ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

赤城毅【書物法廷】

2013-07-14 | 講談社

期待を裏切らないシリーズの第3弾。

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 書物法廷

 著者:赤城毅
 発行:講談社
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擬態であるかのように平凡、印象に残らない風貌、体格でありながら、それを裏切って髪は銀色に輝く東洋人。
30歳ほどに見える彼は、「狩人」、フランス語でル・シャスールという通り名を持つ、稀少な書物を扱う専門家です。
彼が扱うのは、世界を揺るがすほどの価値を秘めた本のみ。
今回もさまざまな価値を秘めた本を入手するという依頼が彼のもとに舞い込みます。
収められているのは『クイナのいない浜辺』、『銀の川の蜃気楼』、『奥津城に眠れ』、『笑うチャーチル』の4篇。
いずれも歴史として明らかにされていることの隙間がフィクションで埋められていくような物語です。

場面のほとんどが、ル・シャスールと関係者が対面して会話をしているところ。
慇懃が上にも慇懃な口調と、底意をみせることのないアルカイックスマイル。
けっして、人と同じ土俵に立つことのない彼が、実際に何かを画策しているところなどは出てきません。
今回の中ではその最たるものが『クイナのいない浜辺』でしょうか。
この作品で彼は登場して、話をして、去っていくだけ。
ですが、人が本に寄せる思いがせつない余韻として残る物語です。

逆に、ル・シャスール自身の本への思い入れが強く印象づけられるのが『奥津城に眠れ』。
ほんとに書物好き。本への愛情と美意識、そして、彼の底意地の悪さがあふれんばかりの作品。
最後の『笑うチャーチル』は、最初の『クイナのいない浜辺』と反対に、依頼の初めから最後までが描かれ、他とはちょっと違う雰囲気です。
本にまつわる顛末もさることながら、彼の書物への美意識以外に、初めてル・シャスール自身の物語が現れてきます。
鍵となるのは『銀の川の蜃気楼』でその名が登場した「ミスター・クラウン」の存在。
クラウンは王冠であり、道化でもあろうかという「ミスター・クラウン」は書物の贋作作りの帝王とされる人物で、強い決意を秘めたふうのル・シャスールは彼に敵対することを宣言します。
いよいよ、ル・シャスールの過去、真意に迫る物語が始まる予感。
すでにノベルズ版が出版されているようですが、ここはひとつ気長に文庫を待ちたいと思います。
シリーズ第1巻の『書物狩人』は赤、第2巻は『書物迷宮』は青。今回は黄色。
次は何色でしょう。
普通だと、緑?





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