一人の貧しい男がいました。
彼は、「悪魔を呼び出してお願いすれば、望みは全てかなえてもらえる」ということを、たまたま耳にしました。彼は、神通力を持つ聖者に会って、悪魔を呼び出す呪文を教えてもらおうと、方々探し回りました。
やっとのことで、森の中、静かに瞑想にふける聖者に巡り会いました。
彼は、自分がとても貧しいこと、病気の家族を抱えていることなどなど、自らの窮状を切々と訴えかけました。初めは「悪魔を呼び出すなど、百害あって一利なし」と嗜めていた慈悲深き聖者も、哀願する貧しき男を哀れに思い、「他人に聞かれないようにすること」という条件をつけて、ついに悪魔を呼び出すマントラを授けることにしました。
貧しい男は森の深くに入ると、来る日も来る日も、一人マントラを唱え続けました。
するとある日、悪魔が、巨大な恐ろしい姿を、彼の前に現しました。
「俺をしつこく呼ぶのは誰だ!」
「悪魔様、私でございます。慈悲深き聖者様が、あなた様を呼び出すマントラを授けてくださいました」
「なるほど、で、お前の望みはなんだ?」
「私は大変貧しい男でございます。まずは、お金持ちになりたいと思います」
「そうか、わかった。だがわしは、どんな仕事でも一瞬で成し遂げてしまう。わざわざ呼び出したからには、仕事を与え続けてもらうぞ。それができなければ、お前を食ってしまうからな」
「た易い御用です」
こんな男でも、自分の欲には限りがないことを知っていたのです。
「では、始めようか。まずは金だな。ほれ!」
抱えきれない程の金貨のつぼです!
「では、宮殿を建ててください」
「そら!」
「ここに街を作って、私を王様にしてください。」
「これでどうだ!」
男はだんだん怖くなってきましました。悪魔はどんな仕事でも一瞬で成し遂げてしまうのです。
「さあ、次の望みはなんだ。早くしないとお前を食ってしまうぞ!」
欲も尽き果てたこの哀れな男は、一目散に駆け出し、聖者の許に、命からがらたどり着きました。
息せき切って、男は聖者に救いを求めました。
「聖者様、お助けください! このままでは、喰われてしまいます!」
悪魔は高笑いしながら地響きを立て、どんどん、どんどん迫ってきます。
事情をのみ込んだ聖者は哀れな男に言いました。
「そこにいる犬のしっぽを切って、悪魔に与えなさい。そしてそれを真っ直ぐに伸ばせと命じるのだ」
男は言われるがまま、大急ぎで犬のしっぽを悪魔に渡し、命じました。
「さあ、そのしっぽをまっすぐに伸ばしてください!」
悪魔は、訝しく思いながらも、注意深くそれを伸ばしました。
しかし、手を離すや否や、それはすぐに丸まってしまいます。
悪魔は、また、丁寧にしっぽを伸ばし始めます。
今度も、やはり、犬のしっぽは巻き上がってしまいます。
悪魔は、何日も、何日も、延々とその作業を繰り返し、ついには疲れ果てて、その男に言いました。
「いやはや、こんな酷い目にあったのは初めてだ。今まで作ったものは、そのままお前に上げるから、わしを解放してはもらえまいか?」
男はたいそう喜び、それを承知しました。(ヴィヴェーカーナンダ著「カルマ・ヨーガ」改)
私達も、世界も、たくさんの犬のしっぽを抱え込んでいるような気がします。
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スワーミー・ヴィヴェーカーナンダについては、当メインサイト「Hinduism & Vedanta」を御覧ください。
彼は、「悪魔を呼び出してお願いすれば、望みは全てかなえてもらえる」ということを、たまたま耳にしました。彼は、神通力を持つ聖者に会って、悪魔を呼び出す呪文を教えてもらおうと、方々探し回りました。
やっとのことで、森の中、静かに瞑想にふける聖者に巡り会いました。
彼は、自分がとても貧しいこと、病気の家族を抱えていることなどなど、自らの窮状を切々と訴えかけました。初めは「悪魔を呼び出すなど、百害あって一利なし」と嗜めていた慈悲深き聖者も、哀願する貧しき男を哀れに思い、「他人に聞かれないようにすること」という条件をつけて、ついに悪魔を呼び出すマントラを授けることにしました。
貧しい男は森の深くに入ると、来る日も来る日も、一人マントラを唱え続けました。
するとある日、悪魔が、巨大な恐ろしい姿を、彼の前に現しました。
「俺をしつこく呼ぶのは誰だ!」
「悪魔様、私でございます。慈悲深き聖者様が、あなた様を呼び出すマントラを授けてくださいました」
「なるほど、で、お前の望みはなんだ?」
「私は大変貧しい男でございます。まずは、お金持ちになりたいと思います」
「そうか、わかった。だがわしは、どんな仕事でも一瞬で成し遂げてしまう。わざわざ呼び出したからには、仕事を与え続けてもらうぞ。それができなければ、お前を食ってしまうからな」
「た易い御用です」
こんな男でも、自分の欲には限りがないことを知っていたのです。
「では、始めようか。まずは金だな。ほれ!」
抱えきれない程の金貨のつぼです!
