小川洋子さんが原作を書いたと評判になっていた(と思う)コミックの、原作者本人による小説化作品です。
酒井駒子さんの表紙につられました。
自分のもののように見えるリボンのついたお下げとウィンドウの中にみながら、この女の子は何を思っているのだろうかと。
最果てアーケード
著者:小川洋子
発行:講談社
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晴れの日でも偽物のステンドグラスを通ったぼんやりとした光が届くだけの、「世界で一番小さなアーケード」。
そこには、人々が忘れ去ろうとしている物、ふだんは気にも留めない物、それでもいとおしむべきもの物が「じっと息を殺す」ようにして店々に収まり、売られています。
たとえば、古い洋服から取り外されたレース、誰かが誰かにあてて送った絵葉書、控えめに栄誉を称える勲章やメダル、様々な種類の義眼、たくさんのドアノブ。そういった物たち。
ひっそりとしたアーケードを訪れる人々を大家のお嬢さんを通して描く短篇集です。
『衣裳係さん』、『百科事典少女』、『兎夫人』、『輪っか屋』、『紙店シスター』、『ノブさん』、『勲章店の未亡人』、『遺髪レース』、『人さらいの時計』、『フォークダンス発表会』の10篇。
いずれの作品にも、死の気配が漂っています。
それは、描かれる物たちが蓄えたかつて誰かの持ち物であったという歴史、それらの物たちを身近に置いたもういない人たちの気配。
そして、それらを今必要とし、愛する人たちも遠からず、この世からいなくなるのですから。
けれど、人はこの世からいなくなっても、愛された、あるいは憎まれた物たちと、それらが秘める語られない物語はそれよりも先の時間まで残っていくのです。たぶん、この薄暗く、静けさに包まれたアーケードも。
誰かとの思い出を愛することも、古いものの静謐さを愛することも、もしかしたら死を愛することなのかもしれないと思ってしまうような物語です。
『小川洋子の偏愛短篇箱』のなかに、著者の少女時代の宝物箱のエピソードがありました。
美しいもの、壊れやすいもの、多くの人がさほど価値を見出さないものや、人によっては気味悪がるものが入っている宝物箱。
このアーケードはまるで、その宝物箱のようです。
必要とする人は確かにいるけれども、決して大繁盛はしない、アーケードの店主たちの情は、愛、じゃなくて、やっぱり「偏愛」。
いかにも、著者らしい雰囲気の作品だったと思います。
いくらコミックが気に入っていても、自分で小説にもしたくなるよねぇ、と勝手に納得してしまいました。
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