智徳の轍 wisdom and mercy

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悼むべきではない輪廻転生談(アナヌソーチャ・ジャータカ)

2004-10-04 | ☆【経典や聖者の言葉】



 これは、尊師がジェータ林にとどまっておられたときに、夫人が死んだ一人の資産家に関して講演なさったものです。
 彼は夫人が死んだせいで、水浴することもなく、食べることもなく、仕事に従事することもなくなってしまったそうです。彼は、疑いなく、不運な出来事に征服されて、火葬場に行き、悲嘆してさまよい歩きました。
 しかし、彼の内側には、屋根の上の灯明のように、真理の流れに入る道の土台が輝いていました。明け方、尊師は世界について考えると、彼をご覧になりました。
「このわたしを除いて、不運な出来事を取り去り、真理の流れに入る道を授ける者は他にだれもいない。わたしは彼の助けとなろう。」
 そして、食事の後に施し物のための巡回から戻り、後に出家修行者を案内して、彼の家のドアに達しました。資産家は聞いて、出迎えなどの尊敬がなされました。用意された座にお座りになり、資産家が近付いてうやうやしくあいさつし、そばに座ったとき、
「帰依信男よ、どうして黙っているんだ。」
とお尋ねになりました。
「はい、尊師よ、わたしの夫人が逝ったのです。そのことを悼んで、思念しているのです。」
と申し上げると、
「帰依信男よ、壊れる法則にあるものは、まさしく壊れる。それが壊れたとき、思念することは適していないんだよ。そして、大昔からの賢者たちは、夫人が逝っても、『壊れる法則にあるものが壊れた』ということで、思念しなかった。」
 このように言って、彼に懇願されたので、物語をお話しになったのです。

