

 今回のバイエルン国立歌劇場の『ロベルト・デヴェリュー』は、演出の好みは分かれるとしても、音楽面での完成度は高かったように思う。代役の歌手たちが少々パワー不足だったかもしれないが、その分だけ主役のグルベローヴァさんを引き立てるカタチになり、スターが作り出すオペラという観点からは、とても素晴らしい上演だったといえる。ただ、ドイツの歌劇場が上演するイタリア・オペラで、指揮者はオーストリア出身、主役4人にドイツ人はなく、2人がイタリア出身、タイトルルールはロシア出身、ヒロインは国際的な大スター…といった具合で、極めて国際色豊かな上演であった。先週のボローニャ歌劇場の『清教徒』がほとんどイタリア人だけで構成されていたのとは対極的である。ベルカント・オペラの代表的作曲家、ベッリーニとドニゼッティを聴き比べられたのも面白かった(しかも両者とも物語はイギリス)。このように徹底的に国際的な普遍性があるのも、名作たる所以なのであろう。

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