木下滋「地域における公共投資の波及効果-地域産業連関表による-」『岐阜経済大学論集』第14巻第3号,1980年9月
筆者は宮本憲一らとの共同論文「公共投資はこれでよいのか」(『週刊 エコノミスト』1979年1月30日号)で大阪府における当時の公共投資の在り方を,産業基盤型(『近畿ビィジョン』,関西新空港建設が目玉)ではなく,生活基盤型に変更すべきこと,そのような施策を講じると生産誘発や雇用効果が高くなることを公にした。本稿はどうしてそのような結果になったのか,その計算プロセスを示すとともに,上記の結論が大阪以外の県でも妥当するのかを検討したものである。
筆者は計算プロセスをフロー・チャート(p.3)で説明している。このフロー・チャートを見ると,建設部門分析用産業連関表(60×46,1970年)が使われていること,規模別産業連関表の推計が行われていること,「近畿ビジョン型投資」と「生活基盤重視型」との2類型の比較がなされていること,大阪府の各産業の自給率によって大阪府内産業発注分をもとめて域内生産誘発効果を測定し,この指標で比較を行っていることがわかる。
推計結果の主要点は,次のとおりである。「1.絶対額では当然「ビジョン型」が生産・雇用の誘発効果は大きいが,(投資総額の差による。[生活基盤型1.9兆円,ビジョン型2.4億円-引用者],1単位当たりで比較すると「生活型」は「ビジョン型」より上まわる。2.防災と空港の比較でも防災が上まわる。3.「生活型」と「防災型」のほうがそれぞれ軽工業,中小企業への波及がより高く,「ビジョン型」は大企業,重化学工業への波及がより高い。したがって,不況克服のための有効需要創出という限られた観点からみても,大規模産業プロジェクト投資を絶対化するのは誤りであり,さらに,雇用問題,中小企業対策,また行きすぎた重化学工業化の是正という産業構造上の問題を考えれば,なおさら,大規模プロジェクトより国民の福祉や生活基盤充実の公共投資を考えるべきである・・・)」(p.8)
なぜ産業基盤優先の「近畿ビジョン型公共投資」より,生活基盤優先の「生活環境防災型投資」のほうが,生産誘発および雇用誘発の効果が大きいのだろうか。そうなった事情は,二つの公共投資の第一次間接効果[(投資額×中間投入率×自給率)/総投資額]と間接生産誘発額(投資額×第一間接効果×逆行列)の値がほとんど変わらないことを見ればわかるように,建設業が投入する原料の割合(中間投入率)とその自給率が公共投資の生産誘発効果に決定的影響を与えているからである。すなわち,「生活環境防災型公共投資」は「近畿ビジョン型公共投資」より,その建設部門で原料構成の府内自給率が高くなるような工事を発注したということである。この傾向は,防災事業と空港建設事業の単独比較でも同様である。
それでは大阪府の分析で明らかになった結論が,他県でも妥当するのだろうか。筆者はこの問いをたて,まず移輸入,中間投入の大きさがこの結論にどの程度の影響を及ぼすかを大分県,秋田県,宮城県,岩手県,熊本県,島根県,広島県,山形県,青森県,北海道,静岡県について一覧し,分析している。次いで,大阪府における生活基盤型と産業基盤型の公共投資を他県の産業連関モデルにインプットし,その結果を分析している。他県とは,宮城県,秋田県,熊本県である。
自給率は全国レベルでは90%以上であるが,地域によっては60-70%,低い地域では50%台である。中間投入率は,静岡県,大阪府,北海道を除くと全て50%以下で,全国レベルより低い。また最終需要に対する生産誘発係数は,全国レベルに比べて地域で低い。最終需要が与えられても間接効果が10%に満たないケースが多い。公共投資の生産誘発係数はどうであろうか。建設部門の投入係数で公共投資のそれに代位させた数字が,府県別に一覧されている(公共投資の対象という場合,その中身は建設部門と土木部門とに大別されるので,この代位は便宜的な手段である。筆者はこの代位が適切でないことに,後段で言及している)。投入係数の大きい部門の自給率の大小は,生産誘発の大小に大きな影響を与える。秋田県,宮城県では,昭和45年から50年にかけ,生産誘発効果の低下が見られる。秋田県の生産誘発効果の低下は,「製材・家具」「窯業・土石」「非鉄金属・金属製品」の自給率低下の影響が大きい。宮城県では部門ごとの自給率の変化はあまりないが,中間投入率が落ち込んでおり,この影響が大きい。
