蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

瓶の中の手紙

2015-08-26 19:25:33 | 日記
 父の一周忌が終わって一週間たったころに、手紙が届いた。宛名は確かに父宛になっているが、とてもたどたどしい字だ。差出人は・・と裏返すと、これが解らない。一応大学は出ていて、なぜあんな点数で卒業できたかわからないけれど、ドイツ語をとっていたので、英語でもない、ドイツ語でもないことは解る。

 車で一時間ほどのところにある大学へ行って訊ねてみたら、ロシア語だと言いう。頼み込んで訳してもらった。

 「あなたからの手紙を受け取りました」

 なに、父にはロシアに愛人がいたのか・・・?

 「海岸を散歩していて、偶然、ビンを見つけ、中に何か入っていることに気がつきました」

 あ、なーるほど。へぇ、オヤジも中々洒落たことをやったんだ。

 「ビンの中の手紙を取り出しましたが、なにが書いてあるかわかりませんでした。車で、三時間ほどのところにある大学で調べてもらったら、日本語だという事が分かりました」

 同じような事をやっとるなぁ。しかし三時間とはご苦労様。

 「大学の先生に訳して貰ったら、『この手紙を受け取ったら、返事を下さい。返事をくれないとあなたを不幸が襲います』と書いてありました」

 わっ、恥ずかしい・・・。よりによって不幸の手紙・・。

 「私は不幸になりたくないので、返事を書きます。私が住んでいるところは、海の近くの中くらいの街です。冬は長いけれど、春になると一斉にいろんな花が咲いて、天国のようになります」

 あー、行ってみたいなぁ。

 「手紙の日付を見たら、1945年8月20日と書いてありました。ずいぶん長い間、このビンは旅をしてきたのですね」

 1945年・・・70年前・・・オヤジがまだ若い頃かぁ。

 「とても偶然とは思えません。70年も経っていますが、あなたが元気で暮らしておられることを祈っています」

 写真が同封されていた。二人の女性が写っている。一人はかなり高齢の方。横にいるのは、お孫さんかな。まるで妖精みたいだ。高齢の方がピースサインをしていて、手にビンを持っている。

 こうなったら、何かの御縁だ。休暇を取って行ってみよう。早くいかないと、残念ながら・・なんてことになると大変だ。

 えーっと、何のビンだ・・・・「征露丸」・・・。