10篇が収められた怪異譚集。
この表紙カバーは、ちょっと気持ち悪い…。
音迷宮
著者:石神茉莉
発行:講談社
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書名の『音迷宮』。
最初の作品のタイトルをそのまま使ったものかと思いましたが、ちゃんと短編集のタイトルでもありました。
いずれも、物語の中に音が響く作品集です。
『音迷宮』、『I see nobody on the road』、『眼居』、『夜一夜』、『鳥の女』。
『Rusty Nail』、『海聲』、『川の童』、『Me and My Cow』、『夢オチ禁止』。
たとえば、初めに置かれた『音迷宮』で響くのは亡き母の弾くピアノの音色、『眼居』ではプッチーニの「蝶々夫人」のアリアというように。
共通するテーマがあるうえに、最後の作品が、最初の作品と緩い対となり、またそれぞれの作品の名残りも含んでいるので、1冊の本としてのまとまりが感じられます。
おまけに、各編ともモチーフとなっている妖怪の名前をタイトルとは別にこっそり明かしているという親切さ。
分かりやすいところで言うと『川の童』で河童とか。
ラヴクラフトのあの神話からの登場もありました。
知らない名前のものは、つい、調べてしまいます。
なんて、そんなことばかりしていると、怖いというよりは、ああ、まとまっているなぁという印象のほうが残ります。
全体的に設定や道具立てがきれいで、おどろおどろしい雰囲気がないことも、肌のあわだつような怖さにつながらない理由だったかもしれません。
怖いというより、きれい。
印象に残ったのは『Me and My Cow』。
牝牛一頭を飼いながら、海辺で暮らしている男のお話。
乾いた印象で、割合軽くさくさくと進められていくお話なのですが、器量よしの牝牛にトドが恋をしたり、その牝牛が知らない間に孕んで子牛を産んでしまったり、で、またその子牛が人面だったりと、えっ?と、軽く意表を突かれる感じの驚きの連続。
人面の仔牛ですよ。
人面牛は「件(くだん)」という妖怪なのですが、最後にはこの件を食べちゃうんです。
さくっと。
この軽さと妙な可笑しさがたまらん、と思って略歴をみますと、これがデビュー作なのだとか。
そう思うと、ほかの作品が普通の作品に思えてきます。
この可笑しさはどこへ行っちゃったのかしら。
さて、この著者の作品は、いまのところ、シリーズものが2冊。
今回の『音迷宮』にも登場している玩具屋を舞台にした怪異譚のようです。
Tさんと美珠さんのふたりで営んでいるこの玩具屋は、呪いの道具とかの怖いものをそろえたお店。
そこへ、いろいろな人や得体のしれないものがやってくるのでしょうか。
ちょっと読んでみるのも楽しそうです。
[読了:2012-03-10]
参加しています。地味に…。
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Tと美珠は魅力的ですね。
「音迷宮」は、「夢オチ禁止」と音楽つながりで、それでいて光と闇のような正反対のストーリーで印象深いでうす。単行本でTと美珠の店の話は読みましたが、店に来るキャラクターもかわいいし、おもしろかったです。「鳥の女」は、シーモルグとウブメという凶鳥つながりのネタが読んでいて分かりました。シーモルグの明るさとウブメの禍々しさが対比されていて面白いです。
Tと美珠さんの店のお話、楽しそうですね。
機会をみつけて読んでみたいと思います。