ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

マーク・ローランズ【哲学者とオオカミ】

2013-12-01 | 白水社

オオカミという言葉には『白い牙』以来、心惹かれます。

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 哲学者とオオカミ

 著者:マーク ローランズ
 訳者:今泉 みね子
 発行:白水社
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別の生き物と暮らすとはこういうことかと思います。
その存在によって自分が変わるということ。
オオカミの血を濃く持つ仔にブレニンと名付けて一緒に暮らすことにした著者は、その生活の中で様々なことを考えます。
ヒトの中で暮らすことを余儀なくされたブレニンも野生のままではいられませんが、その群れのリーダーとなる著者の生活も思う以上にブレニン中心。
若く、自由な身の上である著者はその生活を楽しんでいますが、その暮らしぶりからは著者はどれほど相棒であるブレニンを愛するようになったかが伝わります。
そして、どれほど人嫌いであるかも。
職業が哲学を教えることである著者は、オオカミと暮らすことによって、そして、その死を看取ることによって、ヒトがどのような存在であるかをつきつめていきます。
著者にかかるとヒトがいかに不誠実な生き物であるかをつきつけられるよう。
けれども、そういう気分がちょっとわかってしまうほど、ブレニンは愛すべき存在として描かれています。
表紙の見返しにある著者と一緒に写った写真をみると、その大きさに驚いてしまいますが。
顔が成人男性である著者の2倍ほど?
その大きさがいかほどであろうとも、著者にぴったりと寄り添うようにして一生を終えたブレニンの著者にとっての存在感は、それをはるかに超えたものです。
もちろん哲学者でなければこういう形では結実はしなかったでしょうけれど、全く異なる存在とともにあることの影響の大きさを思わずにはいられません。
読みやすい文体で、親しみやすいエピソードが並んでいるとはいえ、やはりこれは哲学の本。
サブタイトルは「愛・死・幸福についてのレッスン」。
そのとおり、ブレニンと暮らすことで着想を得ていった著者の考察は人間という存在、人が生きるということの根幹に迫り、がっつりとした読み応えがありました。

その点を抜いても、イヌ好きの方にはたまらないものがあるかも。
いえ、抜きにしないで両方を兼ね備えていることがこの本の魅力なのは重々承知ですが。
だって、ブレニン、かっこいい。しかもかわいいんですよ。

ブレニン


それほど、犬好きじゃないんだけど、憧れるんですよねー。犬との生活。
たまらんなぁ。




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