玉木義男「物価指数の算式論(第2章)」『物価指数の理論と実際』ダイヤモンド社, 1988年
種々の物価指数算式の流れを記述している。系譜の記述は, 大きく分けて, ふたとおりありうる。一つは, その系譜を, 評価をくわえず, 祖述するやり方である。もう一つは, 何らかの評価基準をもって, 構成的に説明する方法である。本稿は, どちらかというと前者であり, 筆者の評価基準がきわだっていないので, 不満が残る。しかし, そうは言っても, よく読むと控えめではあるが, 価格指数算式の形式的数理的な系譜よりは, その経済理論的な系譜を支持しているようにうかがえる。
筆者の叙述にしたがって, 指数算式の系譜を整理すると以下のようになる。まず, 物価指数否定論と肯定論とが区分され, 前者の代表がピアソンであり, 他にロンジ, ヴィクセルがいた。後者はエッジワースなど多くの論者の立場である。
次に指数の算式で, 算式単数論者と算式複数論者との区分が与えられている。前者には, ボーレー, ウォルシュ, ピグー, フィッシャーなどが属する。後者では, 指数算式の目的別に, 貨幣単位の価値の単位の測定, あるいは不特定の貨幣の購買力の測定手段としての貨幣価値指数を, 特定された貨幣の購買力を測定する手立てとしての費用指数を唱えるものとで分かれる(物価指数の2分法)。ケインズは, この2分法を否定し, 本来の意味での貨幣購買力指数を提唱した。
その後, フリッシュが物価指数論を「原子論的アプローチ」と「関数論的アプローチ」という新しい基軸で整理しなおした。「原子論的アプローチ」は, 種々の商品の価格, 数量を2組の独立な変数とみなし, 価格の一般的変動を最も適切に表現するような, これら2つの変数をもつ関数を形式的基準で定義する方法である。この系譜には, 確率論的アプローチや形式的テストの分野で業績があるが, 現在ではどちらも指数論を形式的な側面から構成するものとして評価は低い。形式的理論では, 物価指数の算式の決定や物価水準の定義の問題は解決できない。これに対し, 「関数論的アプローチ」は価格と数量との相互依存関係を前提にする方法で, その関係に指数の経済理論的意味を考えようという方法である。その理論は, 通常, 消費者選好の理論である。この分野での研究方向は2とおりあり, 一つは「限界値論」であり, もう一つは「近似値論」である。「限界値論」は, 「真の指数」の位置を正確に決定するのではなく, 指数の含まれる上限または下限の値をもとめて間接的に確定しようとする方法である。これに対し「近似値論」は, 物価指数の算式を近似式で決定することを意図した理論である(ボーレー, ワルト, フリッシュ, ステーレ)。
以上, 物価指数論の大枠は1930年代にほぼ確立した。フリッシュが示した2つの接近法の区分は, いまでも生きている。その後, 「原子論的アプローチ」の系譜に形式的統計的接近法が, 「関数論的アプローチ」の系譜に経済理論的接近法がある。筆者は前者の系譜には否定的である。後者については, 消費者行動の実際にあてはまると考えられる効用関数を先験的に想定し, 観察可能なデータからパラメータを推定し, 効用関数を確定したうえで(コブ=ダグラス型効用関数など), その効用関数に整合的な理論生計費を計算するというものと, 効用関数の特定化を避け, 間接的に, 実際に測定された価格と数量とから理論生計費指数のとりうる範囲を限定するものとがある(古くはコニュース, ハーバラー, ステーレ, 最近ではアフレート)。筆者は効用関数の特定化は無数であり, 一意に最良の形式の効用関数の確定は難しい, 関数の形が簡単であれば非現実的制約が多くなり逆に制約の少ない関数ほど非現実的でも形が複雑になって実践的処理が困難になる, したがって, 実際には資料収集や計算の簡単なラスパイレス型の算式が使われがちである, としている。
筆者は最後に, 物価指数論のなかで特異な性格をもつディビジア指数を紹介している。1925年にフランスのディビジアによって開発された指数であるが, 近年では連鎖基準方式の物価指数との関連で注目されている。ディビジア自身は, その指数を, 数学的形式性から導出したが, 後にロイがこの指数を消費者選好の理論と結びつけたという経緯がある。
以上, 筆者は形式的統計的接近法, 経済理論的接近法, ディビジア指数を概観した後に, 実際にはこれらの物価指数論が要求する指数とは無関係に, 形式的に簡単で, 計算がわずらわしくない指数が作成されていると, 妥協的に, かつ傍観者的に結論付けを行っている。
