★★たそがれジョージの些事彩彩★★

時の過ぎゆくままに忘れ去られていく日々の些事を、気の向くままに記しています。

ヘッドハンティング 11

2012年04月15日 23時11分55秒 | 小説「ヘッドハンティング」
 ゴールデンウィーク明けの土曜の午後、五人は真田のマンションに集まっていた。
 家賃8万円の12畳のワンルームは、バツイチの男やもめの真田らしく、これといった家具もなくガランとしていた。

 五人がそれぞれ好きな場所に陣取って、第一回目の作戦会議が開かれていた。
 シーシェルへの移籍のXデーを9月末として、それまでに五人が理想とするカタログビジネスの設計図ともいうべき、マニュアルを完成させなければならない。
 集めるべき情報を検討し、マニュアル化のスケジュールを調整し、各自の役割分担が決定されていく。

「マニュアルや情報収集も大事だけど、肝心の顧客リストはどこにあるんだ? 貸出カードを持っていけば貸してくれるのか?」
 梶尾が言った。
 必要な情報や資料は、顧客リストを除いては、ほぼ五人の手の届く範囲に、無防備に近い状態で散在している。
「詳細な顧客データとして情報部のホストコンピュータの中に登録されているよ」
 上島が答えた。
「5万から10万件の優良顧客データだぜ。端末の画面を見ながら書き写すのか? それとも画面をハードコピーするのか?」
 大原が聞いた。

 顧客データも、住所だけなら端末から引き出せないこともないが、量があまりにも膨大過ぎる。それに顧客の詳細な特性がつかめないので、どれが優良顧客かわからない。
「バックアップデータをコピーする」
「バックアップデータ?」
「大切な情報の入ったフロッピーは、万が一の事故に備えて、別にもう一枚コピーしておくだろう。ホスト・コンピュータも同じさ」
「なるほど」
「年明けからの稼働をめどに、システムがIBMからAT&Tに入れ替えられるのは知ってるだろう。システムの入れ替えには三ヵ月ほどの移行期間が必要で、データのバックアップが取られるのは移行期間の前、9月の上旬頃だ。そのバックアップの中から顧客データを抜き出す」

「誰がやるんだ?」
「俺さ」
「でも上さんは、もうシステム管理課の人間じゃないんだぜ。どうやってコンピュータ・ルームに入り込むんだよ?」
 梶尾が上目使いに上島を見た。
「移行期間にはシステム管理課の社員は総動員される。俺にも管理課の課長から、非公式にサポートの要請が来ているんだ。取りあえず全顧客データを持ち出して、シーシェルのコンピュータで、川本っちゃんがプログラムした顧客特性分類法で、優良顧客だけをピックアップする」
 上島は続けた。
「それと、シーシェル入社後は、まずシステムの構築が当面の課題になると思う。物流システム、顧客管理システム、受注システム、統計分類システムなどだ。幸いシーシェルのホスト・コンピュータもIBMだから、先方のシステムをベースにして、うちのシステムとリンクさせながらグレードアップしていけばいい」
コメント
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