残照日記

晩節を孤芳に生きる。

海老蔵事件

2010-12-08 13:47:37 | 日記
<子曰わく、人の生くるは直(なお)ければなり。これを罔(あざむ)きて生くるは、幸(さいわい)にして免ぬがるゝなり。>(雍也篇)── 孔子が言うには、人生は正直に生きてこそ全うできる。それを欺いて生きているのは、一時的に免れているだけで、いずれ天の鉄槌に会うだろう、と。)

∇今、メディアは「市川海老蔵泥酔殴打事件」で、文字通り“蜂の巣をつついた”ように騒がしい。昨晩の記者会見で海老蔵は<社会人として節度に欠け、それによって舞台に穴を開けた。皆様に大変なご迷惑と心配をおかけしました。深く反省しています。日頃のおごりが招いたと思います>と詫びた。暴行を受けた相手側と食い違う点が多々あり、真相はまだ闇の中だが、“他山の石”として学ぶべきは「奢り」の怖さであろう。歌舞伎公演を製作する松竹は、彼の今後の出演を無期限見合わせ、謹慎処分にした。海老蔵自身が歌舞伎俳優としての権威を失墜したばかりか、この事件によって被害を蒙った数々のスポンサーへの賠償問題等々、被害は甚大となろう。

∇新聞や週刊誌を拾い読みすると、タクシー代を僅か320円ケチったり、表沙汰にならないが、類似の破廉恥行為も度々あったり、泥酔した際に「俺は人間国宝だ、死ぬまでに年金2億円だ」などと“人間国宝気取り”だったこと等も報じられている。それが真実なら、「奢り」もいいところだ。「法句経」に曰く、<悪の果実いまだ熟さぬ間は、悪しきをなせる人も幸いを見ることあるべし。されど、悪の果実熟するにいたらば、その人遂に不幸に逢はん>と。又、古格言に曰く、<人生最も不幸なる処は、偶々(たま/\)一失言して禍及ばず、偶々一失謀して事倖成することなり>と。──なぜならこれに味をしめ、世の中はそんなものだと甘く見て、ごまかし世渡りをしている内に、悪行が積み重なって、ある時ドーンと天の鉄槌が下るのが常だから。

∇老子曰く、<天網恢恢(かいかい)、疎(そ)にして漏らさず>。──天が張る網は、一見大きく、目が粗いようであるが、悪人を網の目から漏らすことはない。悪事を行えば必ず捕らえられ、天罰をこうむる。又、リンカーン曰く、<すべての人々をしばらくの間愚弄するとか、少数の人々を常にいつまでも愚弄することはできます。しかしすべての人々をいつまでも愚弄することはできません>と。(「リンカーン演説集」岩波文庫) 地味だけど人生は正直に暮らすのが一番だ。話のついでに言えば、小沢金権問題にもそろ/\鉄槌が下りて欲しい。小沢元代表の資金管理団体が同党候補者に約4億4200万円を提供したとか、そのお金をもらった(=親小沢)議員が、やたらに彼を持ち上げ、弁護している幇間醜態劇に終焉の幕引きを!

∇「奢り」高ぶる金権主義者に、唐代、李瀚が撰した「蒙求」に載る「楊畏四知(楊震四知を畏る)」という逸話を送りたいが、如何か。──後漢時代に楊震という碩学がいた。伝え聞いた州郡の長官から再々出仕を請われたが、志すところ固く学問に専心した。五十歳になって初めて州郡に仕え、最終的に軍事長官に迄出世した。この楊震がまだ或る郡の太守だった時、赴任するにあたり某県を経由することになった。そこには彼がかつて推挙した王密という男が県令をしていた。王密が夜に謁見を願い、金十斤を懐中から出して賄賂に及ぼうとした。楊震「受け取れない。君は私の性格を知っているはずだ」。王密「今は日暮れです。誰も見てはおりません。是非私の志をお受け下さい」。楊震曰く、「天知り、神知り、我知り、子(貴公=王密)知る。何ぞ知るもの無しといわんや」と。王密恥入り退いた。──