種々の物価指数算式の流れを記述している。系譜の記述は, 大きく分けて, ふたとおりありうる。一つは, その系譜を, 評価をくわえず, 祖述するやり方である。もう一つは, 何らかの評価基準をもって, 構成的に説明する方法である。本稿は, どちらかというと前者であり, 筆者の評価基準がきわだっていないので, 不満が残る。しかし, そうは言っても, よく読むと控えめではあるが, 価格指数算式の形式的数理的な系譜よりは, その経済理論的な系譜を支持しているようにうかがえる。
筆者の叙述にしたがって, 指数算式の系譜を整理すると以下のようになる。まず, 物価指数否定論と肯定論とが区分され, 前者の代表がピアソンであり, 他にロンジ, ヴィクセルがいた。後者はエッジワースなど多くの論者の立場である。
次に指数の算式で, 算式単数論者と算式複数論者との区分が与えられている。前者には, ボーレー, ウォルシュ, ピグー, フィッシャーなどが属する。後者では, 指数算式の目的別に, 貨幣単位の価値の単位の測定, あるいは不特定の貨幣の購買力の測定手段としての貨幣価値指数を, 特定された貨幣の購買力を測定する手立てとしての費用指数を唱えるものとで分かれる(物価指数の2分法)。ケインズは, この2分法を否定し, 本来の意味での貨幣購買力指数を提唱した。
その後, フリッシュが物価指数論を「原子論的アプローチ」と「関数論的アプローチ」という新しい基軸で整理しなおした。「原子論的アプローチ」は, 種々の商品の価格, 数量を2組の独立な変数とみなし, 価格の一般的変動を最も適切に表現するような, これら2つの変数をもつ関数を形式的基準で定義する方法である。この系譜には, 確率論的アプローチや形式的テストの分野で業績があるが, 現在ではどちらも指数論を形式的な側面から構成するものとして評価は低い。形式的理論では, 物価指数の算式の決定や物価水準の定義の問題は解決できない。これに対し, 「関数論的アプローチ」は価格と数量との相互依存関係を前提にする方法で, その関係に指数の経済理論的意味を考えようという方法である。その理論は, 通常, 消費者選好の理論である。この分野での研究方向は2とおりあり, 一つは「限界値論」であり, もう一つは「近似値論」である。「限界値論」は, 「真の指数」の位置を正確に決定するのではなく, 指数の含まれる上限または下限の値をもとめて間接的に確定しようとする方法である。これに対し「近似値論」は, 物価指数の算式を近似式で決定することを意図した理論である(ボーレー, ワルト, フリッシュ, ステーレ)。
以上, 物価指数論の大枠は1930年代にほぼ確立した。フリッシュが示した2つの接近法の区分は, いまでも生きている。その後, 「原子論的アプローチ」の系譜に形式的統計的接近法が, 「関数論的アプローチ」の系譜に経済理論的接近法がある。筆者は前者の系譜には否定的である。後者については, 消費者行動の実際にあてはまると考えられる効用関数を先験的に想定し, 観察可能なデータからパラメータを推定し, 効用関数を確定したうえで(コブ=ダグラス型効用関数など), その効用関数に整合的な理論生計費を計算するというものと, 効用関数の特定化を避け, 間接的に, 実際に測定された価格と数量とから理論生計費指数のとりうる範囲を限定するものとがある(古くはコニュース, ハーバラー, ステーレ, 最近ではアフレート)。筆者は効用関数の特定化は無数であり, 一意に最良の形式の効用関数の確定は難しい, 関数の形が簡単であれば非現実的制約が多くなり逆に制約の少ない関数ほど非現実的でも形が複雑になって実践的処理が困難になる, したがって, 実際には資料収集や計算の簡単なラスパイレス型の算式が使われがちである, としている。
筆者は最後に, 物価指数論のなかで特異な性格をもつディビジア指数を紹介している。1925年にフランスのディビジアによって開発された指数であるが, 近年では連鎖基準方式の物価指数との関連で注目されている。ディビジア自身は, その指数を, 数学的形式性から導出したが, 後にロイがこの指数を消費者選好の理論と結びつけたという経緯がある。
以上, 筆者は形式的統計的接近法, 経済理論的接近法, ディビジア指数を概観した後に, 実際にはこれらの物価指数論が要求する指数とは無関係に, 形式的に簡単で, 計算がわずらわしくない指数が作成されていると, 妥協的に, かつ傍観者的に結論付けを行っている。