筆者は最後に,大阪府における生活基盤型と産業基盤型の公共投資を宮城県,秋田県,熊本県の産業連関モデルにインプットし,効果を検証している。この設定自体がかなり強引な試みであるが,それはさておいて,推計の結果は熊本県以外で,生活基盤型で自給率,生産誘発効果が産業基盤型のそれを上回っている。このような結果になったのは,大阪府の産業基盤型公共投資が原材料の発注を「鉱業」「石炭・石油」という自給率の低い産業により多く,生活基盤型公共投資が「金属」という自給率の高い産業により多く発注しているのに対し,熊本県の産業基盤型公共投資が自給率の高い「鉱業・運輸」の投入が多く,生活基盤型公共投資が自給率の低い「製材・家具」「窯業・土石」「非鉄金属・金属製品」などの投入が低いからである。この結果,熊本県では大阪府と同じ投資を行うと産業基盤型公共投資のほうが自給率の高い産業からより多く,自給率の低い産業からより少なく投入し,それゆえに生産誘発効果が産業基盤型で高くなったのである。
結論。「公共投資の効果は産業活動,特に工業や第三次産業の盛んなところでは効果が高いが,そうでない所では,低くなり,かえって移入を通じて他府県,特に工業,第三次産業の発達した府県への波及を活発にする。また,生産基盤投資は概して建築の比重が高く,したがって鉄鋼,非鉄金属,金属製品,機械,セメント,製材・家具への発注が高くなり,産業基盤型投資は,概して,土木の比率が高く,鉱業,運輸,石炭・石油などへの発注が高くなり,鉄を除けば生活基盤型投資の方が都市型,高加工型産業によく波及するが,波及効果全体の大きさは,その県でどの産業が盛んであるかによって違い,一概にいえない」(p.65)。
筆者は宮本憲一らとの共同論文「公共投資はこれでよいのか」(『週刊 エコノミスト』1979年1月30日号)で大阪府における当時の公共投資の在り方を,産業基盤型(『近畿ビィジョン』,関西新空港建設が目玉)ではなく,生活基盤型に変更すべきこと,そのような施策を講じると生産誘発や雇用効果が高くなることを公にした。本稿はどうしてそのような結果になったのか,その計算プロセスを示すとともに,上記の結論が大阪以外の県でも妥当するのかを検討したものである。
筆者は計算プロセスをフロー・チャート(p.3)で説明している。このフロー・チャートを見ると,建設部門分析用産業連関表(60×46,1970年)が使われていること,規模別産業連関表の推計が行われていること,「近畿ビジョン型投資」と「生活基盤重視型」との2類型の比較がなされていること,大阪府の各産業の自給率によって大阪府内産業発注分をもとめて域内生産誘発効果を測定し,この指標で比較を行っていることがわかる。
推計結果の主要点は,次のとおりである。「1.絶対額では当然「ビジョン型」が生産・雇用の誘発効果は大きいが,(投資総額の差による。[生活基盤型1.9兆円,ビジョン型2.4億円-引用者],1単位当たりで比較すると「生活型」は「ビジョン型」より上まわる。2.防災と空港の比較でも防災が上まわる。3.「生活型」と「防災型」のほうがそれぞれ軽工業,中小企業への波及がより高く,「ビジョン型」は大企業,重化学工業への波及がより高い。したがって,不況克服のための有効需要創出という限られた観点からみても,大規模産業プロジェクト投資を絶対化するのは誤りであり,さらに,雇用問題,中小企業対策,また行きすぎた重化学工業化の是正という産業構造上の問題を考えれば,なおさら,大規模プロジェクトより国民の福祉や生活基盤充実の公共投資を考えるべきである・・・)」(p.8)
