一杯の水

動物であれ、人間であれ、生命あるものなら誰もが求める「一杯の水」。
この「一杯の水」から物語(人生)は始まります。

一杯の水(3)

2005年05月14日 21時43分45秒 | インドの小さな物語
しかしある晩のことです。

雨季の降り続く雨に耐え切れず、ついに河の堤が決壊しました。村は、洪水に襲われ、村中瞬く間に水浸しになりました。家はつぶれ、家畜や人々は押し流されていきます。ナーラダも逃げました。左手に妻を、右手に二人の子供を抱え、もう一人の子供は肩に乗せ、ナーラダは、高台目指して押し寄せる濁流の中を進み始めました。しかし、その流れの速さにナーラダが足をとられた瞬間、肩に乗せていた子供が激流に飲み込まれました。ナーラダは叫びました! その子を救おうと、ナーラダは手を伸ばしました。すると今度は、二人の子供達を抱えていた手が緩み、二人の子供達も飲み込まれ、流されていきました。ナーラダは子供達を救おうと必死でした。しかし、ついには、最愛の妻さえも、激流にさらわれていきました。力尽きたナーラダからは、絶望の叫びがもれました。

気がつくと、すべてを失ったナーラダは、ただ一人、高台に打ち上げられていました。ナーラダは悲しみにくれながら、朝日に輝く、水浸しになった自分達の村を呆然と眺めていました。

するとどうしたことでしょう。ナーラダの後ろから優しい声が聞こえてきたのです。

「ナーラダよ、私の水はまだかい。お前が村に向かってから、もう1時間もたつのだよ」と。
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