炎の中で鳴り響くヴァイオリンの音色と人魚の舞。
山奥の小さな村を全滅に追いこんだ火事の生き残り、涼子は幼いころの記憶を辿り始めます。
語られることを拒むという人魚。
彼女の記憶は何をもたらすのか。
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人魚と提琴 玩具館綺譚
著者:石神茉莉
発行:講談社
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舞台となるのは、玩具館「三隣亡」。
蔦の這うレンガの外壁、門灯はガーゴイルが陣取り、中には呪いの道具や、異形の生き物を模った駒のチェスセットや様々な仮面など奇妙で妖しげな品々が並べられているその店は、ゾンビマニアの店長・Tとその妹・美珠が営んでいます。
もちろん、美珠は、ワンピースの黒が華やか色に思えるほどの色白で涼やかな目をした美少女。
まあ、なんて怪しげで妖しげ。
涼子が店を訪ねる道案内が白猫に黒猫という出だしからして、雰囲気を楽しむ作品であること全開です。
人魚を舞わせるヴァイオリンの音色とそれを奏でる美しい少年。
成長した涼子がその記憶をたどって出会うのは、その少年の面影を色濃く宿す美少女ヴァイオリニスト・響。
「鏡の国のアリス」やさまざまなものをちりばめながら、物語は進んでいきます。
おどろおどろしくなるのかといえばそうでもなく、がっつり幻夢的な展開をみせるでもありません。
涼子自身が記憶を美しいものとして思い出しこそすれ脅えることもなく、「三隣亡」がホラーマニアやゴシック好きを集めて普通に店として成り立っているように、物語も不思議ではあるものの、意外に軽快。
店長・Tが企画したゾンビ映画週間に、モツ煮込みとほうじ茶をセットにして売り出してしまう美珠の存在感が、恐怖や呪い、不思議を当たり前のものにしてしまうのかもしれません。
物語の中での一番の不思議は、おいおい明らかになるに違いない涼子の記憶や人魚の顛末より、Tと美珠、彼らふたりの氏素性かも。
「珠美」さんが「美珠」さんと、漢字が逆になるだけでずいぶん印象が違ってきますね。「珠」は「魂」あるいは「霊」に通じるのでしょうか。
さて、この「玩具館 三隣亡」を舞台とした作品は、シリーズ化されているようです。
第2弾は『謝肉祭の王 玩具館綺譚 』。
こちらはいわくつきの仮面が登場するようです。
今回、古本屋さんで見つけて手にとってみたのは、以前読んだ『音迷宮』の印象があったから。(お薦めのコメントをいただいていたことも理由です。)
『音迷宮』はタイトルのとおり、いずれも物語の中に「音」が響くような短編集でした。
「音」あるいは「音楽」はこの方の大切なモチーフのひとつなのかもしれませんね。
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