「では、宮殿を建ててください」
「そら!」
「ここに街を作って、私を王様にしてください。」
「これでどうだ!」
男はだんだん怖くなってきましました。悪魔はどんな仕事でも一瞬で成し遂げてしまうのです。
「さあ、次の望みはなんだ。早くしないとお前を食ってしまうぞ!」
欲も尽き果てたこの哀れな男は、一目散に駆け出し、聖者の許に、命からがらたどり着きました。
息せき切って、男は聖者に救いを求めました。
「聖者様、お助けください! このままでは、喰われてしまいます!」
悪魔は高笑いしながら地響きを立て、どんどん、どんどん迫ってきます。
事情をのみ込んだ聖者は哀れな男に言いました。
「そこにいる犬のしっぽを切って、悪魔に与えなさい。そしてそれを真っ直ぐに伸ばせと命じるのだ」
男は言われるがまま、大急ぎで犬のしっぽを悪魔に渡し、命じました。
「さあ、そのしっぽをまっすぐに伸ばしてください!」
悪魔は、訝しく思いながらも、注意深くそれを伸ばしました。
しかし、手を離すや否や、それはすぐに丸まってしまいます。
悪魔は、また、丁寧にしっぽを伸ばし始めます。
今度も、やはり、犬のしっぽは巻き上がってしまいます。
悪魔は、何日も、何日も、延々とその作業を繰り返し、ついには疲れ果てて、その男に言いました。
「いやはや、こんな酷い目にあったのは初めてだ。今まで作ったものは、そのままお前に上げるから、わしを解放してはもらえまいか?」
男はたいそう喜び、それを承知しました。(ヴィヴェーカーナンダ著「カルマ・ヨーガ」改)
私達も、世界も、たくさんの犬のしっぽを抱え込んでいるような気がします。
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スワーミー・ヴィヴェーカーナンダについては、当メインサイト「Hinduism & Vedanta」を御覧ください。
カルマ・ヨーガ―スワミ・ヴィヴェーカーナンダ講演集日本ヴェーダーンタ協会このアイテムの詳細を見る |
紹介されたお話ですが、いかにもインドらしく面白いですね。
悪魔を呼び出すマントラを授ける聖者など、一神教世界では考えられないことです。何でも直ちに仕事を片付ける悪魔が、曲がった犬の尻尾を真直ぐに出来ないのは不思議ですが、悪魔を出し抜く聖者と主人公が痛快。尻尾をチョン切られた犬だけは可哀想です。
インド神話に詳しい方のサイトでは、善と悪の区別があまり明確でないと書かれていました。人間に「親切な」悪魔もいるし、その「良い」悪魔を苛める神様もいるとか。これも多神教ならではですね。
コメントをありがとうございました。
確かにインド神話では、善と悪の区別は明確ではありませんねぇ。
インド神話に登場する神々はあまりにも人間的ですね。
その中で、おおっぴら、かつ闇雲に、弱いもの(人間)いじめをするのが「悪魔」でしょうか。
そして、自分に不都合がない限り、弱いものに寛容なのが、「神々」かも知れません。
しかし、シャンカラに言わせれば、神々でも「悪鬼共」と、一括りにされているところが面白いところです。