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2016-05-23 | エッセイ、旅行記




田中真知
『たまたまザイール、またコンゴ』★★★★


黄色い装丁インパクト
新刊の紙の匂い

コンゴ民主共和国(旧ザイール)

名前は耳にしたことはあるけど場所は??
アフリカで場所を知るのは、エジプト、モロッコ、ケニアぐらい。
あと南アフリカ共和国、ガーナも何となく。

こういう旅行記は貴重!

この厚さなのに一日で読んでしまった(笑)



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ここに来るために、黄熱病、コレラ、破傷風、肝炎など、たくさんの予防注射をうった。くわえてマラリアの予防薬を服用したり、ビタミン剤を飲んだりもしていた。水には浄化剤を溶かした。妻は毎日日焼け止めを塗りたくった。村では、虫よけスプレーを噴射し、蚊取線香を焚きこめ、夜はネット付きのテントにもぐりこむ。虫さされにはムヒを塗り、けがはすぐ消毒して抗生物質入りの化膿止め軟膏を塗る。いずれも、村人には縁のないものばかりであり、どうして、そこまでしなくてはならないのか、彼らには理解しにくかったようである。
しかし、これだけ気をつかっていたにもかかわらず、舟旅が終わりに近づくころには、二人ともぼろぼろだった。妻は予防薬を飲んでいながらも二度目のマラリアにかかり、下痢もなかなか止まれなかった。生理も止まってしまった。ぼくの方は手足の数百か所の蚊やアリの咬傷が膿んでいつまでも治らなかった。マラリアの予防薬の副作用による発疹もあいかわらずだった。けれども、そんな環境の中で、ここの人びとはろくな薬もなしに暮らしていた。これは驚きだけではすまないことのような気がした。

ここには「文明社会」ではありえないような死があふれている。

日本では考えられない冗談のような原因で人は死んでいく。死はつねに身近に立っている。けれども、ここの人たちは、そうした偶然の死を自分たちに与えられた運命として受けいれる覚悟を、日々の暮らしの中で培っていくのだ。マラリアや無辜の子どもたちの死を、自分たちの死の運命的なあり方として淡々と引きうけるのだ。

けれども、もし自分が、注射もうたず、薬も持たずに、ここの暮らしの中に飛びこむならば、おそらく恐怖以外のなにものも感じないだろう。正直な気持ち、自分はここでは死にたくない、と思った。ここでの偶然の死を、自分の運命として受けいれる覚悟は、自分には持てそうになかった。







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タフであるとは肉体の強靭さとか不屈の意志ということとはあまり関係ない。むしろ、思いこみがはがれ落ち、中身の自分が意外と大丈夫だと気づくことではないか。
自分だけがそうなのか、あるいはほかの人もそうなのかわからないが、日本にいると、とにかく無力感にさらされる機会が多い。それは自分が本当に無力だからではなく、無力だと思いこまされる機会があまりにも多いからのような気がする。世の中はありとあらゆる脅威に満ちていて、それに対して保険をかけたり、備えをしたり、あるいは強大なものに寄り添ったりしないことには生きていけない。そんな強迫観念を社会からつねに意識させられているうちに、自分は無力で、弱く、傷つきやすい存在だと思いこまされてしまうのだ。
でも、ここでは自分でなんとかしないと、何も動かない。乏しい選択の中から、ベストとはほど遠い一つを選び、それを不完全な手段でなんとかする。状況がどんな矛盾と不条理に満ちていても、それが現実である以上、葛藤なしに認めて取り組むしかない。そういうことをくりかえしていると、意外となんとかなったりするし、なんとかならなくても、まあ、しょうがないやという気になる。まあ、しょうがないやと思えることが、じつはタフということなのだと思う。







「この国でいいことをしたら殺されてしまう」








いけない、いけない、ゆるす、ゆるすのだ。ゆるせなくても、ゆるすのだ。








コンラッドはこの地を「闇の奥」と呼んだ。だが、闇の陰影を見分けられるような精妙なまなざしを持つ者にとっては闇は闇ではない。そんなことを考えさせられたコンゴ河だった。








「いま、彼、すごいことをいいましたよ」
「なんて、いったの?」
「『空がひらいた』っていったんです」
「空がひらく・・・・・・」
「雲が切れて少し明るくなったことをいっているんだと思うんですけど、なんかぞくっとする表現ですね。『空がひらいた』って」
ボートはふたたびスピードをあげて、夜の、ひらいた空の下を疾駆しはじめた。








世界は偶然と突然でできている








理由はわからないけれど、そういうものなのだ。ゆるす、ゆるすのだ。おまえなんか、ゆるしてやる。








いずれにしろ、世界は偶然と突然でできている。それを必然にするのは生きるということだ。それがコンゴ河の教えだ。



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ちょっとしんみりする抜粋ばかりになっちゃったけど、
それとはちがった珍道中場面も多々あり読ませる旅行記だった。


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