 その昔のことは、第十節の『小覚醒輪廻転生談』に説明されています。ここではこれは要約です。
 その昔、バーラーナシーで、ブラフマダッタが君臨していたころ、到達真智運命魂は祭司の家に存在するようになりました。青年に達すると、タッカシラーですべての学識を獲得し、父母の面前に行きました。この輪廻転生談の中で、偉大な生命体は、神聖行をなす少年だったのです。そこで、彼の父母は告げました。
「妻を求めよう。」
「わたしには家庭生活は必要ありません。わたしはあなた方の臨終に際して、出家します。」
到達真智運命魂はそう言いましたが、彼らに何度も懇願されたので、一つの金の容姿を製作して言いました。
「このような少女を得たら、受け入れましょう。」
そこで彼の父母は、
「その金の容姿を屋根のある乗り物の上に置いて行きなさい。バラリンゴの大陸の平原を吟味し、このような祭司の少女を見た場合には、この金の容姿を施し、彼女を家に連れてきなさい。」
と、大きな従者団と共に人々を放ったのです。
 さてそのとき、一人の功徳のある生命体が、神聖天の世界から死んで、カーシ王領の町村の八億の財産がある祭司の家の少女となって存在するようになり、彼女はサンミッラバーシニーと名付けられました。彼女が十六歳になったとき、綺麗で、愛敬があり、愛欲神の天女に似ていて、すべての顕著な特徴に恵まれていました。また、彼女には、肉欲による心が以前に生じたことはなく、絶え間なく神聖行をなしたのです。
 さて、彼らは金の容姿を持ってさまよい歩き、その村に達しました。ここで、人々はそれを見て言いました。
「不確かではありますが、祭司の娘である、少女サンミッラバーシニーがここにとどまっていますよ。」
 人々はそれを聞いて、祭司の家に達し、サンミッラバーシニーに求婚しました。そこで、彼女は父母に伝言を届けたのです。
「わたしはあなた方の臨終に際して、出家します。わたしには家庭生活は必要ありません。」
彼らは言いました。
「娘よ、お前は何をなすつもりなんだ。」
そして、金の容姿を持って、大きな従者団と共に、彼女を放ったのです。
 到達真智運命魂とサンミッラバーシニーは、双方とも望んでもいないのに、結婚したのです。彼らは、一つの寝室で一つの寝台に横たわったとしても、お互いに肉欲によって見ることはなく、二人の向煩悩滅尽多学男、二人の神聖天のように、一つの場所に住んでいました。
 間もなくして、到達真智運命魂の父母が逝ったのです。彼は彼らの葬式を行なってから、サンミッラバーシニーを呼びにやって言いました。
「親愛なる妻よ、わたしの家の資産が八億、お前の家の財産が八億と、こんなにたくさんのこの財産を持って、家族の財産と屋敷を所有しなさい。わたしは出家するつもりだ。」
「殿方、あなたが出家するならば、わたしも出家します。わたしはあなたをあきらめることはできません。」
「それじゃあ、来なさい。」
 そこで、すべての財産を布施の口に解放し、ひとかたまりの唾のように繁栄を捨てたのです。
 そして、雪山に入り、双方とも苦行者として出家して、野生の根が実となるものを食物とし、長い間住んだ後、酸っぱいものと塩を用いるために雪山から降りて、規則正しい順序でバーラーナシーに達して、国王の庭園に住みました。
 彼らがそこに住んでいると、優美な女の托鉢修行者は、まずく雑多な食事を食べて、赤痢という病気に冒されました。彼女はちょうど良い薬を得られないまま、衰弱しました。
 到達真智運命魂は、時が来たので、一軒一軒施し物の食事のために歩き回り、彼女を抱いて市の門へと導き、一つの小屋で平たい厚板に横たえてから、自ら施し物の食事のために入りました。彼女はそこで、出かけることなく逝きました。多くの人は、女の托鉢修行者の容姿の立派さを見ると、周りに輪を作り、泣き叫び悲嘆しました。到達真智運命魂は、施し物の食事のために歩き回って帰ると、彼女の死んだのに気付いて言いました。
「壊れる法則にあるものが壊れた。すべての構成要素は無常であり、これもまた同じことなのだ。」
 そして、彼女を横たえた平たい厚板に座り、雑多な食事を食べて、口をゆすぎました。周りに輪を作ってとどまっていた多くの人が尋ねました。
「尊者よ、この女の托鉢修行者は、あなたにとってどういう方なのですか。」
「家庭生活を送っているとき、わたしの喜びの基礎でした。」
「尊者よ、わたしたちは抑えることすらできずに、泣き叫び悲嘆しているのに、なぜあなたは泣き叫ばないのですか。」
「生きているときは、この人はわたしにとって重要な人でした。今は、高い世界と結ばれたので、何でもありません。異なった人の力の及ぶところにあるのに、どうしてわたしが泣き叫びましょうか。」
と、到達真智運命魂は、多くの人に法則を説くと、これらの詩句を唱えました。

  あなたは数多くの者の中に存在している。
  彼らの中にいれば、わたしなど何になろう。
  だから不運な出来事ではない。
  この親愛なるサンミッラバーシニーを。

  もし存在しなくなるごとに、
  いちいち悼むならば、
  いつも死の神の力が及びつつある、
  自分自身を悼みなさい。

  とどまって、座って、
  横たわる遊行者は、
  見続け、まばたきする間でも、 
  そこで青春を記憶修習することはない。

  そこで、自分自身で宗教的義務の支配下となり、
  離脱し不確かさのないとき、
  まさに生き残っている者こそを気の毒に思いなさい。
  離れた者を悼むことはない。

 このように、偉大な生命体は四つの詩句によって、無常性の行為をわからせ、法則を説きました。多くの人は女の托鉢修行者の葬式を行ないました。到達真智運命魂は、雪山に入り、静慮と証智を生じさせて、神聖天の世界を最終地点としたのです。

 尊師はこの教えをもたらした後、種々の真理を説明し、輪廻転生談に当てはめられたのです。真理を完達したとき、資産家は真理の流れに入る果報を確立しました。
「そのときのサンミッラバーシニーはラーフラの母であり、さて、その苦行者は、まさにわたしなのである。」