蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

兄弟

2015-08-25 18:47:17 | 日記
 弟は私と違って行動的だった。その日も、二人で歩いていたのに、私をおいて走り出して、角をまがった。ついて行くと、一軒の家の前に弟は立っていた。

 父や母とはぐれてしまってからはずっと二人で生きてきた。食事も、私と二人で分け合ってきた。
 食べ終わってしまった弟は、少しづつ少しづつ食べていた私の手元を見る。私はどうしても私の食べかけを半分に割って弟にやらねばならなかった。だけど、弟の幸せそうな食べ方を見ていて、私も幸せだった。
 
 雨宿りをしているのかなと思った。小雨がしとしと降っていたから。
 家の住人が帰ってきた。ドアの右手にいた弟を見つけると、弟の方に近付いて行った。私は、弟を救うために、走り出そうとしたけれど、足がすくんで動けなかった。情けない兄だ。
 
 近付いてきた住人に対して、弟は小さな声で呼びかけた。住人は腰をかがめて、弟を抱きあげて家に入って行った。
 どうしよう。弟がさらわれてしまった。何とかならないのだろうか。家の周りをうろうろした。そのうちに、聞きなれない声が聞こえた。家の中から、野太い、威嚇するような声が聞こえる。弟に何かあったんだろうか。しかし何にも出来ない。威嚇するような声はしばらく続いたが、そのうちに止んだ。

 夜になったので、いったんねぐらに帰り、一人で寝た。いつもは弟がすぐそばで寝息を立てているのにと思うとなかなか寝付けなかった。
 朝になった。住人が出てきた。弟がだっこされている。毛がきれいになっていて、眼脂も取ってもらっている。甘えた声を出している。
 住人が私の方に近付いてきた。私は必死で逃げた。

 それから後、何度か弟の姿を見た。出窓のところから私に気がついて、声をかけたり、手を振ってくれた。こっちへおいでよ、と言ってくれているのは分かっている。でも、どうしても足が動かない。恐怖心の方が勝ってしまう。同じ兄弟なのになぜこうも違うのか・・・。
 弟には弟の幸せがある。私には私なりの幸せがある。

 もう、この家の周りをうろつくのはやめよう。