ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

クレア・キーガン【青い野を歩く】

2011-12-25 | 白水社

読みながら、ずっと緊張していた気がします。

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 青い野を歩く

 著者:クレア・キーガン
 発行:白水社
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文章をひとつたどるたび、からっぽの場所に樹が現れ、風が吹き、風景ができあがる。
それをひとつひとつ確認させるように、簡潔な文章が刻まれていきます。
やがて始まる結婚式。
彼は司祭として花嫁の登場を待っています。
場面が祝宴に移っても、短く刻まれていく文章が持続させる隠しようもない緊張と装われた冷静さ。
やがて、花嫁は彼が愛した女性であることがわかります。
彼と花嫁の間にいたのは、他でもない「神」。
描かれない時間の中で、彼と彼女が抱えた感情はどういったものだったろう、そこにはいかなる「愛」があったろうと考えると、うすら寒いような気にさえなります。
なおも続いた緊張がピークを迎えた後に飛び散る花嫁の首飾りの真珠はこぼれたミルクの粒でもあったでしょうか。
もう何も変えられるものはありません。
ほんとうにもう変えられないのかという苦さを感じながらも、もう変えられないということに、私はどこかで安心したような気がします。
もう力を抜いて哀しんでもいいだろうか。
彼と、花嫁の、それぞれの未来を祈ってもいいだろうか。

あまりに表題作「青い野を歩く」が印象的で美しく、読んでいてなんだかとても疲れたせいか、ほかの作品は相対的に印象が薄れてしまいました。
はい。
『長く苦しい死』は美しい物語を想像させるタイトルですが、いったいなんなの、あなたたち、と眉をひそめた後、ちょっと笑いたくなるような作品でした。
背景が美しい分だけ、妙な可笑しさが増すような。

作品の舞台はアイルランド。
「泥炭」という言葉が出るたびにそれを思い出していましたが、身近ではない私でも、ああ、アイルランドっぽいと思ったのは、最後の「クイックン・ツリーの夜」。
登場する女性、マーガレットの力強さに圧倒されます。

ああ、「森番の娘」の終わりも捨てがたい…。

…こうやって反芻していくと、どれも印象に残ったような…。
不思議な読後感です。




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