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『クラッシュ』

2006-04-28 23:42:20 | cinema
映画『クラッシュ』を観ました。
つい2時間ほど前に見終えたんですが、まだ心が揺さぶられています。上手く言葉になんて出来そうに無いけど、観られて良かった。凄く良かった。

人種差別についての社会的な映画なんかじゃない。
「社会」なんて漢字二文字にしちゃうと、ちょっと遠くて面倒くさいコトなのかしらと思ってしまうけど、社会ってほんとうは人間の集まりで作られていて、数え切れない人間の中の一人が私であるしあなたであるんだよね。
人間の面白いところは、一人ひとりがみんな違って、その一人にしたっていろんな側面を持っているってことだ。すっごく刺々しい人に見えて猫好きだったり、清廉潔白なようでどうしようもない女ったらしとか。
そういう数字では割り切れないところが人間なんだと思うし、だからこそ毎日は少し複雑でとても楽しいんだと思う。
でも、一方では弱さや卑屈さや頑固さが凝り固まって様々な偏見を生み出すし、自分自信を守るために他を貶めたり見下したりしてしまう。自分の家族の幸せのために、他人の家庭を壊すことなんてなんとも思わないように。

人間の脆さや素晴らしさや逞しさや狡さの数々が詰められていて、その一瞬一瞬の心の機微に気付かされ、動揺してしまうのです。この映画の登場人物たちはとてもリアルで、明るさも暗さも悲しみも幸せもぜんぶを背負い込んでいます。
例えば、人種差別主義者の警官・ライアン(マット・ディロンがいやらしく好演)は己の怒りのはけ口として、たまたま前を走っていた黒人夫婦の車を止め、酷い屈辱を与える。一方で、病気の父親を介護する優しい息子の一面も見せる。ある時、交通事故現場に居合わせたライアンは、今にも炎上しようとしている車の中から女性を救おうとするけれど、その女性は以前屈辱をあわせた夫婦の妻(サンディ・ニュートン)なのね。女性はそれを思い出して抵抗するんだけど、ライアンは自己の危険も顧みずに救い出す。
だって、一度は酷い酷い目に遭わせた女性よ。女性にしたら、そんな男に救われるくらいなら死んだほうがマシって思っているの。それでも、死が目前に現れたとき、人は人を救うことがきっと遺伝子に組み込まれているんでしょう。
そして、死を覚悟して初めて他人を思いやることができた己に気付いて、漠然とした悲しさと人間として生きていることの幸せを感じるの。

自己や同胞を誇ることは全然悪いことだとは思わないけれど、そのために他人を卑下し他人種を売るような行為は間違っている。
でも、そういう感情は絶対に持っている筈だ。おそらく、私も気付かないうちに変なシコリを作っているんじゃないかと思う。その気付かないで過ごしていることこそがいちばん愚かしい人間の罪なのかな。
でも、神様がいるとしたら神様は私たちに目には見えない天使のマントをくれているの。そのマントは穴が開いていたりちょっと薄かったりするのかもしれないけど、それでも幸せのマントなんだと思う、きっと。


公式サイト:crash

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