4月に2完封を含む4戦連続完投勝利を挙げて月間MVPに輝いた楽天・田中
右肩の張りから1軍登録を外れていた東北楽天・田中将大投手が13日の北海道日本ハム戦で14日ぶりに先発として復帰登板を果たした。12球団1位のチーム打率2割9分6厘を誇る北海道日本ハム打線に8安打を打たれながらも要所を締めるピッチング。7回を3失点に抑えて5勝目を挙げ、前日に1対8と敗れて2位に転落した東北楽天を同率ながらも再び首位の座に押し上げた。
今年の田中は3月に行われたワールドベースボールクラシック(WBC)日本代表に選出され、中継ぎとして世界一に貢献。東北楽天では4月30日に登録を抹消されるまで開幕から2完封を含む4試合連続完投勝利で、4月のパ・リーグ投手部門月間MVPを獲得した。創設5年目にして初めて4月をトップ通過したチームの大きな原動力となったのは間違いない。
高卒ルーキーだった2007年には11勝を挙げて新人王を獲得。2年目は9勝に終わったが、北京五輪・野球日本代表に選ばれた。プロ入り3年目となる今年もさらなる進化を続ける若き右腕について、13日の復活登板をテレビ中継の解説者として取材していた阿波野秀幸氏に分析してもらった。
■登録抹消の影響なし
4月30日に右肩の張りで登録を抹消されましたけど、ケガって言うほどのものではありません。今年はWBCから始まって、4月の4試合連続完投もあって、ずっと突っ走ってきました。肩、ヒジには負担がかかっていますし、これから先のことを考えて、一休みさせる早めの処置でしょう。でも登板を1回飛ばしただけで戻ってこれたので、今後を考えると良かったのではないでしょうか。
(13日の登板は)変化球も一通り投げていたし、好調な日本ハム打線を迎えて全力投球するというよりも丁寧にコース、高さを狙って投げられていました。自分の調子とうまく駆け引きして、勝負どころでは打たせて取る投球にシフトチェンジができていました。6回はWBCでともに戦った稲葉に死球を出して、稲葉がすぐに退場したことを引きずって、小谷野にカウントを悪くしてタイムリーを打たれましたけど、ピッチングコーチが間を取ると気持ちを切り替えて後続を抑えました。復帰登板と言っても、登録抹消の間にもブルペンでは投げていたし、右肩の張りを気にする様子はなかったですね。
■分かっていても打てないストレート
田中はプロに入ってから球種を増やすなど、もともと器用なピッチャーです。1年目は投げているときに結構盗塁をされていたんですけど、2年目はしっかりとそれを克服しました。3年目の今年は投球の原点であるストレートを見つめ直すことに取り組み、その精度と威力が増しました。春先にワールドベースボールクラシック(WBC)に選出されましたけど、先発を任される立場ではありませんでした。先発は力任せに投げるよりも、安定したフォームで狙ったところに投げることが大事だということを学んだんだと思います。
今までは力いっぱい投げていて150球を超えて完投とか球数も多かったんですけど、4試合連続完投のときは球数も減りました。これは勝負に行ってファウルで粘られるのではなくて、きっちりと空振りに仕留めているからだと思います。今は指先にボールがしっかりかかっていて、ストレートと分かっていても打たれない質の高さがあります。
投球フォームでも踏み出した左足が割れなくなり、バランスを崩すことがなくなりました。自分の身体のパワーをしっかりと使えていて、これがきっかけとなって精度の高いストレートを投げられるフォームがつくり出されていると思います。
一緒にバッテリーを組む嶋のリードも打者主導ではなく、スライダー、カットボール、フォーク、チェンジアップ、ツーシームと球種が豊富な田中のいいところを引き出そうというピッチャー主導のリードをしているように見えます。そして内角にストレート、カットボール、ツーシームなどを投げ分けられるので、インコースに来ると分かっていても打者は的を絞りづらいのではないでしょうか。
■20勝を狙えるチャンス
また、4月14日の千葉マリンで投げたときに大雨だったんですけど、、嫌な仕草も見せず淡々と投げている姿を見て、精神的な成長を感じました。今までは闘志を出すタイプだったんだけど、自分をしっかりと制御できるようにもなっています。13日の日ハムとの首位攻防戦でも、前日にチームは嫌な負け方をしましたけど、自分のピッチングをして勝利に導きました。高卒3年目とは思えない成長ぶりを見せています。これは田中がWBCのピッチャーたちを間近で見ていろいろと吸収して、意識の高いところで野球をやっていることがうかがえます。
WBCではダルビッシュにいろいろと教えてもらったそうですし、かわいがってもらえる人柄もあります。そして、人に教えてもらってもすべて取り入れては頭が混乱するだけですが、いいもの、悪いものを自分でしっかり分別する能力があり、頭の器用さも感じられます。
今後は岩隈と2本柱という意識でチームを引っ張ってもらいたいですし、長谷部や永井といった同年代の投手たちと刺激し合って楽天に投手王国をつくってもらいたいです。危惧されるのは身体への負担でしょうか。毎年2月のキャンプでは早い段階で身体が完全に仕上がっているし、WBCに選出されたりでしっかり休めているのかな、とは思います。これから故障さえなければ、20勝のチャンスはあると思います。(スポーツナビ)