なぜ産業基盤優先の「近畿ビジョン型公共投資」より,生活基盤優先の「生活環境防災型投資」のほうが,生産誘発および雇用誘発の効果が大きいのだろうか。そうなった事情は,二つの公共投資の第一次間接効果[(投資額×中間投入率×自給率)/総投資額]と間接生産誘発額(投資額×第一間接効果×逆行列)の値がほとんど変わらないことを見ればわかるように,建設業が投入する原料の割合(中間投入率)とその自給率が公共投資の生産誘発効果に決定的影響を与えているからである。すなわち,「生活環境防災型公共投資」は「近畿ビジョン型公共投資」より,その建設部門で原料構成の府内自給率が高くなるような工事を発注したということである。この傾向は,防災事業と空港建設事業の単独比較でも同様である。
それでは大阪府の分析で明らかになった結論が,他県でも妥当するのだろうか。筆者はこの問いをたて,まず移輸入,中間投入の大きさがこの結論にどの程度の影響を及ぼすかを大分県,秋田県,宮城県,岩手県,熊本県,島根県,広島県,山形県,青森県,北海道,静岡県について一覧し,分析している。次いで,大阪府における生活基盤型と産業基盤型の公共投資を他県の産業連関モデルにインプットし,その結果を分析している。他県とは,宮城県,秋田県,熊本県である。
自給率は全国レベルでは90%以上であるが,地域によっては60-70%,低い地域では50%台である。中間投入率は,静岡県,大阪府,北海道を除くと全て50%以下で,全国レベルより低い。また最終需要に対する生産誘発係数は,全国レベルに比べて地域で低い。最終需要が与えられても間接効果が10%に満たないケースが多い。公共投資の生産誘発係数はどうであろうか。建設部門の投入係数で公共投資のそれに代位させた数字が,府県別に一覧されている(公共投資の対象という場合,その中身は建設部門と土木部門とに大別されるので,この代位は便宜的な手段である。筆者はこの代位が適切でないことに,後段で言及している)。投入係数の大きい部門の自給率の大小は,生産誘発の大小に大きな影響を与える。秋田県,宮城県では,昭和45年から50年にかけ,生産誘発効果の低下が見られる。秋田県の生産誘発効果の低下は,「製材・家具」「窯業・土石」「非鉄金属・金属製品」の自給率低下の影響が大きい。宮城県では部門ごとの自給率の変化はあまりないが,中間投入率が落ち込んでおり,この影響が大きい。
筆者は最後に,大阪府における生活基盤型と産業基盤型の公共投資を宮城県,秋田県,熊本県の産業連関モデルにインプットし,効果を検証している。この設定自体がかなり強引な試みであるが,それはさておいて,推計の結果は熊本県以外で,生活基盤型で自給率,生産誘発効果が産業基盤型のそれを上回っている。このような結果になったのは,大阪府の産業基盤型公共投資が原材料の発注を「鉱業」「石炭・石油」という自給率の低い産業により多く,生活基盤型公共投資が「金属」という自給率の高い産業により多く発注しているのに対し,熊本県の産業基盤型公共投資が自給率の高い「鉱業・運輸」の投入が多く,生活基盤型公共投資が自給率の低い「製材・家具」「窯業・土石」「非鉄金属・金属製品」などの投入が低いからである。この結果,熊本県では大阪府と同じ投資を行うと産業基盤型公共投資のほうが自給率の高い産業からより多く,自給率の低い産業からより少なく投入し,それゆえに生産誘発効果が産業基盤型で高くなったのである。
結論。「公共投資の効果は産業活動,特に工業や第三次産業の盛んなところでは効果が高いが,そうでない所では,低くなり,かえって移入を通じて他府県,特に工業,第三次産業の発達した府県への波及を活発にする。また,生産基盤投資は概して建築の比重が高く,したがって鉄鋼,非鉄金属,金属製品,機械,セメント,製材・家具への発注が高くなり,産業基盤型投資は,概して,土木の比率が高く,鉱業,運輸,石炭・石油などへの発注が高くなり,鉄を除けば生活基盤型投資の方が都市型,高加工型産業によく波及するが,波及効果全体の大きさは,その県でどの産業が盛んであるかによって違い,一概にいえない」(p.65)。