『イエメンで鮭釣りを』のポール・トーディ。
となれば、ちょっと読んでみたいかも。
ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン
著者:ポール・トーディ
訳者;小竹由美子
発行:白水社
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というわけで、読んでみました。
読みましたが、楽しかったとは、とても言えない作品でした。出来の云々ではなく。
始まりは、ひとりの男性がタクシーを降りてレストランに入る場面。
ミスター・ウィルバーフォース。30代の半ばです。
目的はそのレストランがリストにあげているヴィンテージのワインを飲むことでした。
彼はワインの魅力を語り、味わい、ひとり思い出の中にひたりこんでいきます。
別にそれはかまわないですよね。
ワインを楽しむこと以外のことをしようとはしておらず、たとえ、それが1本3000ポンド、1ポンドは120円くらいらしいですね、そういう価格のワインだろうと、何も無銭飲食しようというわけでなく、彼のポケットにはレストランの支配人を安心させるだけの札束がありそうなのですから。
でも、ほんとうはだめなんです。
彼はその登場からすでに酩酊状態で、読み進めれば進めるほど、もうほんとにだめなのね、と、確認していくことになります。
明らかに、アルコール中毒。
もう、かなり深刻な。
彼がワインを楽しむと、周囲には様々な迷惑をかかり、ウィルバーフォースの命は確実に縮むのです。
そこから、時は順を追ってさかのぼり、現在の彼、ほとんど破産状態のアルコール中毒者である彼に至る過程が語られていきます。
ウィルバーフォースの頭の中をぐるぐるとめぐっていた人名、地名、出来事の断片は、彼にとってどういうものだったのかを読んでいくことは、半ば答え合わせのようなもの。
しかも気の重い…。
皮肉っぽい、乾いた語りで進むページは、ウィルバーフォースのいくつもの分岐点をさかのぼって「あの時」にたどりつきます。
あの時、丘の上に行かなければ?
あの時、彼らに出会わなければ?
あの時、口にしたのがワインでなければ?
ウィルバーフォースの人生の展開は違ったかもしれない?
何より気が重いのは、もし彼らやワインに出会っていなくても、ウィルバーフォースがたどりつく地点に変わりはなかったのではないだろうかと思えてしまうこと。
他の誰かでも、他の何かでも、それを待っていたかのように、堕ちていくんだろうなぁ、と。
堕ちたかったのかも。
そうじゃないと思えるほど、元気のもちあわせが私はありません。
参加しています。地味に…。
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