安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

桜鯛

2006年04月28日 | 小噺
 片仮名のトの字に一の引きようで上になったり下になったりと言いまして、
片仮名のトという字、これの下に一を引きますと上という字になる。
逆に上に引くと、下という字になります。
つまり、下々の者には身分のある方の暮らしは分からない。
あべこべに身分のある方は下々の暮しがわからないという事なんでしょうか。
食べ物などでもそうです。
我々庶民から見ますと、昔のお殿様という者はさぞおいしい物を召し上がっいただろうと思いますが、実際はそうではありませんでね。
確かに高価なものかもしれませんが、身体に毒だからってんで、蒸して油をとって、のどに刺さらないように骨を毛抜きで一本一本抜いた鯛の尾頭付きが膳部に並んだって言います。
ところが、これ毎日出されますからお殿様も飽きてしまいまして、大概一箸付けて、後はもうお食べにならないというわけで・・・
あるお殿様、その日はどういうわけですか、鯛の尾頭付き、二箸三箸お付けになりますと、
「美味である。代わりを持て」
代わりを持てと言いましてもね、普段は一箸しか付けないんですから代わりなど焼いておりません。
「いかがいたした?代わりを持て」
「ははー」
仕方がないんで三太夫さん、とっさの機転というやつで、
「殿に申し上げます」
「なんじゃ」
「庭の泉水が脇に植えましたる桜、満開の折には見事であろうと臣等(シンラ)一同心待ちにしております」
「ほう、左様か」
ってんで、お殿様が桜を見ている隙に三太夫さん、鯛の頭と尻尾を持ってくるっと裏返しました。
「持参いたしましてございます」
「おう、来ておったか」
ってんで、二箸三箸付けまして、
「美味である。代わりを持て」
今度は困りました。裏返すってぇと元の粗が出ちゃうんですから。
さすがに三太夫さん、まごまごしておりますと、
「三太夫、いかがいたした?代わりはまだか?ならば、余がもう一度桜を見ようか」

コメント
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