ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

皆川博子【猫舌男爵】

2013-05-22 | 講談社

再読の1冊。

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 猫舌男爵

 著者:皆川博子
 発行:講談社
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収められているのは『水葬楽』、表題作『猫舌男爵』、『オムレツ少年の儀式』、『睡蓮』、『太陽馬』の短編5つ。
まるで初読のような新鮮さで、記憶にあったのは、最初と最後の作品のみ。
それもそのはずで、以前の時は間の3つをものすごいスピードで読み飛ばした。
今回は、その罪悪感があっての再読。

表題作『猫舌男爵』は、古本屋で見つけた1冊の本「猫舌男爵」とそれをめぐる人々の物語。
雰囲気はまるで異なるが、翻訳されたものという体裁で書き、その訳者のあとがきまでを作品とした長編『死の泉』を連想させる趣向の作品で、ふふんと、ちょっと笑ってしまうラストは幸せな感じでいい。
Amazonのページでは次のように内容が紹介されている。

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内容(「BOOK」データベースより)
棘のある舌を持った残虐冷酷な男爵が清純な乙女を苛む物語。
内容(「MARC」データベースより)
「猫舌男爵」とは、棘のある舌を持った残虐冷酷な男爵が清純な乙女を苛む物語…? 爆笑、幻惑、そして戦慄。小説の無限の可能性を示す、瞠目すべき作品世界。表題作ほか4編を収録した短編集。
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この「?」が大事。もし「BOOK」データベースのほうだけで本を手にしたとしたら、落差に舌打ちのひとつやふたつはしかたくなるかもしれないと思う。

他にも、女流画家の生涯を手紙と日記で浮き彫りにしていく『睡蓮』、葬送の角笛がかすかに響く『オムレツ少年の儀式』と、どの作品も趣向が凝らされており、夢現の境を行くような作品世界は展開あるいは結末にある種の驚きが準備されている。
『水葬楽』と『太陽馬』は、初めて読んだ時の記事(2006.6)の引用で。

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1つ目の『水葬楽』は、タイトルのとおり濃厚な死の気配漂う物語。
ひっそりとした病院の中に生きる兄妹。
ひんやりとした言葉がつくる世界は、作中に出てくる立体映像のようだ。

最後の『太陽馬』。
図書館に立てこもった生き残り兵。
彼は、盲目となった少尉をイコンと崇め、自作の物語を語る。
「お前のバリトンは、耳にここちよい。オペラ座にいる気分だ」
死か投降か。
最後の一文が美しい。
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結局のところ、表題作がどうなっていようと、私にとってはこの2作の印象だけがこの本のすべてになってしまうと思う。
例えば、もう一度読んだ時にも覚えているのはこの2作。
そんな気がする。



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2 コメント

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あ-この本は。 (かもめ)
2013-05-23 09:35:11
以前,皆川作品のイチオシとして他の方から進められたことがあって,図書館で手にとっては見たのですが,ぺらぺらめくっただけで,躊躇して棚に戻してしまったことが。

きしさんが再読するのか,そうなのか…それならやっぱり読んでみようかしら?w
返信する
そう、この本は。 (きし)
2013-05-24 00:46:34
巷の評価が高いのですよね。この方の作品のイメージをとらえやすいという点でイチオシというのも納得できます。
でもね、かもめさんの本に対しての嗅覚のほうをを大事にしたほうがいい作品集だとも思います。
今度、ぱらぱらっとしてみて、読む気分になったらで w
返信する

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