鬼神の秘密

'05~'06オセロ世界チャンピオン 為則英司のブログです。

WOC2005予選編(その3)

2006-05-21 08:35:58 | WOC2005
予選1回戦でハバード選手に55-9で大勝しました。ハバード戦が終わった後、休憩するため廊下に出たところ、先に試合が終わっていたベン・シーリー氏が「Nice game!」と言って労ってくれました。ベンは私の隣で1回戦の対局を行っていましたが、ベンの試合はかなり余裕があったようで、自分の試合より私の試合を見ている時間の方が長いのではないかと思うくらい、私の盤面を眺めていました。

やがて、試合会場のスクリーン上に2回戦のペアリングが映されました。私の対戦相手は何とベン・シーリー氏で、私が白番でベンが黒番となりました。予選2回戦という早い段階でベンに当たったのは私にとっては好都合でした。その理由は、白番を持ってベンに試してみたい定石があったことと、ここでベンに負けるようなことがあったとしても予選はあと11試合も残っているので、残りの試合を大事に戦えば予選を通過できる可能性が高いからです。

世界選手権でベンは縦取りになった場合、虎定石を打ち7手目はF6を選択することが非常に多いと思います。私はベンに対して、8手目をF3(Comp'Oth)でいくか、G5(No-kung)でいくか迷っていました。私の中でベンは8F3(Comp'Oth)の進行を得意としているというイメージがあったので、Comp'Othでベンに通用するかどうかを予選の段階で見極めておきたいと考えました。それゆえに私は8F3を試してみることにしました。

F5D6C3D3C4F4F6F3
/ A B C D E F G H
1++++++++
2++++++++
3++●○+◇++
4++●●○○++
5+++○●●++
6+++○+●++
7++++++++
8++++++++
Comp'Oth (次、黒番)

ベンが11手目で使ったC6は私の予想通りで、12~16までベン対策として事前に準備した進行となりました。下記局面では白はB6とC5で二手稼いだ後E3を狙っていけるので、白にとっては悪くない形だと考えていました。

F5D6C3D3C4F4F6F3E6E7C6G5G6F7H5C7
/ A B C D E F G H
1++++++++
2++++++++
3++●○+○++
4++●●○○++
5+++●○●●●
6++●○●○●+
7++◇+○○++
8++++++++
次、黒番(17手目)

しかし、さすがにベンは手強く19E3 23F2と好手を連発して応戦し、下記の局面を迎えました。白は早く4筋に白石を乗せたいところです。白がH4に当てて黒にH3に打たせて右辺を取らせた後、G4の中辺を埋める構想です。

F5D6C3D3C4F4F6F3E6E7C6G5G6F7H5C7E2B6E3H6H7G3F2
/ A B C D E F G H
1++++++++
2++++●◆++
3++●●●●○+
4++●●●●++
5+++●○●●●
6+○○○●○●●
7++○+○○+●
8++++++++
次、白番(24手目)

白(私)が24C5 26D2で4筋に念願の種石(D4)を作ったのですが、黒(ベン)に25F8 27E8と打たれて、白がH4に付ける手を消されてしまいました。この辺りはベン特有の打ち回しだと思いますが、相手の種石を巧みに消していく技に、さすがは王者ベンと感心してしまいました。

F5D6C3D3C4F4F6F3E6E7C6G5G6F7H5C7E2B6E3H6H7G3F2C5F8D2E8
/ A B C D E F G H
1++++++++
2+++○●●++
3++●○●●○+
4++●○●●++
5++○○○●●●
6+○○○●●●●
7++○+●●+●
8++++◆●++
次、白番(28手目)

黒やや有利の展開で34手目まで進み下記の局面を迎え、ベンは長考に入りました。私の感覚では黒にB1と打たれて上辺を取られると、白は手数が足りなくなると思っていましたが、ベンはH3に打ったので内心ほっとしました。試合後Zebraで調べたところ、やはり35の最善手はB1でした。白は36でG1位しか手がなく、37H2でトドメを刺されたところでした(黒6石勝ちの進行)。

F5D6C3D3C4F4F6F3E6E7C6G5G6F7H5C7E2B6E3H6H7G3F2C5F8D2E8G4B5D7E1C1D1A4
/ A B C D E F G H
1++○●●+++
2+++●●●++
3++●●○●○+
4◇+●●○○○+
5+○●●●○●●
6+○○○○●●●
7++○○●●+●
8++++●●++
次、黒番(35手目)

ベンが35をB1ではなくH3に打ってくれたので私は息を吹き返した心境でした。35H3 36B4の後、以下の問題の局面を迎えました。私は36をB4に打つ段階で、37で黒が間違えてB3に打ってくれたら38F1で必勝形になることに気付いていました。しかし、試合中は何も考えていないふりをして、ほとんどノータイムで36B4を打ちました。驚いたことに、ベンもほぼノータイムで、しかも何も疑っていない様子で37をB3に打ちました。37B3を見た瞬間、私は自分の目を疑ってしまいました。

/ A B C D E F G H
1++○●●+++
2+++●●●++
3++●●○●●●
4○◇○○○○○+
5+○○●●○●●
6+○○○○●●●
7++○○●●+●
8++++●●++
次、黒番(37手目)

私は猛烈に興奮しながら38でF1に白石を置いて、ものすごいスピードで縦、横、それに斜め、合計7つの黒石を白に裏返しました。C4の黒石が白になったため、39で黒はH4に入ることが出来ません。40で白にH4に入られて黒、万事休すとなります。

/ A B C D E F G H
1++○●●38++
2+++●●●++
3+◆●●○●●●
4○○●○○○○+
5+○○●●○●●
6+○○○○●●●
7++○○●●+●
8++++●●++
次、白番(38手目)

実にあっけない幕切れでした。試合後はベンに勝った喜びよりも、あと11試合を頑張らねばという気持ちが強かったことを覚えています。この時は、この試合の結果が賜杯の行方に大きく影響を与えることになるとは到底想像できませんでした。